キ:もうすぐ春ですね
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敵対組織のひとつ、ブラッドレッド・カルトが倒されて、直後のエフォ内では色んな事が起きた。
まず、強奪された石板を取り戻した事によって、プレイヤーにヴァンパイア系の種族が解禁された事。
新聞によると、翻訳した石板には『噛み付いて血を吸うヴァンパイアから、さらに高貴なる種族へと我々は至った』みたいな事が書いてあったらしい。
それが『ローゼン・ヴァンピーレ』
直接噛みつかなくても、与えた傷口から生命力を薔薇の形に咲かせてそれを食べる。そんな優雅な戦い方が出来るようになったから、どこかの世界の石板を作った人達は『直に噛みつくなんてお下品ですわ』みたいな認識になったって話らしい。
直に吸血するロマンもあるとは思うけどね。全年齢版でNPCにもセクハラNGなエフォではダメって事かな。
薔薇を使う絵面はとっても厨二病にクるものがあるから、デミ・レイスになってなかったら少しやってみたかったかも。
昼間のデバフは辛そうだけど、血の色をした薔薇をジャンジャン咲かせて戦うのはカッコよさそうじゃんすか。ゴシックな黒い服着るしかない。
まぁ、今となってはデミ・レイス気に入ってるからいいんだけどね。
で、相棒が保護したヴァンパイアにされた被害者NPCシンドラルさんは、家族やお城と相談した結果、元に戻るんじゃなくローゼン・ヴァンピーレになる道を選んだみたい。
っていうのも、そのNPCさんは貴族の次男坊だったらしくて、新種族第一号になって新しい家を興すのに前向きだったのだ。
いわばこの世界での開祖だもんね。
目下、一緒にローゼン・ヴァンピーレになってくれるお嫁さん募集中なんだって。
プレイヤーがローゼン・ヴァンピーレになりたい場合は、このシンドラルさんを訪ねれば儀式をしてくれる。
「今回の件で社会的地位を上げたヤーンボールシープ愛好会とも仲が良いから後ろ盾も少し安心?なんだって」
「……安……心……?」
次に、春のイベントの告知。
1周年記念アニバーサリーの長期イベントが4月にありますよーっていうお知らせがあった。
内容は、まず、日ノ出桜の都から桜の木が贈られたので、それをピリオノートにも植えて花祭りが開催される事。
日本製のオンラインゲームだからね、とりあえず春はメインの街に桜が咲くよね。
そして日ノ出桜の都の方では、去年と同じように大街道の敷設イベントをするらしい。
この為に、期間限定転移は春のイベント終了までが期間なのかな。
今の段階で発表された内容はこの2つ。
これ以外にも色々あるらしいからお楽しみに!って公式告知ページには書かれていた。
「桜楽しみだねぇ。苗木とか手に入りそうなら拠点にも植えたいかも」
「あるといいな」
そして次に……【鏡魔法】がナーフされました。
どうも僕が捕まえたNPCをポイポイ放り込んで連れて帰ってたのがちょっと便利過ぎたみたい。
「インベントリが増えるタイプの獣人の優位性が完全に無くなる案件だったらしい」
「そんな獣人いたんだ?」
「カンガルーとかリスとか」
「へぇー!」
まぁバランス調整は大事だから仕方ないね。
鏡に【鏡魔法】で何かを入れると、入れている間ずっとMPが消費される仕様になったみたい。
特に生き物を入れるとゴリッと減るから、捕まえた敵を連れて帰るのにはもう使えない。
前の鏡ダンジョンみたいに、元々何かが入れられている鏡はかなり貴重なアイテムって扱いになり、そういう鏡に入る場合は突入者の人数や数に応じて、中へ通した【鏡魔法】の使い手にMP消費がかかる事になった。
どっちもMPが切れると、そのMPを使って中に入れていたヒトや物はポイッと外に吐き出される。
「合わせ鏡とか何処までも進もうとするプレイヤーが多かったから、それを抑制する意味もあるんだろうってさ」
「あー、なるほどねー」
合わせ鏡とか僕は絶対にノーセンキューだけどね……皆よく怖くないなぁ……
ゲーム全体の動きとしてはこんな感じ。
あと、僕らの個人的な事としては……お城からお手紙がやってきた。
中を開けてみると……魔術師団長さんからの物もあったけれど、メインは勝利の女神の聖女さんからのお手紙だった。
簡単に言うと、『たくさん敵対NPCを捕まえてくれてありがとうございました』って内容。
まだ表に出ずに動きたいから、ヴァンパイアカルト討伐は騎士団長さんが現場指揮を取ったけれど、情報収集は勝利の聖女さんが指揮を取っているらしい。
で、僕らが捕まえた死霊魔法使いの組織は……組織というよりも、同盟的な集まりらしいって事が分かった。
死霊を拘束・服従させる術を得た死霊使い達は、『全てのヒト族は死後に自分たちの奴隷となるべきもの』って認識しちゃって、『すなわち自分達こそが世界の覇者である』なんて考えで突き進んでるらしい。単純だなぁ。
で、いくつかある派閥のトップがそれぞれ不死爵を名乗って、我こそが不死王になろうと頑張っている、と。
うーん、迷惑!
「つまり……こいつらはヴァンパイア組織みたいに本拠地があるんじゃなくて、あちこちの派閥を全部潰さないとダメって事かな?」
「かもしれない」
わーお、面倒!
……そんな感じでお手紙を読んでいたら、ひとつ肝心な事を思い出した。
「あ」
「どうした?」
「……僕らってさ、前に僕が夢の中で見た、怪しい敵っぽい錬金術士の事、お城で報告したっけ?」
「……あ」
攫われた話はしたけど、そもそものきっかけになった城に向かってた理由を話すの忘れてた!!




