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ユ:妖精女王


 慌てて隠し通路に飛び込んだ俺達は……次の部屋に入ってすぐにあった欄干を勢いのまま飛び越えて、下の池までまっすぐ落ちた。


「あー……」

「わー!!」


 派手に上がる水飛沫……とはいえ、今は体が小さいから周りへの影響は少ない。

 小人の大きさだとそこそこ深いが……通常の大きさだったら、膝くらいの深さって所か。


 落下の勢いで沈むのが止まった所で水面に向かって泳ぎ始める……と、明らかに不自然な浮力で体が水面へ引っ張られた。


(おおお?)

(なんだなんだ)


 ザバッと水面に上がって……そのまま上昇し、体が水面の上の空中に浮かんだ。


 ホールと同じ白い壁に囲まれているそれなりの広さの部屋は、一面に水が張られた池になっていて、大量の大きな蓮の花が満開になっている。

 後ろを振り向くと、通常のヒトサイズの大きな扉があり、その横に俺達が入ってきた小さな通路用の長い階段が池に向かって伸びている。

 部屋には魔法陣のような丸い天窓があり、そこから差し込む陽の光でひときわ明るく照らされた蓮の上に、アゲハ蝶の羽を持つドレス姿のフェアリーがいた。


「ハッピーフェスティバル。ようこそワタクシの『カレイドパレス』へ」


 クスクスと楽しそうに笑うフェアリーが指先をクルクルと動かすと、俺達の体がふわりと蓮の葉に乗せられて、濡れた体が一瞬で乾いた。


「ワタクシは『妖精女王』。フェアリーを統べるモノ。お二人は……小人ではないわね? ヒューマン?と……エルフ、だけれど半分オバケなのかしら」


 優雅な所作で挨拶をする妖精女王に、俺達は慌てて頭を下げる。


「すいません、お城にお邪魔してます。……これ……蜂蜜お好きだと伺ったのでよろしければ……ととととっ!?」

「あら、嬉しいわ。ありがとう」


 小さな体の俺達には、通常サイズの時の小瓶でもかなりの大きさだ。

 蜂蜜入りの小瓶をインベントリから取り出してバランスを崩しかけたが、その小瓶もふわりと浮かんで、どこからか飛んできたフェアリー達に回収されていった。


 ……そしてそのタイミングで、俺とネビュラの同化が時間切れになり。

 池にザブンと着水してずぶ濡れになったネビュラの『解せぬ』って顔を見て、ツボに入った妖精女王がケラケラと笑い転げたのだった。



 * * *



「ええそうよ、マッチを売っていたのは姿を変えたワタクシよ」

「あー、やっぱりですかー。贈り物の神様とすれ違ったりしなかったんです?」

「もちろんしたわ。あまりにも綺麗な3度見だったから、笑いをこらえるのが大変だったら!」

「贈り物の神様って表情豊かですもんね」

「ええ、だから悪戯がやめられなくって!」


 妖精女王に言われるがまま蓮の葉に腰掛けた俺達は、さくらんぼのような樹の実をご馳走になりながら、世間話に花を咲かせていた。

 ……マジで話が盛り上がると周りに小さな花が咲くんだよな。

 生えるんじゃなくて、ポポポポッと、花の部分だけが周りに現れる。それが降り積もって、蓮の葉の上がどんどん花畑みたいになっていく。


「今回、贈り物をキャンドルとすり替えたのはね……開拓に夢中なフェアリー達が、あまりにも儚いと評価されているって小耳に挟んだからなのよ」

「……それは物理的に儚いって話ですか?」

「そうよ。だから見込みのありそうな子には、そろそろ上位である『アリストフェアリー』となる道を進ませてもいいかと思って。そのお話をするためにキャンドルを配ったの」

「……でも、フェアリー以外もここに来てますよね?」

「だってわざわざフェアリーだけ選んで呼び出すの面倒だったのだもの。他の種族の方も、ワタクシ達と遊んで暇つぶしが出来れば文句はないでしょう?」

「お城綺麗ですもんね。後で見学してもいいですか?」

「ええ、どうぞ」


 妖精女王は、黙っていれば深窓の令嬢みたいな儚い容姿をしているのに、イタズラっこな雰囲気でコロコロと笑うから空気がお転婆でギャップが凄まじかった。

 あれだ……小悪魔って感じのキャラだな。


「ああそうだわ、贈り物の神様が貴方達へ準備していたお礼の品を返すわね……ハイ、どうぞ」

「「あ、どうも」」


 なんだ、それはちゃんと返ってくるのか……そう思いながら受け取ったのは、『サンタ!』って感じの赤と白のブーツだった。


「フェスティバルの帽子と一緒に身につけると、フェスティバルシーズン中だけ強くなれるらしいわよ?」

「……もしかして、お手伝いの回数をこなしたら、全身フル装備分が揃ったんですかね?」

「その通りよ」


 よくあるやつだ。オンラインゲームなんかでめっちゃよくあるやつだ。

 贈り物の神様には悪いが、スレでも言っていたように妖精女王のキャンドルの方がありがたかったな……悲しいね。


 そんな俺達の内心を察したんだろう、妖精女王は生温かい微笑みを浮かべて頷いた。


「あの神様、個別に似合うものを選ぶのは上手なのに……自分からたくさんの人々へって考えると無難な物に落ち着いちゃうのよ。贈り物の神様のくせに」


 ……まぁ、無難が1番とも言うけどな。

 俺とキーナは、何とも言えない顔で閉口した。

 そんな様子を見て、また女王はコロコロと笑う。


「さて、楽しい楽しいフェスティバルですもの。せっかくこうして来てくれたのだし、ワタクシもあなた方に何かプレゼントを差し上げたいわ。何か希望はあるかしら?」


 へぇ、キャンドル以外にもまだ何か貰えるのか。

 抜け道があるとはいえボスもいるし、突破のご褒美って感じなのか。


 ……まぁ、こういう時の返事はもう決まってる。


(相棒何にする!?)

(同じモノでいいよ)

(いいの?)

(いいよ、特に思いつかないし)


 キラキラとした目を向けてくるキーナに頷き返すと、キーナは嬉しそうな笑顔で妖精女王に宣言した。


「面白いモノください!」


 うん、知ってた。


 妖精女王は一瞬驚いた顔をして……次の瞬間ケラケラと爆笑した。ポポポポッと花が増える増える。


「待ってちょうだい、本当に? 貴女本当にフェアリーじゃないの? 素質がありすぎるわ! フェアリーになりたかったら今すぐフェアリーに変えて差し上げてよ?」


 そんなにか。

 てかこの感じ、妖精女王の好感度が上がれば種族をフェアリーに変更できるのか。

 なんか知らんが気に入られたらしいキーナは、苦笑いしながら俺と手をつなぎつつ首を横に振った。


「愛しの旦那と全力で抱きしめ合いたいからこのままがいいです」

「なんてこと、お断りの理由まで完璧だわ! 愛や恋のためなら仕方ないわよね!」


 いつの間にか周りの蓮の花から顔を覗かせたNPCのフェアリー達がうんうんと力強く頷いている。

 それで納得するのかフェアリー……


「もしも2人揃ってフェアリーになりたくなったらいらっしゃいね」

「わかりました、もしもなりたくなったらお願いしますね」

「ええ、いつでも大歓迎よ。……じゃあ、ワタクシからのプレゼントは、そんな貴方達にピッタリなモノにして差し上げるわ」


 そう言うと、妖精女王は……それはそれは輝くばかりのいい笑顔で俺達に言い放った。


「冒険者って、おつかいがお好きよね?」


 あ、これはクエストが来るやつだな。


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― 新着の感想 ―
それにエルフって元々妖精だもんなぁ
妖精の楽園?を住んでる場所に建造したら喜びそうよね
女王多分サンタの事好きやろ
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