キ:皆さん、ミミックのお知らせです。
再開します。
なんという事でしょう!
托卵エッグはミミックの卵だったのです!
……と、いうわけで、ミミックについて僕らは改めて確認をしてみた。
そもそもエフォのミミックは、ファンタジーゲームによくある宝箱に擬態しているモンスター。
鏡のダンジョンで出会ったミミックから推測するに、大人のミミックは周りの環境に合わせて姿を変えたりはしないと思う。周りが全部鏡のダンジョンでも、見た目は宝箱のままだったから。宝箱の見た目のモンスター、それがエフォのミミック。
つまり、人工物ありきのモンスターなんだよね。
ヒトの言葉とか普通に喋るし。
「……って事はさ、やっぱりこの世界には野生で生息してない……本国の方の世界の生き物だよね?」
「たぶん」
一度拠点に戻ってからスレを検索して調べてみると、前に僕らがわからせたミミックと対話した検証勢の人も、そう結論付けていた。
「……じゃあこの卵イズ何だろ?」
「……さぁ?」
卵の仕様から、托卵っぽい事する生態なのは間違いないと思う。
でも、ミミックが自分でピリオノートのニワトリ小屋に卵を紛れ込ませに来たわけじゃあなさそう。
ミミックは、今はテイムしてるプレイヤーは少数だけどいるらしい。
ハロウィンパレードで【鏡魔法】が使えるオバケを希望した人がいて、僕がいなくても鏡のダンジョンに出入り出来るようになったから。ミミックが欲しくて確保しに行った人が何人かいて、スレに喜びの声を書き込みしていた。
……でも、自分の従魔を繁殖させるのはともかく、その卵をピリオのNPCが管理してる豆ニワトリの巣箱に入れたりするかなぁ? 愉快犯はどこにでもいるから、可能性はゼロじゃないだろうけど……
「……メタい話になるけど、プレイヤーの所持扱いの卵だったら、他プレイヤーに所有権が渡るチェンジリングのクエストに使われないんじゃないか?」
「……だよね」
そしてわざわざ特殊な方法を取らないと入れないダンジョンの従魔を、さらに繁殖なんて手間をかけた卵を放棄するってのも考えにくい。
って事は、NPCが故意に紛れ込ませた卵って線が濃厚。
「……ただ、やったのがNPCでも普通にアウトだよね? たぶん兵士に捕まる案件だよね?」
「それはそう」
ミミック、完全に肉食だったし。
卵が孵ったら豆ニワトリ全滅コースしか見えない、なんならNPCにも1人2人は被害が出そう。
「……つまりお城案件かな!」
「通報しに行くかぁ」
エフォはこの辺の判断をプレイヤーに委ねてくるのが怖いゲーム。
NPCに頼まれないと、通報しよう!みたいなクエストは出ないんだよね。得た情報をどうするかプレイヤーに委ねてくる。
それが大局に影響が出るから油断できない。
変装はしっぱなしだったから、僕らはそのままピリオノートに飛んでお城へと向かった。
* * *
「ピリオノート内で卵を産む家畜を飼っている家へ走れ! 安否確認!」
「大至急冒険者ギルドに依頼を!」
「【解析】持ちそんなにいますか!?」
「ちょうどフェアリーの冒険者が貴族のフェアリーへ多く弟子入りしていたはずです!」
「各開拓地へも書簡を送れ!」
「クロウ隊準備ー!」
なんという事でしょう。
お城へ事の次第を報告して卵を提出したら、こっちもスライムハウスに負けず劣らずの大騒ぎになったではありませんか。
いつもの魔術師団長さんに面会してクエストの流れを説明したら、「よくやった少し待っていろ!」とノンブレスで言い残して飛び出して行った。
開けっ放しの扉の向こうで、お城の人達がすごい勢いで走り回ってる……
部屋に残っていたメイドさんが、お茶のお代わりを淹れてくれた。お礼を言って、のんびり温もりと一緒に味わう。冬の温かいお茶は嬉しいね。
メイドさんは前に見た事のあるプレイヤーのメイドさんだったから、魔術師団長さんがまだ戻らない事だし、ちょっと声をかけてみた。
「メイドさんは、今って少しお喋りしても大丈夫です?」
「はい。ロズ師団長がお戻りになるまででしたら」
オッケーが出たので、軽く今の状況について話をしてみた。
メイドさんは最初から部屋にいたから、内容は知ってるしね。
「今回の事って……たぶん人災だと思うんですけど、こんな派手に動いて大丈夫なんですかね?」
「人命を優先しているものと思われます。見落として街中でミミックが成長するのは危険ですから」
「メイドさんはミミックに詳しいですか?」
「ミミックにというか……城勤めをするにあたり、過去に本国の城で起きた事件や事故について教わりまして。その中に、ミミックについての知識が含まれておりました」
へぇー!
なるほど、城にお勤めする遊び方をしてる人は、お城のNPCからそういう情報をもらいやすいんだねぇ。
「そもミミックは……大昔の大戦時代にヒトが作り出した魔法生物兵器の1種だそうです。卵を潜り込ませ、幼体でテロ行為を、成体は拠点の守備を、というように運用する物なのだとか」
「あ、本当に存在からヒトありきだったんですねぇ」
「ええ、そのようです。……なので今回の事も、おそらく何者かが故意に卵を持ち込んだ可能性が高いかと」
やっぱりそういう話になるよねー。
うんうん、と頷く僕らに、メイドさんは少し困ったような苦笑いを浮かべた。
「本国からその手の物を極秘に持ち込むとなれば……高位貴族の関与が疑われます。お二人とも……くれぐれもご注意なさってくださいませ」
「……ハァーイ」
「……ハイ」
やっぱり貴族がどうのって話になるよねー。
僕らの拠点は異次元にあって本当に良かった!




