キ:緑溢れる瓶詰めで、フィニッシュ。
いやぁ、ひと口に瓶詰って言っても色々あるもんだね。
ハーバリウムもあったし、観賞用ならボトルシップもいくつかあった。すごく綺麗なのは購入希望の紙が溢れたのか、箱がひと回り大きくなってたよ。
小さな人形とかミニチュアが小瓶に入ってるのもあった。
小物系を小瓶に入れただけで、なんでこんなに可愛くなるんだろうね?
変わり種だと杖代わりになる瓶とかがあった。
扱いが武器で、魔法を強化する効果のある素材をギッチリ詰めた物。
でも素材を詰めただけで工夫みたいなのはあんまりされてないからか『材料費が割高で、値段の割に弱い』って話してる職人さんがいた。
かわいいから作った人には頑張ってその方向突き詰めて欲しくて、投票しておいた。
そんな風に見学しながら……ついにやってきました。
瓶詰の大御所、と僕は勝手に思っている、テラリウム。
ここは生きてる植物コーナー。種とか苗とかも含む、色んな植物が瓶詰めになってる所。
やっぱ綺麗な瓶と言えばね、これよ。
エフォだとこの辺は、飾ってもよし、中身を出して自分の拠点で育ててもよし、っていうインテリアと素材の中間みたいな感じになる。
無限に広がるフィールドのあちこちから持ち寄られた植物達は、知らない草木がいっぱい。
テラリウム系は中が綺麗に整えられていて見応えがあるし、種は出品者が工夫して蓋のあたりに成長後の姿が描いてあったり、生の花を直接括り付けてあったりする。
リアルのガーデニング系のフェスタみたいで、見てるだけで楽しいねぇ。
「あーいいねー、花の根元に小さい人形いるやつ」
「雰囲気あるな」
「わー、この大瓶、中にでっかいカブが生えてる」
「……でかいなぁ」
「あ、透けてる多肉ちゃんだ! これはオークションしないと」
「躊躇いが無い」
のんびり楽しみながら見て回っていると……何ヶ所か人だかりになっている瓶詰があった。
「なんだろ?」
「さぁ……」
ヒトの隙間からちょっと覗いてみる。
……瓶に入ってるのは、種かな? 小瓶があって……『在庫豊富』のポップが貼られている。
種の種類はー……
「『クラウドバロメッツ』だって」
「……わからん」
スレで検索してみると、どうやら未出の種類の植物らしい。
たぶん、マンドラゴラちゃんみたいに生き物の羊みたいになる植物なのかな? でもクラウドってついてるから、雲系なのかな?
「え、ちょっと欲しい……行ってくる」
「行ってらー」
人だかりの横から、「ちょっとすいませーん」って手刀のポーズで通してもらい、金額と名前を書いた紙を入れてきた。
(いくらにした?)
(100万)
(おお、結構いったな)
(初出の種だし。在庫は多いみたいだけど、人も多いから)
って事は、初出の植物にこうやって人が集まってるのかな?
その予想は大当たりで、次の人だかりは僕らが出品した種だった。
「マックラゴラ……」
「光のマッシラゴラは既出……で、闇がマックラゴラかー」
「ついに闇のマンドラゴラに成功した奴が出たんだな……」
闇のマンドラゴラって言うと、なんかすごい強そう。もしくは悪い組織がこっそり栽培してそう。実態は全然そんな事無い、かわいい大根っぽい夫婦なのにね。
ガン見してる人達は、ザワザワしながら手元の紙に金額いくらって書こうか悩んでるみたいだった。
そうだね、20個くらいじゃ『在庫豊富』のポップ貼られないみたいだし、集まってるこの人数がみんなライバルって考えると、悩むよね。
(耳にペン引っ掛けてると市場のセリ感がすごい)
(……まぁ間違ってはいないんじゃないか? 初物だし)
いくらになるかなーって、ちょっと夢が膨らむね。
僕が散財した分なんか、意外と簡単に取り戻せたりして?
「相棒も、欲しいものあったら買っていいんだよ? 僕ばっかりお金使ってるし」
「……ふむ」
そう呟くと、相棒は「じゃあ……」っていいながら歩いて来た通路を少し戻った。
「それなら……これ買っていい?」
「いいよ」
即答してから小瓶を見る。
「……ベラドンナの種」
「そう」
「確か毒草だよね?」
「そう、魔女の草」
「おおー、うちにピッタリじゃんすか。買おう買おう」
ご覧くださいよこの魔女らしい三角帽子を。僕は称号だって魔女でしてよ。
そして蓋に書かれてた和名は狼茄子。ますますうちにピッタリじゃんすか。何ひとつ躊躇う必要無いよ。むしろ買って。
相棒が金額を書いて投入。
ベラドンナは既出だから、そんなに高くなくても大丈夫だろうって踏んで、3万くらいにしたらしい。
「いやぁー、他の皆の金額がわかんないからちょっとドキドキだね」
「それな……これ手数料だけでも運営の儲けすごいぞ」
「だろうねー!」
売り上げの1割が運営に入るから……僕がさっき投入したバロメッツが100万リリーで通ったら、それだけで運営に10万入るわけよ。僕が他のヒトに競り負けたら、それ以上の金額が入るわけよ。やべぇわ。
でもこのイベントの良いところは、出品者が売り手としてついていなくていいってところ。
出したらそれで放っておいてもかってに売れるから、買い手としてのんびり見て回れるんだよね。もちろん売るのは楽しいんだけど、やっぱり掘り出し物を買う時間は欲しい。
だから手数料を取られても特に不満は感じない。
「フリマとはまた別の満足感がある、不思議」
「楽しそうで何よりだ」
そんな感じで、瓶詰展示会の見学デートは幕を閉じたのだった。




