ユ:実食して、満足して……
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ありがとうございます。嬉しいです。
……俺達は、なんとかコカトリスのササミを手に入れて帰還した。
なんだったんだあの戦争は……
一応、有志wikiに載っていなかったドラゴンがいたから、キーナは念の為に砂漠の街へ注意喚起をしに行った。
役所みたいな場所があったから、そこへ情報提供だけする形だ。後は街の開拓プレイヤーが考えるだろう。
俺はその間に、手に入れたササミを調理する。
とりあえず一部を茹でて味見をして、食べても大丈夫な事を確認した。コカトリスサイズな以外は実に普通のササミだった。
さて、生食は論外だからな。きちんと調理しよう。
何がいいかな……ピカタでも作るか。
念の為、逆に生食じゃないと駄目だった場合に備えて少し残しておいて……
筋を取り、デカすぎるから適当な大きさに切り分けて、マヨネーズと塩コショウに漬け込み下味をつける。
小麦粉と溶き卵をつけて……ここでキーナが帰ってきた。
「へーい、ただいま。役所にちょうど開拓主のプレイヤーさんと新聞の人がいたから、両方に伝えてきーたよ」
「ん、なんか言ってた?」
「『ありがとうございまぁーっす! 確認してきまぁーっす!』って、どっちもテンションぶち上げながら従魔に飛び乗って行った」
「……そうか、ありがとう」
伝わったならいい。
油を敷いたフライパンで、下準備をしたササミを焼く。
弾ける油。
肉の焼ける賑やかな音。
部屋に香ばしい香りが漂い始めて、キーナが「あ〜」とうめき声を上げた。
「美味しそ〜、リアルでも作って〜」
「ササミが広告の時にな」
「ササミィ〜」
残った卵も入れて……絡めながら焼いて……よし、こんなもんか。
焼けたら一口大に切り分けて、皿に盛り付けて出来上がりだ。
お好みでケチャップと。小さい器に入れて添える。
「んじゃ、食べさせてみるか」
「オッケー」
* * *
「うん、おいしい」
「おいしー!」
「……おにく、おいしいね」
デカいササミだったから兄弟三人とも食べられてよかった。
モグモグと勢いよくコカトリスのピカタを頬張る小粒達。
よく噛んで食べるんだぞ。
今回は呪いを解くのが目的だから、とりあえずコカトリスの肉でしか作っていないが……ジャックやクロがジュルリと涎を垂らしそうな勢いで遠くから見ている。
……いや、デューもバンもチラチラ気にしてるな?
後で鶏肉で全員分作るか……
うっかり元の目的を忘れて食事風景を眺めていると、キャトナの首の後ろあたりから、ボヤ〜っと陽炎のようなモノが立ち上り、半透明のそれなりに大きな蛇の姿が浮かび上がった。
「……あぁ……なんてしっとり柔らかな滋味……これが、コカトリスの肉の味……!」
……半分くらいは調味料の味かもしれない。
それでもコカトリスとして判定は入ったのか、呪いの蛇は満足したのだろう。
口の端を舐めるように舌をチロチロとさせて、どこか恍惚とした顔で、フォークを片手に驚いて固まったキャトナを見下ろした。
「もう思い残す事は無い……次こそは自分の力でコカトリスを倒して丸呑みにする!」
決意を新たにした蛇は、徐々にその姿が薄くなっていく。
それを見たキャトナは……フォークを一度置いて、ペコリと頭を下げた。
「……あんまり苦しくしないでくれて……力をかしてくれて、ありがとう」
それを聞いた蛇は驚いたような顔になり……そしてニンマリと笑って尾の先でキャトナの頭を撫でた。
「お互い、もっと強くなろうな」
「……うん!」
そして蛇は霊蝶となり……火色の花の花畑の上を通って、ヒラヒラと海へ向かって飛んでいった。
(……ちょっとイイ話みたいな顔して去っていったね)
(……最初から最後まで、それでいいのかって感じの流れだったけどな)
まぁキャトナが嬉しそうだから、めでたしめでたしでいいんだろう。
「……あ」
ハッと気付いたキャトナが口を開ける。
そこには……液体が滴らない普通の形の犬歯。
「呪い、解けたかな?」
「……うん、ありがとう」
確かめるようにグイグイと動かす体は、不自然な柔らかさが無い。
……そして動いていた弾みで、服の隙間からポロリと大きな蛇の鱗が落ちた。
【大蛇の激励】…ユニークアイテム
未練は次への目標に。
身に着けていると、筋力と俊敏に僅かなボーナスが入る。
剥がれ落ちた背中には、痕も残っていない。
キャトナは鱗を拾い上げると、トコトコと俺達の方へと持ってきた。
「これ……はい」
(……相棒欲しい?)
(キャトナに持たせときなー)
(だよね!)
「蛇さんの満足記念に持っておきな。後でお守り袋作ろうね」
キーナがそう言って頭を撫でると、キャトナはキョトンとした後……へにゃりとはにかんだ。




