ユ:キモコワ系の瓶詰と
俺達が賑やかなコーナーを通過すると……ぽっかりと棚が無い空間にカーテンのかかった通路があって、そこにも案内板が立っていた。
「こっちは……『ヒトによっては不快に感じる可能性の高い瓶詰コーナー、閲覧要注意、自己責任』だって」
「あー」
まぁそういうのもあるよな。
悪戯とかじゃなくても、素材としてあるちょっとキモいモノは瓶に詰めれば普通にキモい瓶になる。
「どうする? 入ってみてもいい?」
「……見たいの?」
「怖いもの見たさでちょっと覗きたい」
「まぁいいよ」
自己責任な、駄目だったら出ればいい。
重いカーテンを潜ると、ホールほどじゃないがそれなりに広いフロアがある。
広いホールに比べるとやや薄暗い部屋に入って……俺達は同じに「「ああ〜」」と納得の声を上げて頷いた。
初手で集合体恐怖症がUターンしそうなツブツブの詰まった瓶。
その隣にはデカいムカデの入った大瓶。
さらに隣には、よく集めたなって量の細長い芋虫がギッチリ入った瓶。
その他にもまぁ足の多い虫系や、ちょいグロな生き物の部位を大量に詰めたモノなんかがジャンルを問わずに並べられている。
(だよね~、こういうのだよねぇ〜……あー、この蓮コラっぽいのゾワゾワする!)
(それな……あ、蜘蛛だ)
(おおーっと! 僕はその瓶はノーセンキューでしてよ!)
こういうのが好きな人もいるだろうから感想は念話で伝え合う。
昨今のフルダイブVRファンタジーは爬虫類にこういう配慮はされない事が多いから、トカゲなんかはここにはいない。
(あ、サソリだ)
(……蜘蛛駄目なのにサソリは平気なの?)
(サソリは僕の中でカッコいい枠に入るかな)
(えぇ……)
(言うて相棒だって蜘蛛平気でも羽虫とテントウムシ駄目じゃん)
(正確には飛ぶ虫と脆い虫だな……)
(わからぬ……)
こういうのは人によって感覚が違うからな……
うわー、うわー、と念話で言い合いながら瓶詰めを眺めて、フロアを区切っている衝立で作られた角を曲がり……俺達は人影を見かけてピタリと足を止めた。
そこにいたのは男女のコンビ。
何度か見かけているラノベ主人公のような、無口な女の子と剣士の男。
女の子の方は、男の腕をガッチリと掴んだ状態でプルプル震えながら瓶詰をガン見しているようだ。
「……………………………………………」
「おーい、大丈夫かエミリー? 無理して見なくていいんだぞ?」
「…………」
「そんないつかの一人暮らしの訓練ったって……虫が出たら俺呼べばいいだろ?」
「……! ……?」
「いいよ深夜でも。いつでも呼べよ」
……ほう。
俺達が念話で話しているから存在に気付いていないんだろう。
男の方はともかく、女の子の方は甘酸っぱい青春な雰囲気を漂わせている。
どうしようか……と隣に目線をやれば、実にいい笑顔の相棒と目があった。
(そっとしておこう!)
(OK)
出来るだけ物音を立てないように、俺達はそっとキモコワコーナーを後にした。
再びカーテンを潜る時に、1人の男とすれ違う。
キーナが満面の笑みなのを見た男は、不思議そうに首を傾げながらカーテンの向こうへと消えていった。……まぁ、そんな笑顔になりそうな場所じゃないからな。
そして数秒後、男は苦虫を噛み潰したような顔をしてカーテンから出てきたのであった。
* * *
(そういえば……さっき見た部屋で目玉がいっぱい入った瓶見て思い出したんだけどさ)
(うん?)
(うちの拠点の近くで取れる素材をね、ある程度集まったらクロちゃんに結晶にしてもらおうと思って忘れてたなーって)
(……あぁ、鹿の目玉とか?)
(そうそう)
そういえばそうだったな。
なんだかんだクエストだのイベントだので色々あって意識から抜け落ちていた。
(色々素材の確認したいし……イベント落ち着いたら拠点でのんびり作業する時間取ろうかー)
(うん)
念話でそんな相談をしていると……キーナがまた変な瓶を見つけた。
「見て見てこれ! 逆さにして被って使う防護マスクみたいな瓶だって!」
「……蓋がスライムみたいな素材で頭を密封しつつ、内側に生えてる葉みたいなのが空気をどうにかしてる……と」
大喜びしたキーナは、いそいそと30万リリーの値段をつけて用紙を投入していた。
(……水中呼吸薬あるのにどこで使う予定?)
(あのヤバいキノコ島)
(……あぁ)
そういえばあったな、胞子まみれでヤバい島が。
(……デミ・レイスは霊体になれば胞子の影響受けないんじゃ?)
(僕が平気でも相棒に必要じゃん)
(あ、俺用?)
マジか……この瓶被るのか……
(……布のマスクとかでなんとかならないかな……)
(なるといいね!)




