キ:飛ぶ?跳ねる?走る!
足場が不安定な所での戦闘があるんですってよ。
うん、僕にとってはものすごく経験のある状況。
具体的には、夏のボス戦。
そうだね、ネモの出番だね。
ピョンピョンと【跳躍】で登る用に浮かぶ岩がご用意されているんだろうけど、着地に失敗したら即アウトに近い。それを防ぐ意味でも、足場を自前で作った方が安心安全な道程なのだ。
というわけで、ネモ出動〜!
最初は縦に長い空間を登るエレベーターみたいにしようかと思ったんだけど……イージーモードになりすぎるからなのか、それともゴーレム込みの重量をただ真上に持ち上げるっていうのが過負荷だったのか、またはレベル不足なのか、ビックリするほど上昇速度が遅かった。
しかたない。螺旋階段みたいな坂道にしたから、走って登ってもらう。
「頑張ってー」
「かなり急勾配ッスね!?」
「あんま緩やかだと日が暮れる」
「ここ元々日は暮れてるじゃーん」
ドドドドドッとヌーの大移動みたいな雰囲気で駆け上がる、ド根性さんのゴーレムを先頭にした同盟メンバー。
カステラさんはゴーレムの肩に乗って、夾竹桃さんはネビュラに乗って、アルネブさんがダディに乗って。相棒とセイレーンさんは自分で走る。
僕とラウラさんは空中を飛んで……っていうのも、ネモは坂道を上へ伸ばすのと同時に通過済みの下を消さないといけないから、うっかり最後尾の人が落ちないように、僕は念の為に皆の走りを横から見ていたいんだよね。
そしてラウラさんは、そんな僕の護衛。
だってここダンジョンだから、当然敵がいる。
……ほら、またこっちに向かって飛んできた。
暗黒コウモリ Lv55
星光蛍 Lv47
夜空の暗い部分に羽が生えて飛んでいるようなコウモリと、星からひと欠片こぼれ落ちて翅が生えたような蛍が、群れになって飛んでくる。
「……多いな」
初手で気付いて撃ち落とすのは相棒。カッコいい、好き。
衝撃波込みの射撃は、相当数の蛍を落とす。
「っ、【天来インパクト】!」
そこに追撃をかけるのがアルネブさん。
普段と違ってちょっと声が震えてるけど、登録済みの魔法はいつもの威力で敵にダメージを叩き込んでくれる。
「落としきれないな……展開!」
「はーい」
うん、僕に指示が来た。
倒しきれずに乱戦になる場合は、ネモの足場を坂道から広い円形に変更するのが僕の役目。
後は、敵に対するデバフ。
「【トリック・オア・トリート】!」
集団相手だと本当便利。
うっかり変な物大量に押し付けられても大丈夫なように、足場を広げた時だけやるようにしてるけどね。
そして同じくデバフ担当が夾竹桃さん。
夾竹桃さんはダメージの身代わりもしているから、負担になりすぎない程度に【呪術】を使う。
「【どうして置いていこうとするのさ?】」
怖い。
登録してる魔法の名前が怖いよ。そしてそれをわざわざ怖めの声色で言うから余計に怖いよ!
効果は俊敏低下だそうです……
こんな感じで速度と防御が低下した敵の群れを、ゴーレムと天使と召喚の虫で待ち構えるわけだね。
「【サモンインセクト・木陰の執行者】!」
「い、行きます!」
「せいやぁっ!!」
激突ー!
かなり遠距離で減らしてるとは言っても、それなりのエネミーとのぶつかり合いは迫力があるね!
そんな戦場に響くのが、新入りセイレーンさんの歌声。
伴奏の無い、アカペラの歌。
効果は『ステータスの微量上昇』。
始めたてのバード職が最初に覚える、どんなパーティーにいても使える初歩のバフ。
うん、あると助かる。
なんといってもエフォ始めたてなセイレーンさん、明らかに適正戦場じゃないからね。バフ頑張ってくれるだけありがたい。
なんて呑気に考えていたら、目の前を星屑が通過して驚いて仰け反った。
「ぅわぁっ!? ……ビックリしたー」
「……気を付けて」
そう、このダンジョン……当然のようにフィールドと同じく星屑が降ってくるんだよね。
だからド根性さんとラウラさんがタゲを引いてくれてても油断出来ない。
「……片付きましたかね」
「よし、前進!」
「はーい」
再びネモを坂道モードにして登り始める。
……うん、かなりスムーズだからこのまま行けるんじゃないかな? ボスがいたらどうだかわからないけど。
「バフしてるだけでもすげぇ勢いでレベル上がるッス! めっちゃ気持ちいいー!」
「それはそうであろうな!」
「低レベルの時の楽しみとか消し飛んでない? 大丈夫?」
「オレっちパワーレベリングは歓迎派なんで大丈夫ッス!」
なら良かった。
新人をゴリゴリに強化しながら、異境同盟は天への道を駆け上がっていった。




