ユ︰思ったより大事な話
海に出てしまった。
白い砂浜で、俺は水平線を眺めている。
ちょっと行き過ぎたなこれは。例の鳥の骨はさすがにここまで遠い所じゃない気がする。
目の前には紫色の水が波打つ海。
……これ、海……かぁ?
毒々しいからちょっと触るの躊躇うなぁ。
なんて迷っていたら、相棒からメッセージが届いた。
──『骨籠に来た鳥のオバケが喋った!!』
……なんて?
* * *
拠点に帰ってきた俺は、相棒の正面にある物を【鑑定】して正体を知り、額に手を当てて天を仰いだ。
【大鳥骨の鳥籠】…品質★★★
謎の大きな鳥の骨で作られた鳥籠。
製作者︰キーナ
そっかー……見つけちゃったかー……
いや、俺が言っておけばよかったんだよな。
キーナと、鳥籠の中の鳥のオバケが揃ってこっちに気がついた。
「あ、お帰りー」
「おお、戻られたかご主人」
「喋ってるぅぅ」
頭を抱えながらキーナの隣に一緒に座る。
このちょっとの間で一体何が起きた?
「えっとねー……とりあえず仮拠点できたよ」
「うん、ガワだけだけど見たよ。すごいね」
「ブループリントで見本建築あったから」
「ああ」
建築コピペできるんだ。村とか作るなら便利そうだ。
「で、テーブルとベッド作ったら建材無くなったから、散歩に出たら鳥の骨見つけてー」
「どこにあった?」
「すぐそこ」
「マジかー」
「で、なんか形似てたから鳥籠にして、ついでにお試しで【住居登録】してみたら、鳥のオバケが来て喋った」
「急に飛んだなぁ」
骨の鳥籠の中にいる鳥オバケに目をやる。
何の鳥だ?
籠に入るくらい小さいけど、小鳥って感じの骨格じゃないな。鶴みたいな細長い鳥をそのまま縮小したような見た目だ。
しげしげと眺めていると、鳥の方も何かを察したのか、ひとつ頷いた。
「我がどのような鳥なのか分からぬ、といった所かな? ではお答えしよう」
鳥は籠の中でバサリとひとつ羽ばたいた。
「我らは、数多の世界において『不死鳥』と呼ばれる存在である!」
「おおー!」
キーナがパチパチと拍手する。
鳥もまんざらでもなさそうに籠の中で胸を張った。
……これはツッコミ待ちだよな。
「死んでるが?」
「……あれっ!? 本当だ『不死鳥』なのに死んでる!?」
俺達が矛盾を指摘すると、鳥は神妙な雰囲気で頷いた。
「さよう。これには少々厄介な理由があるのだ。そなたらにも無関係では無き故、話を聞いてもらいたい」
そう前置きをすると、鳥は語り始めた。
「そもこの世界は、『生誕』を司る神によって作られた世界である」
……なんか、思ったより重要そうな話が始まったんだが?
「森羅万象が無限に生まれ続けるこの世界は、主神が『生誕』であることもあり、『死』というモノが希薄であった。故に、我ら『不死鳥』はこの地で多く生まれ育ち、やがてこの世界において『再生』を司る存在となった」
「神様みたいな?」
「うむ、神や精霊のような認識で良いぞ。肉の体はあるがな」
その神様っぽい存在は、目の前でフレンドリーに話を続けている。
「そうして『再生』を司る我らが増え続ける事で、死したモノは多少の休眠を経た後に復活するのが世界における理となった」
「リスポーンの事?」
「そう、それだ」
ああ、このゲームってリスポーンにも説明つくんだ。
「ところがだ。どうやら、しばし前からその理が通用せぬモノがこの世界にやって来たらしい」
「え、俺達の事?」
「いや違う、人の子ではなくもっと前よ。おそらくは『滅び』を司るナニカであるとは思うのだが。それが世界を滅ぼす前準備として、我ら不死鳥を狩り始めたのだ」
不死鳥は数の多さで『再生』を安定させていたが、その分、一羽一羽の力は弱いので『滅び』に直接手をかけられると抵抗ができなかったらしい。
魂の消滅こそしなかったものの、死体からの再生が出来なくなった。
「我らがかなり死んだ事で、各所に影響が出始めた」
生物が異形のモンスターと化し、喰らいもしないのに他を殺し始めたのもその一つだという。
「死体や魂の状態になったとはいえ、我ら不死鳥は存在している。故に『復活』は機能しているのだが……復活する時に『滅び』の影響を洗い流す事ができなくなった」
この世界の生き物は、復活する時に悪い状態をきれいにリセットして復活していたらしい。
つまりモンスターとなって死んだら、本当ならリセットされて元の動物に戻るはずが、またモンスターのまま復活している。
「そんなわけで、この世界にはモンスターが満ちてしまった」
主神は『生誕』なので、とにかく生み出す事しかできない。
各地の精霊まで『滅び』に取り込まれるといよいよ世界が危なくなる。
「そこへやってきたのが、そなたら人の子よ!」
この不死鳥が言うには、おそらく主神が人の子の世界と繋がる道を生んだのだろうという事だ。
「人の子こういうの得意であろう? 地に満ちたり、英雄になったり、倒した相手の力を自分の物にしたり、世界の滅びを食い止めたりとか、色んな世界でよく聞くぞ!」
「いやまぁ聞くけど」
「なんでも食う人の子ならば、『滅び』のひとつやふたつ喰らって己の力にできるに違いない!」
「雑食をすごい解釈したなぁ」
「現にほれ、そちらのご主人は何体かモンスター倒して『滅び』を喰っておるではないか。レベルが上がっておるぞ」
「経験値のこと!?」
なんてこった。
不死鳥のオバケは嬉しそうにバサバサ羽ばたいてクォクォと鳴いた。
「人の子は満ちる世界が欲しい。世界は『滅び』を倒せる人の子が欲しい。素晴らしい利害の一致よ! よろしく頼むぞ人の子よ!」
何でこの話を俺達二人だけで聞いてるんだ。
返事に困っていると、致命的なアナウンスが世界に響き渡った。
──《ワールドクエスト『滅びに抗う世界』が開放されました》
「……聞こえた?」
「聞こえた。……他の人も聞こえたのかな?」
「……ちょっと確かめてみるか」
ゲーム公式の掲示板は、ゲーム内からでも閲覧書き込みが可能だ。
むしろ、ゲーム内時間は現実の三倍……現実の一時間がゲーム内での三時間だから、ゲーム内での使用の方がメインかもしれない。流れが速いスレとか現実で見ると早すぎて読めないから。
とりあえずそれっぽいスレを開くと……案の定、疑問まみれで流れが速い。
『ワールドクエスト詳細plz』『誰が起こしたん?』『お客様の中に詳しい方はいらっしゃいませんかー?』といった具合だ。
「あー……全プレイヤー聞こえてたタイプのアナウンスだったっぽい」
「ですよねぇぇえええ」
どうしよっか?