ユ:神社参拝
俺達がひと通り店をまわったあたりで、転移広場の方が騒がしくなってきた。
襲撃を片付けたプレイヤー達が戻ってきたのかもしれない。
「混んでくる前に神社にお参り行っちゃおうか」
「そうだな」
神社があるって話を買い物ついでにNPCに聞いたから、そこは寄るつもりだった。
リアルの初詣みたいな混み方になると面倒だからな、ヒトが戻る前に行っておこう。
欲しい物は買ったし、城はピリオと同じで用事が無ければ入れないから観光は出来ない。酒とボードゲームを楽しむ場所らしい繁華街は特に興味無い。
だから、神社に参った後は撤収しても構わない。
神社は、城がある高台の隣にある竹林の奥だ。
街並みを通過して竹林へ近付くと、朱塗りの鳥居が姿を見せる。
一礼してくぐると……スッと街の雑音が遠退いたように感じた。
「あー、いいねぇ。神社の敷地って不思議と静か」
「だな」
雪でうっすらと白くなっている幻想的な竹の森を進む。
ザワザワと風で笹竹が揺れる音の中に、俺達が雪の道を踏みしめる音がリズミカルに響いた。
道は緩やかなカーブを描き、等間隔に並ぶ灯籠をいくつか通過して……二の鳥居が見えてくる。
その先に、かなり立派な神社の社があった。
「「おおー」」
思わず感心の声がハモる。
神社だ。
どう見ても立派な神社だ。
これもプレイヤーが作ったのか……クランで作ったっていうから、神社ガチ勢とかがメンバーにいたのかもしれない。それくらいには、公式になるもの頷ける完成度だ。
二の鳥居をくぐれば、広い敷地に注連縄を巻いた大木や手水舎も見えた。
「……ここって何の神様祀ってるんだろ?」
「……さぁ?」
神社は無人ではなく、神職らしき袴姿のヒトが何人かいたので、キーナが巫女のひとりに声をかけて訊いてみた。
「主祭神は『生誕之主神』。そして『開拓之神』『豊穣之神』『技術之神』を祀っております」
なるほど、そこはピリオノートの教会と同じか。
巫女はさらに続けて、参拝の作法や、最近(時期的に街が公式化してから)新しく始めたおみくじ等を教えてくれた。
「へぇー、おみくじ!」
「参拝したら引いてみる?」
「うん!」
参拝の作法はリアルと同じだ。
お賽銭を入れて鈴を鳴らし、二礼二拍して祈る。
(……なんとか楽しく生きてます、ありがとうございます。)
最後に一礼。
……すると、閉じた瞼の裏に、『バチコーン☆』とウィンクするイチゴを摘んだマッシブな豊穣神のカットインが入った。
「ゥ゙グッ」
危うく吹き出す所だった。
そうか、その神が出るのか……まぁ俺が1番関わってるのは豊穣神だよな……
隣を見ると、キーナはキョトンとした顔で社を見ていた。
「……何か見えた?」
「なんか……開拓神にサムズアップされた……?」
「ええ……」
それはそれでどういう状況だ?
「……何お祈りした?」
「え、『おチビちゃん達が無事に過ごせますように』と『あと、面白いものに出会えますように』?」
その内容で開拓神のサムズアップか……何かあるなら、たぶん『面白いもの』の方にかかってるだろうな……
まぁ、特に何かあると決まったわけじゃない。
お参りを終えたら、おみくじを引きに行く。
1回500リリー。思ったより少し高めだな?
角を黒い金属で留めてあるしっかりとした六角の箱を振り、くじ棒を引いておみくじを貰った。
『小吉』
『早馬の上機嫌、早駆けの喜び』
うん? 意味がよく分からん。
首を傾げていると、おみくじ売り場の巫女が説明をしてくれた。
「ここのおみくじは神様のちょっとした気まぐれが込められているんです。ささやかなものですが、おみくじを所持していると、しばらくの期間、書かれている内容がその身に宿るんですよ」
……つまり、バフか?
ステータスを確認してみると、『おみくじバフ:俊敏+1』という表記が増えていた。
へぇ……
「……どのくらいの間になりますかね?」
「だいたいひと月くらいでしょうか。神様の力が切れたおみくじは消滅します。おみくじを所持している間は次のおみくじは引けませんのでご注意ください」
説明を聞いていると、隣のキーナがしょぼくれた顔で口を開いた。
「……これって困る効果の場合はどうしたらいいですか?」
「そちらのおみくじ掛けへ結んで気まぐれをお返ししてください」
「あー、おみくじですもんね」
「……何出たの?」
苦笑いするキーナのおみくじを見せてもらう。
『大凶』
『居座る台風の目、周囲に混乱の渦』
「うわ」
「これはダメでしょ。明らか周りのNPCに何か起こりそうな内容だもん。状況次第では有りかもだけど、今の僕はいらんよ」
それはそう。
ステータス画面に出たのも、『おみくじバフ:トラブル遭遇』というバフなのかデバフなのか微妙な内容だった。
……普段からトラブルの中央にいるのでは?
「初手で大凶引いちゃったよー、ついてないわぁー」
「……逆に珍しいのかもしれないけどな」
「ガチャ運変な方向に使った!?」
「悲しいね」
内容はともかく、バフがかかるなら1回500リリーっていう値段も納得だな。
このおみくじバフは、おみくじ掛けへおみくじを結ぶと消えた。
見事に大凶を引いたキーナは、神社の神職の人たちにそれはそれは同情的な顔でおみくじを結ぶのを見守られていたのだった。




