キ:困った時の神頼み?
「あ~、ピュアスライムちゃんプニプニですねぇ〜」
「プニー」
「赤ちゃんスライムだもんねぇ〜、ガチャポンサイズで可愛いねぇ〜」
「プニィー」
「よーし、君の名前は今日から『グミ』ちゃんだぁ」
「プニプニ!」
「……ほら、現実逃避はその辺にして、目の前の大金を見るんだ」
「ひぃん」
「プニー」
僕らの前には、宝くじが当たったような額のリリー。
多いなぁ〜、多すぎるなぁ〜。
「僕らが戦闘勢だったら手放しで喜べるのに」
「でもピリオ住みから始まる戦闘勢だと、最初のマックラゴラ育成者にはなれなかった」
「上手くバランス取れてるなぁ……これ、今襲撃来たらヤバいよね?」
「ヤバいよ。めちゃくちゃヤバいよ」
「だよね~」
装備を新調して職人さんに色を付けるにしても、さすがに多すぎるリリーの山。
「……どうしよっか?」
「……うん」
僕の問いかけに、相棒はフッと爽やかな笑顔を浮かべて口を開いた。
「よし、寄付しよう」
「オッケー!」
* * *
速やかに大金を手放すなら慈善の寄付はありだよね。
聖女さんは教会の孤児院出身、つまり教会には孤児院がある。
実際、教会に神様の話を聞きに行った時もちびっ子達がいたしね。あの子達のための施設やご飯になるなら、僕らが慌てて雑に消費するよりは、気持ちもスッキリできる。
エフォだったら、そこから何かのクエストに派生するかもしれないし。
「ある意味、困った時の神頼み?」
「神(AI)か」
うん、そんな感じでいこう。
再び変装した僕らは、襲撃が来る前にって少し焦りながら急いでピリオノートへ転移した。
真っ直ぐ、寄り道しないで教会へ。走るまでしないけど、気持ち早歩きになりながら向かって……到着。
二人揃って教会の聖堂に入ったら、なんとなくセーフって気持ちになって、ふぅ……とひと息ついてしまった。
そんな僕らに、聖堂にいた神父さんが近付いてくる。
「……どういった御用でしょうか?」
あれ? 前に来た時は特に声をかけられたりしなかったんだけどな。
気持ち早歩きだったのが焦って見えたかな?
「えっと、寄付をしたくて」
「おや、ありがとうございます。こちらで承りますので、どうぞ」
ほっとしたように笑顔に戻った神父さんの後について行き、簡素な個室に入った。
「机に出せばいいですか」
「はい、お願いします」
書類を書くためなのか紙を用意している神父さんの前で、僕らは瓶詰展示会の売り上げをほぼ全部出した。
展示会前に木材を換金してたからお財布には余裕あったしね。
装備とか整えるのに困らなさそうな分だけ残して、机の上にドーン!
神父さんは、億超えのリリーを綺麗に三度見した。
「えっ、あっ……こっ……ほっ……まっ……し、失礼しました。しょ、少々お待ちください!」
だいぶ混乱した途切れ途切れの声だけ出して、神父さんは慌てながら飛び出して行った。
(やってやったぜ!)
(うん、割とこれが見たくてやった)
既に達成感に包まれた僕らは、他に誰もいない個室で『イェーイ』ってハイタッチをキメる。
そして……すぐに廊下をバタバタと走る音が聞こえてきた。
何かな?と思っていると、バタン!と乱暴に開かれた部屋の扉。
飛び込んで来たのは、濃紺に赤のメッシュが入ったロングヘアの女性だった。
騎士服って感じの格好をしているから……女性騎士なのかな? 胸元にいくつか勲章もついてるし。
マントをなびかせながら飛び込んできた女性は、机の上のリリーの山を見て目を見開いた。
「っ! ……神よ!」
そして膝を付いて天を仰ぎながら両手を組んで……泣いた。
((ええー??))
え、なんだろう? ……借金に困ってる人なのかな?
でもこれ、教会に寄付したのであって、貴女個人にプレゼントするわけじゃないんですけど?
すると、女性を追いかけるようにして、神父さんが二人と、聖女さんが駆け付けた。
僕らの姿を見た聖女さんが嬉しそうな笑顔になる。
「あっ! 貴方がたでしたか」
そして膝を突いて泣いている女性を見て目を丸くした。
「ヴィクトリア様!?」
はい、女性はヴィクトリアさんね。
ヴィクトリアさんは聖女さんの声で我に返ったのか、涙を袖で拭いながら立ち上がる。……おお、背が高ーい。
「あぁ……すまないアリリア嬢。まるで奇跡のようなタイミングに、つい感極まってしまった」
そしてヴィクトリアさんは僕らに向き直り……流れるように片膝を突いて微笑んだ。
「失礼、お見苦しい所をお見せした。私はシュタール子爵家の長女。ヴィクトリア・ファラ・シュタール。ククロスオーブ王国騎士団所属にして、『勝利の女神』の聖女を務めさせていただいている」
んんん〜、また属性が多いNPCが出てきたね!




