ユ:神様界隈で起きていた事
今回の流れ書いてて大霊廟の時に称号取得するの忘れてたのを思い出したので、大霊廟クリア回に称号獲得を追記しました。
聖女ヴィクトリア曰く。
前にも教会で聞いたように、本国の世界には、それはもう多種多様な神がいる。
その中に、『戦の神』がいた。
戦の神は、英雄としての側面が強い神なのだが、何かをきっかけにスイッチが入って荒ぶると、神様自身でも自らを制御出来なくなる側面も持っているんだとか。
そんな戦の神は、友人である開拓神が最近異世界で大はしゃぎしているのを羨ましく思っていたらしい。
本国の方の世界はここ数年割と穏やかで、多少の小競り合いや事件こそあるが概ね平和な時代と言っても過言ではない。
戦いの名のつく事柄は戦争だけではないが、『最近本気出せることが少ないなー』と戦の神的には思う状態だったようだ。
このままでは早晩老いるんじゃないかと危惧していた矢先、開拓神の分け身が新天地で水を得た魚のように大活躍している話を聞いた。
「我が女神曰く……それでおかしなスイッチが入ってしまった、と」
開拓には危険が付き物である。しかも滅びの使徒なんていう敵まで現れたと言うではないか。
つまり、そこには戦いがある。
つまり、そこには、活躍の場所がある。
……そう思った次の瞬間、戦の神の分け身がこっちの世界に飛び込んだ。
「本神曰く、無意識だったらしい」
「本当に?」
「我が女神曰く、半分無意識の半分確信犯だそうだ」
「……ですよね」
そんな戦の神には、勝利の女神という奥さんがいた。
妻である女神はとりあえずやらかした夫をしばき倒し、『鬱憤が溜まっているなら変に暴発する前に自分や主神に相談しなさい』と言い聞かせて反省させた。
……が、そんな事をしていたら、異世界にヤバい組織がいくつか徒党を組んで移動したという一報が入った。
「敵対組織が攻撃を仕掛けてくれば、それは戦になる。ただでさえ滅びの使徒と戦っている最中に、しかも制御が利かなくなりがちな戦の神が来たとなれば、どう転ぶかわかったものではない」
だから、妻である勝利の女神は、夫のフォローをする意味も含めて自らの聖女を開拓地へと遣わす事にした。
……なお、開拓地の世界の主神である生誕の神は、これら全ての経緯を『ふーん、そうなんだ』で済ませて何も気にせずまるっと受け入れたらしい。
「そういう経緯でやって来たのが、私だ」
「なるほど」
「騎士団長の手伝いをする感じですか?」
キーナの問いに、しかしヴィクトリアは首を横に振った。
「いいや、聖女として来ているからな。私はしばし教会に所属して、あまり公にならないよう独自に活動する事になった」
「あ、そうなんですか」
「なった……のだが、な」
そこで、聖女二人が困ったような顔をした。
「滞在していただくのは一向に構わないのですが……」
「……二人共。勝利に必要な物は、なんだと思う?」
「えっ?」
唐突にヴィクトリアから投げられた問いに、俺と相棒は首を傾げた。
「え……なんだろ……先手?」
「……知識、ですかね」
俺達の答えを聞き、ヴィクトリアはうんうんと頷く。
「そう、色々と思い当たるモノはあるだろう。だが、それらのほとんどを補い、賄える物がある。……金だ」
「「わぁ」」
身も蓋もねぇな。
「金を上手く使えれば大体の勝負事は勝てる。次点で『決して諦めない不屈の心』。どんな勝負事も、勝てるまで続ける事が出来れば、いつかは勝てる」
「せやけど」
「少なくとも、私はこの考えで聖女に任命され今まで活動してきた」
「Oh……」
それでいいのか女神……?
エフォの勝利の女神は……なんというか、夢が無いな。
「よって、私はまず活動資金をなんとかしようとしたのだが……」
「申し訳ありません……教会はあまり資金に余裕が無く……」
「いや、そんな事を言えば私とてそうだ……個人資産も子爵家の資産もそう多くはない……」
ああ、うん……見えてきたぞ。
「そこへやって来たのが貴方方だ! それも! こんな大金を! 教会に寄付!? ……タイミングといい、金額といい、もはや神の思し召しとしか思えない……貴方方はいずれかの聖人聖女なのか!?」
「「いえ、違います」」
ただの一般プレイヤーです。
「そ、そういうわけで……お二人のおかげで、ヴィクトリア様が使命を果たすための活動を滞り無く行えそうなのです。ありがとうございます」
「いえいえ、完全に偶然なので……お役に立てたなら良かったです?」
「役に立つどころか……っ! 是非とも何かお礼をさせて欲しい。希望する事は無いか!?」
「あ、じゃあ……出来れば、寄付で孤児院の子供にも何かしてあげてもらえたら……そのつもりの寄付だったので……」
「「!?!?!?」」
キーナは『せめてちょっとお菓子でも買ってあげて』くらいのつもりだったと思うが……その言葉は聖女二人にトドメを刺したらしい。
感極まったヴィクトリアがまた泣き始め、アリリアも口元に手を当てて目を潤ませた。
「「せ、先生と呼ばせてください!」」
「なんで??」
──称号『聖女の恩師』を取得しました。
なんで俺も!?
相棒が懐かれるのを微笑ましく眺めていたらセットで称号が飛んできた。何故だ。




