ユ:子供が拠点にやってきた。
「と、いうわけで! 期間未定だけど、うちに住む事になりました! キャトナちゃんとサナ君とナナちゃんです! みんな仲良くしてね!」
「「「ハーイ」」」
「……忘れてた。うちオバケまみれなんだった……大丈夫か?」
「えっ、オバケ!? あれぜんぶオバケ!?」
「あのかわいいおにんぎょうも?」
「ぜんぶオバケー?」
「違うのもいるけど、半分くらいオバケだな……」
……うん、サナは目をキラキラさせてるし、姉妹も驚いてるだけで怖がってはいないから、大丈夫か。
* * *
さて、とりあえず一時避難ではあるが……小さな子供が同じ拠点で暮らすのに、その保護者が名前も分からず肌の露出ゼロな怪しい変装姿のままなのは流石にあんまりだ。
子供とはいえゲームのAIだから、ちゃんと言い含めれば名前や姿を知っても他所でばらしたりしないだろう。
というわけで、変装していない通常の格好になって、改めて自己紹介をする。
「僕の名前はキーナです」
「……俺はユーレイ、よろしく」
「ふつうのひとだ!」
「ふつうのおにぃちゃんとおねぇちゃんだった!」
「え、でもゆうれいなの? オバケなの?」
「普通のヒトです」
ちょっと半透明になれるけど普通のヒトだぞ。
夫婦で自己紹介をしたら、次は俺が拠点のメンバーを順番に紹介していく。
「キャトナ、です。ほら、ごあいさつ」
「ぼく、サナ!」
「……ナナ」
お姉ちゃんやってるキャトナと、元気のいいサナ、そしてキャトナの後ろから顔の半分だけ出ているナナ。
三者三様な自己紹介に、最初に撃ち抜かれたのはコダマ爺さんだった。
「……愛い!! 幼子とはかくも愛いものか……コダマおじいちゃんと呼んで構わんぞぉ〜」
「この老木ちょろすぎぬか? あ、我はフッシーぞ。面白いお話が出来るのでな、気軽に声をかけるとよい」
「お前もコダマの事を言えぬではないか……」
なお、御長寿組で初対面の好感度が1番高かったのはネビュラだった。大きなモフモフは獣人的に落ち着くポイントらしい。コダマ爺さんは悔しがっていた。
バンとクロ、そしてベロニカはあまり興味無し。『そうか住むのか』くらいの反応で終わり。
フレンドリーな反応をしたのはネモとマンドラゴラ夫婦、そしてシロとダディ。
スライム達は無表情なままぷにぷにしていた。感情がわからん。
そしてジャック達三兄弟は、同じく三兄弟という事が嬉しかったのか、『仲良くしてネー』と嬉しそうに握手を交わしていた。
『ジャックお兄ちゃん』とか『デューおにいちゃん』とか、呼ばれて照れていたが……魂が存在した年齢的にはたぶんジャック達の方が下なんじゃないか? マリーは年上かもしれないが。
キーナはそんな自己紹介タイムの間に家の準備をしている。
オバケの籠をまとめて置いてある所でオバケの名前を教えていると……少し離れた所でメキメキと新しい家の木が育っているのが見えた。
家の場所はジャック達の家のすぐそばだ。
ログアウトして不在の期間がある事を考えると、危険物を扱う作業場なんかがある俺達の拠点とは分けた方がいいだろうっていう判断だ。もちろん何かあればいつでも入ってきて構わない。
俺達のログアウトについては、『冒険者だから不在の時がある』と説明すれば、NPCはそれで納得するから助かる。
「とりあえず出来たよー」
「うん。じゃあ部屋見に行くか」
チビっ子達を促して、新築の巨木ハウスへ向かう。
一階が居間と簡単な洗い場、二階が寝室、そして避難所として地下室が作ってある。襲撃が起きたらそこへ引っ込んでいてもらう予定だ。
家具もキーナがテンプレを使って作ってある。
全体的に角を無くして丸みを多めに、そして高さを低くした家具が並んでいた。
チビっ子達は最初は恐る恐るといった感じで部屋のあれそれを調べていたが……最終的に寝室のベッドの寝心地を確かめている内に寝落ちしていた。
(まぁそりゃ疲れてるよね。色々あったもん)
(今日の今日だからな)
城で綺麗な服に着替えてはいたから、そのまま掛け布団をかけて寝かせておく事にする。
「寝てる間に食事でも作っておくか」
「じゃあ僕はピリオに行って日用品でも買ってこようかな。一緒に街に行って選べるようになるのはずっと先だろうし」
「ん、頼んだ」
シロを連れて買い物に出かけるキーナを見送り、ベロニカに様子見を頼んでキッチンへ向かった。
体が温まるスープでも作るか。
料理をしながら、今後の予定を頭の中に並べていく。
まずは拠点にある触って良い物とダメな物を教えないとな。特に野菜は、うっかり食べるとえらいことになる。
落ち着いたら夾竹桃さんに呪いの件を相談して……
ファンタジー世界だから、木刀とか作ってやって訓練とかもした方がいいんだろうか。
……ああ、それと四則演算くらいは教えてやった方がいいよな。児童教育的な事は大学でやってたし、問題ないと思う。
あとは、避難所は作ったから……ウェーニンさんに三人分の光学迷彩付きのケープでも発注して……
遊び場も無いからな……少し防壁広げるか? なんたかんだ家は増えてきたから、拠点レベルは上がってるんだよな。
……そこまで考えて、俺は結構この状況を楽しんでいるらしい事に気が付いた。
スープの具も、気持ち小さめだ。
……まぁ、ゲームなんだし、楽しいならいいだろ。




