ユ:従魔用品店
感想にてお見舞いのお言葉ありがとうございました。
インフルエンザの予防接種戦は、最高で39度台を記録する大盛り上がりを見せ、なんとか2日で熱は下がりました。
予防接種でこれなんですから今年のインフルはヤバそうです……皆さんもお気をつけて。
とりあえず持ち直しはしたんですが、明日も投稿はお休みします。
ゲーム内朝食を済ませたら出かける準備をする。いつものルーチンだ。
今日の俺達は、チーム・ベラドンナを連れて従魔用品店に行くわけだが……一応森夫婦スタイルで行くか。変装用の装備に切り替えて、アルファを抱き上げる。
「チームはとりあえずアルファだけ連れて行く感じ?」
「うん、必要そうならあっちで呼ぶ」
キーナは猫幻獣のクロを呼び、いそいそと体をよじ登って来たのを抱き上げた。
「買い物したら1回戻って来るもんね?」
「うん」
飴玉の提供は久しぶりにリンゴ屋なんかをやりながら検証勢を待つ予定だ。
チーム・ベラドンナだのクロだのを連れてそれをやるとどっちも暇を持て余すかもしれないから、買い物を済ませたら一度戻る。
「準備オッケー」
「じゃあ行くか」
転移オーブでピリオノートへ。
時刻はNPCの通勤時間。
街の大通りは仕事場へ向かうNPCが多く歩いている。
リアルだったら店はまだ開いていない時間帯だが、ゲームはプレイヤー基準だから店主がプレイヤーで本腰を入れてやっている店は24時間営業が多い。日勤と夜勤のNPCをそれぞれ雇って対応しているらしい。
従魔用品店もその口だ。
プレイヤーが狩りに向かう前に寄っておきたい店らしいから、ログインが多いゲーム内早朝にも対応出来るようにしているんだろう。
人混みにぶつからないように、1本裏の路地を歩く。
……すると、ケラケラ、キャラキャラ、と無邪気な笑い声のような音が、誰もいないのにすれ違った。
そして、その声を追いかけるようにフードを目深に被ったマント姿の誰かが、路地に駆け込んで来た。
「……チッ、なんだったんだ……」
ドスの効いた声でそう呟いた誰かは、俺達には目もくれずに路地を出ていった。
……マントの隙間から、獣の尻尾がチラリ。
(ビックリしたー)
(……獣人だったな)
(え、マント被った獣人に良い印象が無いんですが。キャトナちゃんの夢的な意味で)
(それな)
アルファを頭に載せて、両手で作るコンコン窓のおまじない。
それを声が向かった方へと向ける。
……ああ、やっぱりな。
窓の中では、前に露店本屋の所で見たアヤカシが数体、自慢げな顔で手を振っていた。
* * *
路地を抜けて、プレイヤー街へ。
プレイヤー街も家が増えて店と民家が入り混じってきたからか、案内板がそこかしこに増えた。
従魔用品店も案内板に書かれていたから、それを頼りに街を歩く。
(あ、ここじゃない?)
(……ここだなぁ)
近くまで来れば一目瞭然。
装備を身に着けた犬とスライムの像が置かれて、ドラゴンの描かれた看板がかかっている店があった。
声変わりシロップを飲んで……よし、24時間営業だな。
キーナが先頭で店の扉を開ける。
カランカラン──と軽やかなドアベルの音がして……
「いらっしゃいませー」
奥から出てきたのはエルフの女性だった。
「本日は何かお探しですか?」
「えーっと、草なのか狼なのかわかんない子を従魔にしたので、どんなご飯が好きかなーと……あとこっちの子も……」
「ああ、フードの試食をご希望ですね!」
こちらどうぞー、と促されるままついて行く。
店は背の高い棚が並び、色んな従魔用のグッズが並べられている。リアルのペット用品店を、少しファンタジー寄りにしたような品揃えだ。
店員の女性は慣れた手付きで餌皿を数個並べると、棚から袋をいくつか引っ張り出した。
「一般的な獣っぽい子でしたらこの辺ですねー……お肉メインと、これがお魚メイン。植物の要素の方が強いようでしたら……こっちの栄養水か、骨粉を混ぜた油かすですとか……」
少量ずつ入れられた皿を前に、アルファとクロはフンフンと楽しそうな顔で鼻を鳴らす。
クロは早々に肉と魚を試食して……プイッと背を向けて棚に並んだ『まっしぐらチューブ』の所へ行った。
「ニャア〜」
「んー、クロちゃんはチューブの方が好きかぁー」
「あらあら。そちら確か結晶の猫幻獣さんですよね? 他にも店にお連れになる方いらっしゃいますけど……やっぱりチューブがお好きなんですねー」
ああ……他の契約者もここに連れて来てるんだな……そして皆チューブを推すのか。キーナが一番最初に本体にチューブを食わせたから、契約個体はみんなチューブ知ってるもんな……
結局クロの分は、まっしぐらチューブのシリーズをひと通り購入して終わった。
そして肝心のアルファの方は……どれもぺろりと食べはするが、特に大喜びではしゃぐような様子は無かった。
「何でも食べる良い子ですねー。でも好物ではなさそう、何か変わった特性のある子なのかしら?」
「……えっと、元が毒草です」
俺が簡潔にそう言うと、店員は「ああ!」と納得したように手をポンと叩いた。
「なるほど、それなら簡単です。強い毒を武器にする子は、毒を食べるのが大好きなんですよー」
「え」
「……毒?」
「はい、それも毒性が強ければ強いほどお好きみたいで」
それ大丈夫なのか?
そんな俺達の心配が態度に出ていたのか、エルフの店員は苦笑いしながら……ドクロマークのついた袋と、薬の小瓶をひとつずつカウンターの裏から取り出した。
「こちら毒入りフードで、こちらがその毒の解毒剤です。試してみますか?」
「……えっと、じゃあ……ほんの、少しだけ……」
「はい、ひとかけらだけにしますねー」
専用らしいドクロマーク付きの皿が用意され、そこへコロンと青汁のような色をしたフードがひとかけら。
……変化は明らかだった。
匂いを嗅いだアルファのテンションが爆上がりした。
息は荒くなり、尻尾は千切れんばかりにブンブンと振り回され、皿を床に置こうとする店員の周りをグルグルグルグルと回る回る。
皿を置いた……と思った瞬間にはもう毒入りフードはアルファの口の中へと消えていた。
「……美味しい?」
「キュウン!」
うん、美味いらしい。
「やっぱりそうなんですねー。今の所、こういうタイプの子が毒に負けたって話は聞かないので……お客様、冒険者の方ですよね? 冒険先で見つけた毒物をオヤツに持ち帰ってあげたら喜ばれると思いますよ」
「「……なるほど」」
(……まぁ、冒険に行くまでもなく、庭に大好物あるよね)
(……なんかあったっけ?)
(デスポテト)
(……ああ、デスポテトな……)
とりあえず普段用に毒入りフードをまとめ買いして……帰ったらデスポテト見せてみるか。
……なお結果は、予想通りの仔狼フィーバーが見られたとだけ言っておこう。




