ユ:心配事は、即解決。
ストーリーこそ騒がしくてカオスなバレンタインイベントだが、システムは単純だ。
バレンタインイベント限定ダンジョンが出現して、そこにいる敵を倒すとイベント専用チョコレート素材が手に入る。
その素材チョコレートでコラボレシピ(無料レシピ配布と強力な課金レシピがある)のチョコレート菓子を作って、プレイヤー・NPC問わず誰かにプレゼントする。
すると、贈った方にはイベントポイントが、貰った方にはバフアイテムが手に入る。
そして『ポイント欲しいけどチョコレート渡す相手なんてNPCにだっていねーよ!』というプレイヤーのために、V配信者の人気投票対決なんていうチョコの投げ込み先がご用意されている。
そういうイベントだ。
課金レシピを買ったらリアルのチョコレートの割引クーポンも貰えるとか。V配信者のあの2人はちょいちょい色んなゲームでああいう対決をしている公式キャットファイト要員だとか。
そういう細々した事もあるが、その辺は興味が無ければ気にしなくていいだろう。
それを踏まえて、今回の俺達はと言うと……
「どうするー? イベントガッツリやりたい?」
「いや別に」
俺は完全に傍観していたい気分だ。
投票も普段見てる配信者じゃないしな、好きに盛り上がってくれ。
「相棒が気に入ってたまに切り抜き見てる子は、犬っぽい子と犬科っぽい子と犬だもんね」
「……犬しかいないな?」
「そーだよ? え、自分で気付いてなかった!?」
気付いてなかった。
……いや、俺の趣味はいいんだよ。
「相棒は? イベントガッツリやりたい?」
「んー、僕もそんなに本腰いれる気は無いんだけど……」
「けど?」
「ダンジョンかわいいみたいだから、ジャック達連れて遊びに行きたいなーって。チョコも食べさせてあげられるし」
「なるほど」
確かに最近ジャック達は留守番が多かったな。冬の決戦も別行動だったし。
「じゃあ……明日の休みの昼間にダンジョン行くか」
「あ、今夜じゃないんだね」
イベント開始直後のダンジョン前なんて混んでるに決まってる。
* * *
というわけでログインしました。
ゲーム内朝食を取りながら、バレンタインダンジョンへ行く準備の話をしていたが……
「……そういえば、グミってチョコ食べても大丈夫かな?」
「ん? ……ああ、ピュアスライムだから?」
「そう……チョコ食べた途端、グミチョコになっちゃったりしないかな……?」
「……なるならチョコスライムとかかな」
そんなスライムの種類があるのかは知らないが。
ただ、スライム情報サイトによれば、ピュアスライムの期間は割と短い。
「そろそろ進化しても良い頃ではあるんだけどな」
「ね」
とりあえず様子でも見に行くか……
そう思って食後に庭へ出る。
するとそこには……オヤスモースライムと同じくらいの大きさに成長したグミの姿が。
「「進化してるー!?」」
見た目はかなり薄い紫色のスライムだ。
輪郭は丸いままだが、目が点から横棒になった……要するに糸目になっている。
「種類は……『イタコスライム』!?」
「イタコスライム!?」
何食った!?
……いや、ここなら割と何食ってもこうなるか。
「イタコって事は……降霊とか出来るの?」
「……プニィ」
キーナが恐る恐るグミに訊くと、グミは目を閉じたまま、ぼんやりと淡く光り始めた。
……スヤスヤと寝息のような物が聞こえ始める。寝ている時に降霊する感じなのか?
そして俺達が見守る目の前で、グミの頭の上に半透明でヒトの頭よりやや大きいくらいのミジンコが浮かんだ。
「「出たー!?」」
『なんや、このギガンティックミジンコ様になんか用かいな?』
「あ……えっと、オバケですよね?」
『せやで』
「グミちゃんに呼ばれた感じですか?」
『せや。なんや『誰でもええんで試しに来てーな』みたいな念が届いたんで、近くにおったし寄ってみたんや』
「へぇ〜」
『お試し成功っちゅう事でええか?』
「あ、ハイ」
「……ありがとうございました?」
『ええんやで。ほなな』
ミジンコは消えていった。
「……良いヒト……ミジンコだったね?」
「……おう」
ぷるりと震えて目が覚めたらしいグミは、やっぱり目が横棒の糸目のままだ。
「……グミちゃん、降霊は好きなオバケを呼べる感じ?」
グミは少し悩むように転がって、ふるふると首を横に振るような仕草をした。
「無理かぁ〜」
「プニプニ」
「……いや、それも違うって感じの動きしてるな?」
「うん? ……じゃあ呼べる時と呼べない時がある?」
「プニッ」
「あってる……レベルが上がったら指名が成功する確率が上がる、とかか?」
「プニッ」
「あー、そういう感じかぁ〜」
……死霊を増やしたい死霊魔法使いには嬉しい仕様のスライムなんじゃないか?
問題は、今のところ戦闘向きじゃないからレベリングをどうするかって事だが。
「グミちゃん、戦えるのかな?」
「プニィ〜?」
「どうかな……本人も首傾げてるからなぁ……」
「試してみるしかないかぁ〜」
軽く連れて散歩にでも行くか。




