ユ:住民NPCの結婚イベント
ログインしました。
チェンジリング関係のクエストは、城が忙しくなりすぎたので後日報告と報酬をという事になり、一応妖精女王にも顛末を報告しお褒めの言葉を貰って終了。
ミミックの卵は、俺達は別に欲しく無かったから、証拠品も兼ねて魔術師団長に渡してきた。
そういう感じで事件をひと段落させて、今日ログインした俺達は……
「マスター! 旦那様ー! マックラゴラとマッシラゴラが結婚するっテー!!」
「ええええええええっ!?」
「何ぃい!?」
ログイン早々、新たな事件に出くわした。
* * *
ここで、拠点の住民NPCの文化について、改めて確認しておこうと思う。
サービス開始からしばらく経って、スレだのwikiだのにまとめられた内容を見るとこんな感じだ。
基本的に、拠点の文化は開拓主であるプレイヤーが決められる。
建物は開拓プレイヤーが建てるか、NPCが建てる場合もプレイヤーの指示を受けて動くものだから、建築様式は当然プレイヤー準拠。
着る服も開拓初期はプレイヤーが用意する物で、拠点が発展してNPCの服屋が出来る頃には、それまで住民NPCに提供していた物を元にした服飾文化がAIによって学習されている。
食事や生活スタイル、使う道具や作る物の傾向なんかも同様だ。
開拓初期の頃に驚いた『☆フェアリータウン☆』のアマゾネス軍団なんかも、こうして確認してみれば別に不思議でもなんでもなかった。ああいう文化になるように、プレイヤーが染め上げていたってだけの話だ。砂漠の街なんかはその典型例だな、あれはすごかった。
そして結婚についてだが……式だの指輪だのの形式は、プレイヤーが決められるらしい。
住民NPCがNPC同士で結婚の約束をすると、『ここでは、結婚はどのようにすれば良いか?』と開拓主のプレイヤーにお伺いを立ててくるから、そこでプレイヤーがやり方を指定すれば、それが自拠点の結婚の作法としてAIに学習されるわけだ。
神前式でも人前式でもいい、式無しで役所に書類出して終わりでもいい。指輪交換も別のアクセサリーでもいいし、いっそアクセサリー無しでも構わない。三日三晩ドンチャン騒ぎをしようが、ちょっと記念のお菓子を近所に配って終わりとかにしてもいい。
なおピリオノートは『ククロスオーブ王国の定番様式』が運営によって決められていて、自拠点の結婚希望NPCへ『好きにしていい』と伝えるとピリオノートと同じやり方で結婚する。
こんな風に、式については自由度が高いが……結婚相手の人数についてはシステムで決められている。
平民は一夫一妻。
貴族も基本は一夫一妻だが、妻も夫も愛人持ち可。
……たぶん貴族は、その設定を元にしたドロドロの人間関係からのクエストとかがあるんだろうな。
というわけで……俺達の拠点にも満を持して住民NPCの結婚イベントが降って湧いたわけだ。
「つまり結婚式の準備をすればいいんだよね?」
「まぁ……式をしたいなら、そういうことだな」
純白の大根と純黒の大根の結婚式をな。
「したい?」
「したい!」
したいのか……
キーナは満面の笑みでウキウキとしている。自分の結婚の時は『式とか絶対にしたくない』と断固拒否の構えだったが、ゲーム内のお気に入りNPCの結婚をお膳立てするのは楽しいらしい。
なお、俺はどっちでもいい。自分の式も、NPCの式も。
「どんな感じにする?」
「ん〜……まず、マンドラゴラちゃん達って、オスメスあるのかな?」
「……さぁ?」
当の大根達に確認してみた所……特に雄株とか雌株とかは無かった。性別を気にせずパートナーになれる種族のようだ。
「じゃあドレスとかじゃなくて……指輪役を兼ねて、お揃いのリボンを着ける感じにしようかな。結婚後は普段から着けても着けなくても、個人の自由って感じで」
「いいんじゃない。ただそれなら、ある程度丈夫な素材にした方がいいかもな」
「だねぇ、普段屋外にいる子達だし」
そう言うと、キーナはいそいそと転移オーブへ向かおうとしたので一旦引き止めた。
「……買い物行くの?」
「うん。リボンの素材買ってくる」
「……店員に説明するつもりなら一応変装していった方がいいかもしれない」
「そう?」
マンドラゴラを貰ったのが変装中の事だったから、一応な。
森女スタイルで出かけた相棒は、それほど長くかからない内に戻ってきた。
「布売ってる店で『マンドラゴラちゃん達の結婚指輪代わりのリボン用に』って言ったら、なんか店員さんが大笑いしながら大はしゃぎして選んでくれた」
「よかったね」
買ってきたのは艶のある緑色のリボンだった。
そのリボンに、マリーが刺繍とレースの飾りをつけて仕上げる。白い糸の物と、黒い糸の物。
あまり堅苦しい儀式みたいにはしたくなかったのか、オバケたちの籠がある広場に皆を集めて、そこで大根カップルの茎の生え際にリボンを結んで、それで結婚式って事になった。
「おめでトー!」
「おめでとうございます!」
「めでたいデスナ!」
「若者が番うのは良いものじゃなぁ」
「我々なんて死んでおるしな!」
「笑い事ではないのだが……?」
「ケッコン」「夫婦になるコト」「よくやるね」「ネ」
「オレサマこういうのは無縁だったなぁ」
「気の合う相手がいたら一緒にいればいいのニャア」
「はー……ちょっと羨ましいわね……ちょっとだけ」
「ダディもいつかは本当のダディになりたいですコケ」
「我ら鳥類同盟はフッシー殿以外はまだ存命ですからいつかはそのような機会もある事でしょう。かく言う私も世界一プリティなプリティシマエナガをプリンセスシマエナガとしてお迎えしたいと思っております!」
……思いがけず鳥類達の結婚願望を耳にしたりしながら、幸せそうなマッシラゴラとマックラゴラは、めでたく夫婦となったのであった。




