キ:ふわふわした場所に建築をするには?
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今日は新しく異境同盟のメンバーになったセイレーンさんの入植地を皆で見に行きます。
前回集まった時にそのまま行ければ良かったんだけどね。
襲撃からの壊滅で転移オーブが破損しちゃったらしくって、リアル1日経たないと行けなくなっちゃってたから別日になった。
なので今日は、残念ながら夾竹桃さんが不参加です。
変装してピリオの転移広場へ行くと、そこには僕らの色違いな変装姿のアルネブさんとラウラさん。そして、早速同じような変装衣装を作ってもらったらしいセイレーンさんがいた。
挨拶をして、のんびりあと二人を待つ。
僕らが固まってると、やっぱり視線が飛んでくるなぁ。
特に、衣装からトビウオの羽が出てる新入り君に注目が集まっている。
セイレーンさん、僕らに最初に声かけた時も人の多いこの広場だったから、たぶん身バレしちゃってるんだよね。
まぁ本人にそれ言ったら『あー、オレっち自分からオープンにする気は無いッスけど、詮索してくる奴とか玩具にして遊ぶの楽しめるんで、別にいいっすよ。てかそうじゃないとあそこで自己紹介しないッス』って笑ってたから、あんまり気にして無さそうだけど。
そんな事を考えてる間に、カステラさんとド根性さんもやって来た。
同じく羽が見えてるカステラさんは、アリスト・フェアリーになった事で羽が葉っぱみたいな独特な物になっていたけど、変装していない時は【幻術】で誤魔化してるんだって。
「んじゃ、行くか」
「ウッス! よろしくお願いします!」
──拠点招待が届いています。受諾しますか?
受諾っと。
僕らは一時登録された転移先……セイレーンさんの拠点があるフィールドへと移動した。
* * *
「おおー!」
「き、綺麗ですね!」
「爽やかだわー」
どこまでも続く青い空。
絶え間なく吹き続ける風。
足場は白い雲。
雲の隙間からまばらに飛び出している変な形の岩。
そんな分かりやすい雲の上の世界に僕らはいた。
「ラウラさんの天界とは違うのかな?」
「あ、ウ、ウニ先輩にも聞いてみたのですが……お、おそらく別次元だろうとの事でした。天界は、神様の在られる場所で、こ、こちらは、風と雷のための場所なのだろうと……」
「へー、ここってそういう所だったんスか」
僕らのフィールドが死のための場所みたいな感じかな?
そう考えると、少なくとも各属性毎の次元はありそうな気がするね。
全員興味深くキョロキョロと周りを見渡していると……ド根性さんの身長がいつもより低い事に気が付いた。
「……ド根性さん少し埋まってない?」
「うむ! 膝くらいまでは埋まっておるな! 深めの泥沼に立ったような感覚! とても動きにくい! おそらくギガスとこのフィールドは相性が悪いのであろう!」
重い建材は無理って言ってたもんね。
たぶんゴーレムも厳しいんじゃないかな?
「お、アレがクラウドバロメッツか?」
「あ、そうッス。 羊ちゃんたち、来るッスよー」
おあー! かわいいー!
そこにいたのは、細い蔓草で雲と繋がっているプカプカ浮かんだ羊だった。毛の部分が雲みたいな、ふわふわで少し儚げな羊ちゃん。
セイレーンさんが蔓草を引っこ抜いて、風船みたいにしてこっちに持ってきて見せてくれる。
「抜いても大丈夫なんだ?」
「あんまり長時間じゃなければ平気ッスね。疲れたらまた植えて上げれば復活するッス」
「へぇ~」
いいなぁ、可愛いなぁ。
うちの毛糸玉ちゃんも可愛いけど、風船ちゃんも可愛い。
「瓶詰展示会の購入チャレンジはダメだったんだよねー」
「あっ、そうだったんスか? じゃあ種少し差しあげるッスよ」
「え、良いの? お高いやつだし、買うよ?」
「いいえ! 今これ以上現金増やしたく無いんで!!」
「ええー……じゃあマックラゴラちゃんの種少しお返しにあげるね」
「あ、どうも……ここって根菜育つんかな?」
どうだろね?
なんて話をしていたら、ビュウッと強い風が吹いて、周りの雲がゆっくりと流れるように動き、変な形の岩がバチバチと雷を発した。
「あー……なるほど、足場が動いてる感覚があるな……」
「うむ! 雲が流動しておるな! これは柱を固定するのも厳しかろう! どれだけ深く打っても雲を突き抜けるだけであろうからな!」
「い、岩も……帯電しているなら建築の土台にするのは厳しいのでは?」
「そうね、奈落とはまた違った難易度の高さがあるわね」
僕らは、皆で意見を出し合いながら色々と試してみた。
「昔見たアニメみたいに、雲を固められないか?」
「【風魔法】でギュッとやってはみたんスけど……雲って固めると水になっちまうんスよ」
「だったら俺達はどうやって乗ってるんだよ……変な所リアルだな……」
「糸紡ぎみたいにしてもダメだねぇ」
「わ、綿とは全然違いますね……」
「……木の船を浮かべたりとかは?」
「ボートは試したんスけど、雲が偏るとすぐ傾いて強風でひっくり返るッス」
「あ、でも乗るは乗るんだ?」
「ただ船が自力で浮かんでないと雲の切れ目に来た時が怖いな……」
うぅ~ん……と唸っていると、アルネブさんがそっと挙手をした。
「つまり建築が自力で浮かんでいればいいのよね?」
「まぁ、うん」
「一番簡単なのはそうであるな!」
「そうッスね。某空飛ぶ城みたいなのが出来れば最強だとは思うッス……まぁそんな素材、探しても見つからなかったッスけど」
「そうでしょうね。出してないもの」
……えっ?
全員の視線がアルネブさんに集まった。
「最近気付いたのだけど、星の属性って重力関係も含まれるみたいなのよね」
そう言うと、アルネブさんは「【ステラクリエイト】」と【星魔法】を唱えて、その場にぷかりと浮かび、宙に座るような姿勢になった。
「あ、ああー!」
「なるほど、重力……」
「……でも魔道具だと、籠められてる魔力が尽きたら、使ってる属性の魔法じゃないとチャージ出来ないよな?」
「ええ、だから出して無かったのよ。何度も要求されるのが目に見えてたから。……でも、私の開拓地にあるダンジョンの奥は、浮かんでる星の欠片とかが多いから、もしかしたらその辺を使って魔道具じゃない浮かぶ建材とかが作れるんじゃないかしら?」
「おおー、いいかもよ? それこそ幻獣ちゃんに結晶にしてもらったら某空飛ぶ城の石みたいなの出来るかもしれないし」
光明が見えてきたからか、セイレーンさんの顔が徐々に嬉しそうにキラキラし始めた。
それを見て、アルネブさんは少し苦笑い。
「でもね……ダンジョンの難易度高いのよ。素材採るのはいいんだけど……皆手伝ってくれる?」
そんなの返事はひとつしかないよね。
「いいともー」
「そのための同盟だしな」
「任されよ! 未知なる星の属性の素材も実に楽しみである!!」
「……オッケーです」
「うん、み、皆で攻略しましょう!」
「よろしくお願いします!」
そんなわけで、夾竹桃さんにも同盟チャットで経緯を残しつつ、時間の合う時にダンジョン攻略へ行く事になったのであった。
「それまで拠点無いけど……セイレーンさん大丈夫?」
「大丈夫ッス。金はあるんで、羊と一緒にピリオの宿に泊まるッス」
「まぁ建築が一つもないなら、それが一番無難かもな」
※確かになと思ったので、汚泥を泥沼に変更。




