表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
479/587

幕間:空に広がる魚の歌

ちょっと短めです。


 最近流行のフルダイブVRMMO『Endless Field Online』


 そのゲーム内のとあるマップに、その男は佇んでいた。


「は〜……うちの子ってヤベー新種だったんスねぇ〜」


 空は遮るものが何も無い。

 広い、広い、ただ広大すぎる蒼穹を仰ぎ。


 その下は。

 白く、白く、現実味の希薄な純白の雲海。

 そして綿のような雲を貫くように、奇妙な形の細長い岩が幾本もそびえ立っている。


 そんな風変わり極まるフィールドで、男は1人、雲の上に立ちながら、ゲームのシステムウィンドウをスイスイと操作していた。


「へへっ、でもこの感じなら序盤からボロ儲け出来るっしょ。いくらになっかな〜?」


 男の周りには、白みがかった蔓草が雲から生えている。

 蔓草は支柱も無しに宙へ向かって伸びていて、その先端に、ぷかぷかと浮かぶ羊がついていた。

 尾が雲に繋がる蔓草になっている、大玉のスイカ程もあるそのクラウドバロメッツは、メェメェと鳴きながらぷかぷか浮かんで男に擦り寄ってくる。

 男は、まるで雲のようなその体を、ウィンドウの操作をしていない方の手で撫でた。


「イイ感じの装備とか〜、便利な魔道具とか〜……まぁ買いたい物は色々あるっスけど……」


 男は背中に半透明の膜のような羽を持っていた。

 けれどその身体は、小柄ではあるがフェアリーのように小さくはない。

 その腰に吊るされているのは、初心者人魚に人気の【水魔法】が込められた水筒型魔道具である。


「何よりもっ! 軽くて頑丈な建材が欲しい……っ!」


「クゥッ……」と切なそうに歯を食いしばる男の後ろには……建設途中で崩れ落ちた木の小屋の残骸と、地盤となる雲が耐えきれずに根元から倒れた木があった。


「家がっ、家が欲しいっス! 文字通りの青空拠点っ! 雲をこねても風で流れ、木材は強風が吹く度に雲を掘り返して倒れ、石材は沈んで埋まって消えていった……! いい加減、脱・ホームレスしたいっスー!!」


 嘆き叫ぶ男に、クラウドバロメッツ達は慰めるようにメェメェとまとわりつく。

 そんなぷかぷかとするふかふかを、男は半泣きで抱きしめた。


「慰めてくれるっスか? 優しい羊っスようちの子達は! ……では、この感情を歌います。聴いてください、『バロメッツ讃歌第17章〜わたあめが食べられなくなりました〜』……さん、はい!」


 爽やかな青空の下に、空に負けない程爽やかな男の歌声が響き渡る。

 蔓草から生えた羊達は、ウキウキと嬉しそうな顔でその歌を聴いていた。


 男とバロメッツ達の他は、誰もいない。


 歌声に応えるように、風が吹く。


 風が岩の間を吹き抜けると、とても美しく綺麗な音が鳴る。

 そして同時に、奇妙な形の岩の隙間に風が通る度に、小さな雷の欠片が生まれ落ちて、パチパチと弾け煌めいていた。


 風が鳴る。

 風が歌う。


 ここは『風鳴りの空雲高原』

 たった一人、歌う男だけが、初期入植者としてやって来た、次元のズレた場所。


「……ご清聴、ありがとうございました!」


 満足するまで歌い終えた男が深々と頭を下げると、羊達がメェメェと賛辞を送る。

 その歓声に「どーもどーも」と応えながら、男は開きっぱなしだったシステムウィンドウを横目で眺めた。


「やっぱり森一味の拠点の情報って全然無いんスねぇ……たぶんあの人らも、こういう所にいるんだと思うんだけどなぁ〜」


 朗らかな独り言を重ねた男は……やがてふら〜っと体が傾いて、その場にバッタリと倒れた。


「うぐ、しまった……水っ……水ぅ〜……っ!」


 男とバロメッツ達の他は、誰もいない。


 掠れた声に応えるように、風が吹く。


 やがて男は、慌てふためくバロメッツ達によって水筒を口元に運んでもらい……なんとか事なきを得たのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつから人魚はアイアンキングになったんだw
個人的に特殊入植組初のバード系だろうことが気になる。しかもリアルにお歌が上手な部類だろこの兄ちゃん。セイレーン(昔の鳥魚人間)系だったりするのかな?
「軽くて丈夫な建材」って言っているけど、軽いと飛ぶし、丈夫でも地面(雲)が支えられないなら意味ないかと… また、岩(雲の上にあるなら特殊素材だろうけど)があるなら建材に出来るのでは? 砕くか削るかして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ