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ユ:仮面フリーマーケット、出店その2


 キーナの後ろで気ままにリュートを奏でながら過ごすフリーマーケット。


 さっきの初心者ペアから話が広まりでもしたのか、ちょいちょい初心者っぽいようなリアル学生っぽいようなお客がやってくる。

 そんな若い感じの修学旅行生みたいな一団がやってくれば、おみくじ感覚で【知恵の林檎】を買って運試し大会みたいなノリになるのも、まぁ当然と言えば当然だ。


「『ウサウサ島にはウサボールの親玉がいる』ってよ」

「どこですかウサウサ島」

「まず海に辿り着けてねーんだわ」

「『レッドマンモスはホットチリバナナの林を縄張りにする』だって」

「すごい辛くて暑そう」

「ウケる」


 ……そうしてちょいちょい盛り上がっていれば、口コミを聞いていないプレイヤーも『何か面白い物でもあるのか?』となるのはまぁ当然か。


 やって来たのは、熟練っぽい雰囲気が滲み出ている数名のプレイヤー。

 その中の一人が、【刻印】の本を見つけてガバッと身を乗り出した。


「はあ!? これ図書館にある本じゃないか! ……『写本販売許可出てます』……なんだって!?」


 年嵩の女性っぽい声の黒マントは、そのままハウツー本にも顔を向けて慌てて手に取った。


「ちょ、えっ、『やさしい【刻印】のコツ』!? こっちは『やさしい【転写】のコツ』!? スキルの入門書かいこれ!」

「ばーさん、どした?」

「とんだお宝が出てきたんだよ! あんた! コレ全部一冊ずつおくれ!」

『いらっしゃいませ』


 相棒、応答の看板それでいいのか? さては軽く混乱してるな?


 女性の剣幕に押されていた他のメンバーも、品物をじっくり眺めている内にだんだん前のめりになりはじめた。


「……待て待て、この辺しれっと刻印入っとるぞ」

「なんですかこのオカリナ。幻獣なんて見つかってましたっけ?」

「待ってこの箒……! あの時の夢ってコレェ!?」

「お香いいなぁ、リアルで欲しいわ」

「この木の色……森カップルの杖では?」


 ……なんかグレッグさんの声がした気がするぞ。

 見覚えのある手甲がぶら下がってる人もいるんだよなぁ。


 ベテランぽい一団は、各々が気になる物を一通りお買い上げした後……何故か並んでリンゴを実食した。


「普通に美味いな」

「……『ウラミカササギの卵は足が生えて走る』ってよ」

「どういうこと?」

「おい、『従魔は与えた嗜好品によって進化先が変わる』んだと」

「はああ!?」

「待ってください、爆弾が出た」

「ちょっと待ってちょっと待って、メモするからちょっと待って」

「……『ロングロングホーンビーストの角は最長で6メートル』」

「すごいどうでも良さそうなの出て来た」

「えっ、『ピリオ東のパン屋の娘は片思いしてる相手がいる』ってさ!」

「それは知恵に含むな」

「娘さんかわいそうじゃろ!」

「『世界樹は陸続きではない別次元に存在する』……!?」

「待てっつってんだろ!」

「多い多い」

「爆弾が多いって」


 いやぁ、こういう混乱は見てる分には面白いな。

 相棒も笑いをこらえてぷるぷるしてる。


 暫定ベテランチームはリンゴの結果でてんやわんやした後、『情報料じゃ! とっとけい!』って捨て台詞と一緒に、何故か拳大の琥珀をひとつ投げてよこして去っていった。



 * * *



 そうやって集団でやってくる客もいれば、当然ひとりでやってくる客もいる。


 ふらりとやってきたとあるお客は、何故か【知恵の林檎】の説明書きをじっくり読んだ途端に崩れ落ちた。


「なん……だと……!? つまりミリオンニードルイワシはウデナガイソギンチャクが天敵ってこと!? も、もうちょっと早く知りたかった……っ!」


 マジかよ。

 その情報そんなに重宝する人いたのか。

 どこに住んでるんだ、海の中とかか?


「いや、今からでも遅くないっ……お店の人ありがとうございますリンゴください!!」

『いらっしゃいませ』


 暫定海底人は謝礼のつもりなのかリンゴを一個お買い上げすると


「っしゃあ! 待ってろイワシ共がぁ! 私の水産資源ボロ儲け伝説は、こっからが本番だぁあああああ!」


 と雄叫びを上げながら走り去っていった。



 * * *



 昨今のMMOはAIの取り締まりもあって治安がいい。

 暴言やストーカー行為はもちろん、明らかな直結厨なんかも警告やBAN対象になる。


 ……だから、油断していたのかもしれない。


 品物を吟味していた素振りの客が、その視線を商品から相棒へと移した。



「いやぁ、黒マントと仮面を着てても美人ってのはわかるもんだね。ぜひ今度パーティ組んでご一緒したいなぁ。あ、もちろんまずはフレンド登録から始めるよ。軽薄なナンパじゃないってわかってもらいたいからね」



 ハァ?



 頭一瞬で冷えたわ。


 リュート置いて、『いいえ』の看板を見せながら嫌そうに下がってきた相棒に近づいて肩を抱く。


 ……と同時に、「ピッピピッピピッピィー!」と気の抜ける笛の音を響かせて2,3人の戦隊メンバーがブラックを筆頭に駆け付けてきた。


「そこぉおおおお! 匿名重視のフリーマーケット会場でナンパ行為など言語道断!! ただちに散れぃ!!」


 ……主催、来るの早いな?

 頭に上ってた血、少し下がったわ。


「いやいや主催さん、俺ちょっとお話しただけじゃないっすか。ルール通りに質問だってしてないですよ?」


 対するナンパ野郎は往生際が悪い。

 大人しく引き下がればいいものを、なんでか粘って留まろうとする。


「質問していなかろうと迷惑行為はマナー違反だ!!」

「やだなぁ迷惑なんてかけてないですって、ねぇ?」


 ねぇ? じゃねぇよ。迷惑に決まってんだろうが。

 なんで相棒にとりなしてもらおうとする?

 見ての通り俺のだぞ?


 相棒は手早く書いた看板を相手に見えるように右手で掲げた。

 そして俺は、相棒の左手を取って、俺の左手と一緒に見せつけてやる。



『すごく迷惑です』


 俺達の左手には結婚指輪がついている。



「ハイ既婚者! 貴っ様ぁ! 善良なフリーマーケットで不倫を見据えた迷惑行為だとぅ!?」

「えっ、うそっ!? 既婚者!? マジで!?」

「言い訳無用! くらぇえ!」



 ──ボフン



 と音がしたと思ったら、ナンパ野郎は麻袋に詰め込まれてジタバタともがいていた。


「え、なにこれ!? おいい! 俺あんたらに接触許可出してないけどぉおお!?」

「我々はイベント主催にあたり、運営からマナー違反者を取り締まるためのアイテムをお借りしている! もちろん常時AIの監視付き! 治安維持以外の行為に使用すれば即BANだ!」

「マジかよ!? 結構厳しいね!?」

「連れていけ!!」

「あ~~~」


 ズルズルと戦隊ヒーローに引きずられていく麻袋入りのナンパ戦闘員。

 残ったホワイトさんが言うには、衣装を没収の上、管理AIからの警告という名の面談に引き渡されるらしい。


「また何かありましたら、お声がけください」


 そう言ってホワイトさんは去っていった。



 ……まったく、久しぶりに頭が冷えながら血がどくどく巡ってる感覚を味わったな。

 主催が来るのが遅かったら相棒連れて帰ってる所だ。


 しばし相棒の肩を抱いたままでいると、相棒が振り返って耳元に口を寄せて囁いた。


「最後だけちょっとデスゲームみたいだったよね」


 ……思い出したら少し笑えて、怒りは完全に霧散した。


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― 新着の感想 ―
独占欲にニヤニヤしたけど 絵面ショッ◯ーなの笑う
ハーレム除外検索してもタグ無しハーレム作品を踏んでしまうのにうんざりしてたからカップル成立済み主人公快適だわ~
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