キ:仮面フリーマーケット、出店その1
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今日は待ちに待ったフリーマーケットの日!
土曜日だけど僕らにとっては平日だから、参加するのは夜の部だけだね。
朝の部はリアルで8 時から13時まで。
夜の部はリアルで21時から2時まで。
リアル5時間ずつだから、ゲーム内では15時間ずつかな。結構長いからのんびりできそう。
ログイン直後のゲーム内時間は明るい午前中。
開始直後は出入口がギュウギュウかもしれないから、少し間を置いて会場に向かった。
イベント専用衣装を着てると、拠点のオーブから直にイベント会場が転移先に表示される。便利だね。当日衣装を買う人はピリオから行く感じなのかな。
「じゃあ行こっか」
「うん」
今日はネビュラも含めて皆お留守番。
二人揃って会場へ転移。
イベント会場は周りをぐるりと石壁で囲まれた、中世ファンタジーの砦の中庭みたいな場所だった。
……なんか既視感があるなぁ?
…………あ、キャラメイク直後に色々手続きした場所に似てるんだ。あそこよりもっと広いし、転移場所がランダムじゃなくて固定だけど。
プレイヤーが作った感じじゃないしピリオの防壁と同じ旗がかかってるから、公式がイベントで使う用の広場なのかもしれない。ちゃんと申請すれば使わせてくれるんだね。
広場にはもう露店がたくさん並んでいて、僕らも着ている黒マントの集団が大勢品物を売ったり買ったりしていた。
うーん……青空の下なのに黒ずくめの仮面だらけで秘密結社感がすごい。
さて、まずは主催さんにフリーの相場鑑定をしてもらわないとね。
転移場所のすぐ近くに日除け付きのコーナーが設置してあるからそこへ向かう。
主催さん達は戦闘員の衣装は着てなかった。
事前販売してたフェンシングっぽい店員さんの色違いだ!
……よくよく見たら、コーナーに『主催:カラフル戦隊フエルンジャー』って書いてある。やっぱり戦隊物なんだね主催さん。
装備がカラフルな色違いなのはそういうことかぁ。
色違い衣装はファンタジーっぽくアレンジしてて浮いてないし、カッコイイね。数は余裕で五人どころかパッと見ただけで八人以上いるけどね。
相場鑑定はすごい流れ作業だった。
「アイテム一個ずつ並べてくださーい」って言われて、ポンポンと置いたら置いた先から確認されて手元の紙にガリガリガリーってアイテム名と定価とプレイヤー相場が箇条書きにされる。
終わったアイテムからどんどんしまっていって、全部終わったら紙を渡されて終わり。
そこそこの人が並んでるけど、すごい速さで処理されていくから文句なんて出るわけない。
主催の手際が良いって素晴らしいね。
鑑定を終えた僕と相棒は、はぐれないように手を繋いで、売り物を広げられそうな場所を探す。
売り上げ重視なわけじゃないから別にどこでもいいんだけど……相棒はすみっこが好きかな。どこか端っこ空いてないかな?
あー……でも、こういうのって壁際の方が人気なんだっけ? 行った事無いけど、同人誌云々で壁サーとかなんとかSNSで見た事ある気がする。フリマも一緒かな?
結局、転移場所から離れた方向が割とスカスカしてたから、そこに適当に収まることにした。
敷物用の布を敷いて、座布団を置いて、品物を並べる。
店の広さの制限は特にないから、品物をイイ感じに置けて目が届く程度の広さにしておこうね。
エフォは他プレイヤーのアイテムを万引きしたりはできないから、持っていかれる心配はないんだけど。
でも装備品ではないから鑑定はできる仕様。かゆい所に手が届く。
木材を少し置いて、そこに箒とリュートなんかの大きな物を立てかける。大きな鳥籠も乗せておこう。
知恵の林檎を山盛りにした籠は、金額と説明と僕らが引いた知識を例として書いた板を一緒に置いておく。リンゴは一人一個までだよ。
あとは本と小物をそれぞれお盆に乗せて、貰った相場を元に作っておいた値札へ金額を書き加える。フリマの趣旨は初心者支援がメインって事だから、ほとんどNPC売値そのままにすることにしたよ。それを添えれば準備はOK。
……うん、既に楽しい!
ファンタジーな世界観で露店を出すのって良いねぇ。毎日やりたいとは思わないけどさ。
あとは一人でもお客さんが来て買ってくれたら、もう大満足だよ。
誰か来るかなー?
相棒も僕の後ろでペンポロペンポロとリュートの演奏を始めた。
……ねぇ、なんかスーパーとかでよく流れてる曲っぽいのは気のせい? 笑っちゃいそうになるんだけど?
* * *
最初にやってきたお客さんは、なんと人じゃなかった。
「ピチチチチッ」
小鳥だ。
可愛い手のりサイズな水色の小鳥ちゃんが、どこからか飛んできて鳥籠をちらちらと眺め始めた。
格子の幅を確かめたり、上に乗ってみたり、扉の位置を確かめたり、中をジロジロ覗き込んだり……すごく、品定めされている感じがする。
「ソーちゃん! 待ってー!」
「ピッ」
たぶん飼い主さんっぽい人が、遠くから慌てて走ってきた。
「すいません! その子うちの子で、急に飛んでいっちゃって……」
お気になさらず。顔の前で手をひらひら振る。
テイマーさんかな?
従魔連れて名前呼んだら匿名も何も無い気がするけど、まぁ気にしない人は気にしないか。
しかし、当の小鳥に反省の色が無い。
鳥籠に乗ったまま「チッピチッピ」と鳴いて何かを主張している。
「え、何? もしかしてお家欲しいの?」
「ピッ」
「……まぁ今の寝床ただのクッションだし、籠も可愛いからいっか。これくださーい」
わぁお、一番需要不明な物が最初に売れちゃった。
さくさくと支払いしてもらって、鳥籠を引き渡す。
買ったついでに気になったのか商品を眺めていたお客さんは、マーブル模様のオカリナに目を止めた。
「……えっ、なにこれ。幻獣に効果? マジで?」
マジです。
幻獣の所在は不明だけどね!
そこは自分で見つけてもろて。
使ってる素材が素材だからか、NPC売値でも決してお安くはないんだけど。それでも幻獣が気になるのかお買い上げ。
まいどどーもー。
作っておいた文字看板でお見送り。
『ありがとうございました』
「どーも。……今度は勝手にどっかいかないでよー?」
「ピチチッ」
うん、当の小鳥に反省の色が無いね。
あれはまたやらかす。間違いない。
* * *
次にやってきたのは男女のペア。
見た目は黒マントなのになんで女の子だってすぐわかったかって言えば、豊かなお胸の自己主張が素晴らしいから。
男は剣を腰に吊ってるし、女の子は杖を持ってるから、絵に描いたような剣士と魔法使いのコンビかな?
その女の子の方が、うちの店を見て、男の襟首を掴んでビタッと止まった。
当然男は首を引っ張られてたたらを踏む。
「おわあっ!? なんだ、どうした?」
「…………」
女の子は無言で箒を指した。
お、キミも魔女が好きな口かい? お目が高いねぇ。
とりあえず『いらっしゃいませ』看板持っておこう。
「なんだ、箒? ……あ、杖なのか。えっ、しかもそこそこ強いな!? これ欲しいのか?」
「…………」
女の子は無言でこっくり頷く。
「じゃあ買うか、値段も安めだし。お、なんか他にも見た事無い物売ってるな……」
女の子が箒の形をじっくり選んでいる間、男の方は【刻印】を入れたアクセサリー類を見て目を丸くした。
「えっ、なんだこれ!? ステータスアップのアクセサリーなのに、安っ!? ……刻印、ってこの魔法陣みたいなやつか……え、なんで皆これやらないんだ!?」
それな。
僕も謎だよ。
「マジか……今朝始めたばっかりだからすげぇ助かる」
「…………」
「お、そうだな。リボンも買うか」
わぁ、めっちゃ初心者だ。頑張ってねー。
ラノベのヒーローヒロインみたいな二人で面白いなぁ。
かわいいからリンゴサービスしちゃお。
こういう緩い事ができるのも、フリマの良い所。
『ありがとうございました』
いくつかお買い上げした二人は、ほくほくした雰囲気でリンゴを齧りながら去っていった。
男の方は食べるのが早くて、そう離れない内にぺろりとリンゴが芯になる。
「……えっ、マジで!? ピリオの食堂って裏メニューあんの!?」
「…………」
へぇー。NPCの店の情報とかも出るんだね、このリンゴ。




