ユ:1つ目の完成と、2つ目の注文
魔法用の武器は素材の種類が多そうだな……キーナの横で説明を聞きながら、俺はそんな事を考えていた。
近接武器は威力特化にする場合がほとんどだ。中途半端に魔法用の仕様を入れても器用貧乏になりやすい。
そう考えると……魔法と武器の両方をメインに魔法剣士みたいな戦い方をするプレイヤーの武器は、中々に難易度が高そうだ。
一方、シカディアーとキーナは、肝心の武器の形についての話に入っていた。
「武器で殴らないなら、形は割とどうとでもなります。いっそ杖じゃなくても大丈夫!」
「やったー!」
相談の結果、フッシーを使って空を飛ぶ場合があるから、ひとつは箒の形に籠を複数付けた物を。
そして2本持ちにするつもりらしいのだが、もうひとつは……
「こっちは1回持ち帰って悩んでからまた注文します」
「箒の方は進めていいんですか?」
「そっちはお願いします。属性は水と氷と草と木で、籠が付くから【死霊魔法】の強化も付きますよね?」
「大丈夫かと。もうひとつは、何かお気に入りの物があればそれを改造する事も出来ますので、じっくり悩んで下さい。ご注文ありがとうございます!」
材料として微睡の木の枝を柄の分と箒の掃く部分用をそれぞれ渡して、属性付与用のアイテム代と製作費用をまとめて支払うと、シカディアーはまた五体投地して感謝の意を示した。……なんで何かにつけて五体投地するんだこの人。
まぁ、今は手が空いていたらしいから、同盟でのダンジョン突入に間に合うのは助かる。
そんな感じで……俺達は注文を終えて拠点へ戻ってきた。
「……で、もうひとつはどうする予定?」
「んーとね、ジャックに確認したい事があって」
そう言うと、キーナはジャックに声をかけた。
「ねぇジャック、魔武器ってさ……武器の精が悪魔化した物って言ってたよね?」
「ウン、ソーダヨ」
「じゃあ……変形する武器みたいなのが魔武器化したら、魔武器って自分で動ける?」
「ウン、その武器の主人が許可したら動くヨ」
「なるほど」
あ、うん……何か思いついた時の顔だなこれは。
キーナは輝くような笑顔で俺の方を向いた。
「さっきの武器屋でさ、ぬいぐるみがあったじゃんすか」
「……うん、あったな」
「うちのマリーって、人形にオバケが宿って動くようになったじゃんすか」
「……ああ、うん」
なるほど?
何を企んでいるのかなんとなく分かったぞ。
「……人形だと、魔武器になるまでが大変じゃないか? 取り回しとか」
「その辺を今から考えます!」
「はい」
* * *
そして数日後。
完成予定日という事で、変装して杖を取りに行く。
「イイ仕事させていただきましたああああああ!!」
やっぱり五体投地してきたシカディアーは、全身を投げ出しながらも手に持った杖は地面に落とさず両手で捧げ持つという、実に無駄の無い無駄な動きを見せた。
掛け台状態になったシカディアーに掲げられている箒タイプの杖をまじまじと二人で眺める。
【青と緑のソウルブルーム01】…魔攻+15、魔防+10、死霊魔法威力+10、水魔法威力+8、氷魔法威力+8、草魔法威力+8、木魔法威力+8
微睡の森の木に死霊を宿す籠を作り、箒に仕立てた杖。
属性を強める石と幻を扱う石が先端に埋め込まれている。
製作者:偶蹄・シカディアー
「おおー! カッコいい!」
「……スタイリッシュになったな」
以前はただの枝だった柄が、きちんと切り出したように形を整えられていた。
その柄に埋め込んで一体化するようにして、球形の小さな籠が3つ。これなら取り回しも楽そうだ。
そして強化値が多い。さすが本職の仕事だ。俺もそろそろ弓とボウガン新調するかな……
柄の片端は箒。
もう片方の端には属性強化用の結晶が5つ並んで付いている。
……ん? 5つ?
水、氷、草、木だと、4つだよな?
「えっと、注文には無かったんですけど……森女さんって匿名希望じゃないですか。なので、最近出回り始めた【幻術】入りの石、サービスで付けときましたー。普段着の時とかは、それで見た目変えて使って下さい」
「えっ、ありがとうございます!」
「いえいえ、箒の形の件のお礼って事で……あれ結構人気なんで」
「わー。なんなら箒とか籠の付いた杖は好きに作っていいって他の職人さんに周知しても構わないですからね?」
「お、おおお! ありがとうございまーす!」
床に転がって掛け台になったまま喜びの声を上げるシカディアー。
……うん、とりあえず起きろ。
1本目を受け取ったキーナは、やっと起き上がったシカディアーに向かって、そのまま2本目の注文に入る。
「えっと、じゃあ2つ目なんですけど」
「あ、内容決まりました?」
「はい。蛇の玩具みたいなアクセサリーっぽくして下さい」
「蛇の玩具?」
「えっと、胴が小さなパーツが繋がってくねくね動かせる構造になってる蛇の玩具があるんですよね。あんな感じに動かせて、腕とか体のどこかに巻き付けて使うような感じの蛇さんにして下さい」
「おおー……これはまた珍しいご注文ですねー」
「難しいですか?」
「大丈夫です、ゲームなんでリアルよりはどうにかなりやすいですから。あと、難しいほど燃えます!」
シカディアー、そういうタイプかぁ。
「じゃあ形はそれで」
「属性はどうします?」
「こっちは火と……土系と風系はどうしようかな。どっちも全然使ってないし……」
「付けずにその分火を強くします?」
「その方がいいかな。あと……これとか使えます?」
そう言って、キーナは結晶を2つ取り出した。
【夢喰い瞳の結晶】…品質★★★★
夢を喰らう獣の眼球を結晶化した物。
精神を擦り減らす力を持つ。
【千夢の果実の結晶】…品質★★
数多の夢の結実を結晶化した物。
幻覚を見せる力を持つ。
それを見たシカディアーは……三度見してひっくり返り、また地面に転がった。
「なんですかそれはー!?」
「なんとなく作ってみた結晶です」
「なんとなく!! そして夢喰い瞳!? もしかして『夢喰い鹿の角』とか持っていらっしゃったりしませんかー!?」
鹿の角?
まぁ、あるけど。
キーナと仮面越しに顔を見合わせて、俺は共有インベントリから『夢喰い鹿の角』を取り出した。
「……いります?」
「買いますー!!」
なんでもちょっと特殊なクエストで要求されていたものの、見つからずに困っていたらしい。なんてこった。
「じゃあ、2本目の製作費用はこの角という事で……」
「え、足ります?」
「所在不明拠点の特産品ならお高いですから大丈夫です……こちらの結晶は、ちょっと初見なのでどうなるかはやってみないとわかりませんが……たぶん敵に精神デバフを与える系の効果が付くと思います。使う方向でいいですか?」
「はい、お願いします」
とはいえ俺達が出さない事で希少品になっている物で支払うのは気が引けたので、若干の押し問答をしてある程度の金は払った。
2つ目の武器の注文も済んで、俺達は店を後にする。
(……あの人、動きが芸人なんだよなー)
(ねー、見てて面白かった)
なんで俺達が関わる相手は個性が強いのばかりなんだろうな。




