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ユ:海まで伸ばそう、フラグの小道


 俺と相棒は赤く熟れている知恵の林檎を収穫し終えた。

 今日は休日だから、これだけ野良仕事をしてもまだまだ時間がある。


「次は拠点周りの伐採をしよう!」

「はいよ」


 フリマで売るための木材の確保と、襲撃に備えて見晴らしを良くするためってところか。

 そろそろ次の襲撃も来るだろうし、視界を良くするのは賛成だ。二人とも遠距離職だし、木が無ければ火属性だって使える。


「【伐採】!」


 相棒の気合の入った声が聞こえる度に、ズドーンと木が倒れる音がする。


 倒した木は更に【伐採】をして、使いやすい木材に整える。

 やってることは完全に林業だなー。


 ……売るための物を用意するって事は、拠点の資産が増えるって事でもある。

 まぁ売ってリリーにしても同じっちゃあ同じなんだけど。

 どうせなら、準備前の金欠気味な時に襲撃が来ておいてくれたらちょうどよかったのになって考えずにはいられない。


 なんとなく石の防壁を眺める。


 ……守りきれるかね?

 そもそもどのくらいの規模で来るだろな。

 初回と比べて増えたのは、『死の狼精霊の分け身』のネビュラと、『カボチャオバケ見習い』のジャックと、『微睡(まどろみ)の木の長老霊』のコダマ爺さん。

 ジャックはともかく、ネビュラと爺さんは襲撃が重くなりそうなんだよなぁ。


 ……なお、コダマ爺さんは結局ヤル気のある木が育つか相棒が引退するかするまで続投になったらしい。なんでだよ。老体どころか霊体に鞭打たないといけないほど人材ならぬ木材がいないのかこの森は。

 そんな状態だからか、コダマ爺さんは長老のくせに伐採推奨派だ。

 どうせすぐ苗木で復活するんだから性根ごと叩き切ってやれ! っていうのが爺さんの主張。

 ……爺さん、たぶん後継ができない原因はそういう所だぞ。


「壁周りはこのくらいかな?」


 相棒が斧を担いで一息ついた。

 防壁の周りは、ぐるりと5メートルくらいの空間ができている。


「いいんじゃない? 罠置いてくるわ」

「じゃあ僕は海の方に向けて伐採していくね」


 相棒はどうやら真っ直ぐ海に行ける道を作りたいらしい。


「その方が相棒も便利でしょ?」

「まぁね」


『死の海の水』は使い所さえ見極めれば切り札として優秀だ。出し惜しみはしたくない。

 元から液体を仕込んでおける矢を早めに用意したいところだ。

 あわよくば今度のフリマにあると助かる。


「道は舗装とかする?」

「どーしよっか……出来ればしたいけど、建築メニューにあったっけ?」

「あるよ。素材は必要だけど」

「そりゃそうでしょ……歩きやすそうなのは石畳とかレンガとかかなぁ? オズの魔法使いは黄色いレンガの道だっけ」

「黄金の道みたいなのはゲームにもあったな」

「この森には派手すぎるかなぁ」


 青みがかった白い木肌に青緑色の葉。

 ……うん、黄色は合わないかもな。


「とりあえず今日は固めるだけにしたら? 石材はまだあるっちゃあるけど、それこそフリマに良いものあるかもしれないし」

「なるほど、じゃあそーする」


 軽く罠を増やした後、相棒が伐採した後を俺が【土魔法】で舗装しながら追いかける。

 そんなに太い道にはしない。

 二人で並んで歩いたり、ネビュラに乗ったりしてちょうどいいくらいの幅。ちょっとした小道だ。


 追いついて、作業を続けて、途中休憩を挟んだり食事を挟んだりしつつ道を延ばし、なんだかんだ海まで辿り着いた。


「おおー! 海だー!」

「触ったら死ぬから気をつけて」

「危なーい!」


 小道も浜までは伸ばしきった。

 これで海まで来やすくなったな。


 相棒は目の上に手でひさしを作って、水平線を眺めている。


「……触ったら死ぬ海かぁ……っていうか、死の精霊がいるところなんだから、死が溜まって海になってる場所とかそんな感じなんじゃないの?」 

「……答えていいの?」

「うん、答え合わせはしたい」

「…………正解!」

「やったー!」


 ネビュラがいたらもっと詳しい話も聞けただろうけどな。

 作業メインだから拠点に置いてきたままだ。


「そのまんま『死の海』って言うんだってさ」

「……この水、お堀に引いたら最強の防衛なのでは!?」

「だよな? やっぱそれ考えるよな?」


 頭の中のネビュラが『解せぬ』って顔をした。

 さらに相棒は俺が思ってもいなかった事を言う。


「釣りとかは出来ないのかな?」

「釣りは……どうかな?」


 釣れたところで食えるのか?


「そもそも『死の海』なんだし、生き物はいないんじゃ?」

「えー、でもなんかいるよ?」

「え?」

「ほら」


 相棒の傍に寄って、指差す方角を肩越しに見る。


 ……遠い海面に、骨が浮かんでいた。

 そこそこの大きさの、たぶん頭の骨。


 それがずるりと海面から浮かび上がる。


 下顎が二つに分かれた頭蓋骨。

 その下に肋骨が……肋骨が……肋骨が延々と続いて終わらない。


 ズルズルと長い長い体を引きずり上げたその蛇の骨は、完全に俺達の方を向いて認識していた。



 ──シャアアアアアアッ



 俺は咄嗟に相棒の手を引いて森に走った。


「生き物じゃなかったよ!!」

「死んでればいいって意味でもないが!?」


 骨の蛇は海から上がって俺達を追ってくる。

 くそっ! ネビュラを連れてくるんだった!

 あ、そうだ。ゲームなんだから相棒抱きかかえて走った方が速いんだ。


「わぁあっ!?」

「はい走るよ」


 道のおかげで走りやすい。

 もちろん骨蛇が追ってきやすいって事でもある。

 俊敏重視の構成で助かった。そうでなかったら追いつかれてたぞ。


「【ツリークリエイト】!」


 肩越しに相棒が魔法を唱える。

 伸びた木の枝が骨の体に絡みついた。

 肉がない肋骨剥き出しだから絡みつきやすそうだ。


 ただ、骨しか無いから痛覚も無いんだろう。

 肋骨がボキボキ折れるのも構わずに追いかけてくる。


「スルースキル高すぎない!?」


 肋骨骨折をスルーはもう正気を失ってるレベルなんだよなぁ。


 ……さて、拠点が見えた。


「ネビュラ!!」


 壁から弾丸のように飛び出す黒い姿。

 喉を威嚇に鳴らしながら骨蛇に躍りかかる。

 やっぱりイヌ科は格好いい。


 レベルが上った【跳躍】なら防壁に飛び乗るのも余裕だ。


「フッシー! ジャック! コダマ爺ちゃん! 襲撃ー!」


 相棒が声をかけて、最初に飛んできたのはフッシーだ。


「……なんだ、あの時の蛇ではないか」

「え、フッシーの知り合い?」

「いや我ではなく、つい先日防衛戦とやらで殺りあっておったであろう。アヤツよ」

「「えっ」」


 ……それって防衛戦のレイドボスだよな?



 ラージボーンスネイク・リベンジ Lv25



「お礼参りかよ!!」

「そっかー、死の海って……そっかー!」


 拠点襲撃二回目は、まさかのリベンジマッチで幕を開けた。



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― 新着の感想 ―
お礼参りだね(ㆁωㆁ*) まぁヤられたらヤり返したいよね(ㆁωㆁ*)
まさかの仇討(本人)とは、思わず笑ってしまった
死の海だから分かりづらいだけでようは三途の川だな
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