キ:ロックスの復興と、スライムコミュニケーション
無事にスライム生息地の地図を手に入れた僕達は、スライムの住処探しを開始。
まずは様子を確認したかった『石の街ロックス』へオーブを使って転移する。
オーブが破損して壊滅状態になっても、復旧後なら普通に転移可能、登録が消えていたりもしないから安心。
そうしてやってきたロックス跡地は……だいぶ壊滅前の面影が無くなっていた。
岩山の上で、石切場を中心に必要な施設がゴチャゴチャと固まっていた場所は、今は綺麗に整えられた高台の広場になっていた。
転移オーブがある広場は、砦の屋上って感じになっているみたいで、ここから、前とは比べ物にならないくらいに広くなった街を見下ろす事ができる。
かなり岩山を削って地形を変えたみたいで、すごく見晴らしがいい。
周りの岩山をいくつか巻き込むようにして新しく建てられた防壁は、前よりもずっと規模が大きくて。その中に、前よりも広くなった石切場と、前よりも規模が大きくなった立派な石造りの街が建築されている所だった。
(えっ、違う所に来てないよね? ロックスだよね?)
(ロックスだよ)
かなり本格的に作り直したねぇ。
もう全然別物になってるから、建築の邪魔にならない程度に少し見て回る。
建築の雰囲気はほとんど変わっていない、純粋に大きめに多くなっている。
NPCっぽいヒトの数は前よりも増えたかな。
あ、お土産屋さんには定番のタンクトップがある!
(なんか……前のロックスからレベルアップした感じだねぇ)
(レベルアップというか、バージョンアップというか)
なんて思いながら観光していると……見覚えのある一団が、工事現場にいた。
「後は物見櫓に見張りの射手が欲しいですニャ」
「射手はNPC雇えればいいよな」
「おうおう、随分と気合入っとるのぉ」
「だってぇー、思い入れあったのに壊滅したの悔しかったんだもん」
「ですニャ! なので今度は絶対に! このロックスを落とさせたりしませんのニャ!」
あー、そうだよね。あんなに必死になって辿り着いた街だったんだもんねぇ。
苦笑いしているおっちゃんアバター達に熱弁を振るう三人を微笑ましく眺めて、僕らはロックスを後にしたのだった。
* * *
ネットで確認してきたスライム情報によれば、スライムはちょっと湿度の高い場所を好んで住み着く性質があるらしい。
だからロックスに近い場所のスライムの巣は、岩山に空いている小さな洞窟の中にあるんだとか。
ベロニカに誘導してもらって、僕らはその洞窟付近まで来る。
そこで相棒がサーチワンコを呼び出して、預かってるスライムの卵を見せて確認をしてもらう、という流れ。
「どうだ?」
「……クゥーン、ワフン」
「そうか、ありがとう」
「どうだった?」
「ここじゃないって」
ふむふむ、残念。
でも突入前にわかるのは助かるね。
「じゃあ次行こうか」
「うん」
ロックス付近はハズレ……その次のサウストランク付近もハズレ。
そして3箇所目のブリックブレッド付近で、サーチワンコがピコンと反応した。
「ワンワン!」
「お、当たりか」
「おおー!」
駆け出すサーチワンコの後に続いて走ると、段差になっている地形の下に、ポッカリと横穴が空いている所に辿り着いた。
たぶんここが、スライムの巣の入口で間違いないと思う。
……ただ、その入口が問題だった。
「プニャプニャプニョ プニリププープ プリョニ!」
「なんて?」
「さすがにスライム語は俺の自動翻訳スキルの範囲外だなぁ……」
「ワフン」
濃い緑色をした大きめスライムちゃんが、フンスフンスしながらキリッとした目で入口を塞いでくるのだ。
ラージモススライム Lv15
レベル的には余裕で押し通れるんだけど……チェンジリングされた卵を返しに来た身としては、敵対行動は取りたくない。
「ププニョププーチャ プニプニポニュロニプンプ!」
「……どうしよう。スライムと意思疎通する方法を考えてなかった」
「それな……」
「スライムホームページには載って無かったよね?」
「無かったはず……それこそさっき貰った本とかに書いてない?」
「あ、どうかな……」
スライムに突進しそうだったサーチワンコを抱っこした相棒に見守られながら、スライムの豆知識冊子を急いでチェック。
「……んんんん……『スライムは食べた物や環境によって種類が変わって、同じ種類同士で群れになる』……」
「じゃあ餌付けみたいな事はしない方がいいな」
「……『スライムの卵は透明で、生まれたてのスライムは全部透明な『ピュアスライム』で、親に餌を貰う事で同じ種類に進化する』……」
「つまり卵で親スライムの種類はわからないって事だな」
むむむむむ……そんな内容はスライムの巣に入ってからの話なんですよ。
必要なのはその一歩手前。
「……あ、これはどうかな! 『スライムは同じ群れ同士、同じ動きをして挨拶をする!』」
「なるほど……スライムはアクティブじゃないらしいし、やってみるか」
サーチワンコをそっと帰還させて……僕らは立ち塞がるスライムの前に座った。
目線を合わせて、スライムと同じくらいの高さになってみる。
するとスライムは、キリッとしていた目をパチクリさせると、ぷるんと震えてから、ムニュンと反り返るような形になった。
お、いけそう?
えーっと、これを真似するわけだから……僕らは地面に両手を着いて、猫がグーッと背筋を伸ばすような姿勢になってみた。
すると、スライムは……そこから反り返った上の部分をぐるりと捻って、1回転……2回転……3回転……
「無理ー!」
「首が捩じ切れる……っ!」
ドシャア……っと崩れ落ちた僕と相棒。
それを見下ろして、なんかドヤ顔してるスライム。
「……てか、スライムの説得はスライムにしてもらおう。うちにもスライムいるんだから」
「え……あ、ああ! いたねぇ!」
そうだ、そうですよ、うちにはオヤスモースライムちゃんがいるじゃんすか。牛要素強すぎてスライムだって認識あんまり無かった。
スライムを家畜に出来るのか分からなかったから、一応相棒がテイムはしてあったんだよね。僕らの中では豆ニワトリちゃん達と同じポジションだから、個別の名前はつけて無かったんだけど。
【召喚魔法】で呼び出すと、オヤスモースライムはキョトンと不思議そうな顔をして「モォー」と牛の声で鳴いた。
事情を説明して説得をお願いすると……モススライムに近付いていく。
「モォー」
「プニィ?」
「モォオオー」
「プニャプニョ プルリプニュプニュ?」
「モォーモォー」
(……あれ通じてるのかな? どう聞いても別言語だけど)
(さぁ……?)
……結果としては、通じた。
ラージモススライムは、僕らを見て「プニョン」と鳴くと、洞窟の入口からどけてくれた。
((いいんだ……?))
スライム語は、僕らはわかる気がしないや。




