ユ:カレイドパレス
感想で掲示板回のコアラに言及していた方。
お気付きになられましたか^^
スレである程度の情報を仕入れた俺は、変なツリーのスクショが並ぶスレを見て笑っているキーナに声をかけた。
「扉はダンジョンの入口で確定」
「あ、そうなんだ」
「『カレイドパレス』って言うらしい」
「へ〜」
中は魔法関係のギミックが多く、最奥のボスは弱点属性がコロコロ変わるタイプ。そしてボスの間の奥にある扉の先には、妖精女王がいるらしい。
「あ、絵本に出てきた妖精女王様。マジでフェスティバルに関わってきたんだ?」
「みたいだね。……どうする?」
「どうって?」
「ダンジョンだけど、入る?」
「まぁ、せっかく火点けちゃったし」
そうなんだよな。
俺とキーナの2人分でキャンドルが2つあるとはいえ、消してまた使えるか分からない物を無駄にするのはもったいない。
「それに万華鏡みたいな名前のダンジョンなら、綺麗だろうから見てみたい」
「んじゃ行くか」
「ボスは小さかったらスルー出来るんでしょ? 前に貰った小さくなる薬あるけど、使う?」
「あぁ、そんなのもあったな……じゃあ使うか」
ただ薬の数は少ないから……俺と相棒とネビュラだけで行くか。ジャック達を連れて行って、ボスを完全に任せて放っておくのもよくないだろうし。ネビュラは精霊だから呼ぶか同化すればいい。
キャンドルは2つあるから、また入る事になったら連れて行く事にする。
「変装いらないよね?」
「まぁ……いらないだろ」
プレイヤーが一気に攻略しようとしてるダンジョンだし、なんなら俺達は夜からだから出遅れている方だ。小さくなる薬だってプレイヤーからの貰い物だから他にも試すプレイヤーはいるだろう。
この状況で俺達が公式ムービーになるような事はさすがに無いと思いたい。
「じゃあ行ってきまーす」
「いってらっしゃ~イ」
「お気をつけテ」
戦闘の準備をして、ピコピコと手を振る皆に見送られながら扉に手をかけた。
……そっと押すと、それだけで扉は重い音を立ててゆっくりと開いた。
* * *
「「おおー」」
中に入った俺達の口から、思わず感嘆の声が出た。
『カレイドパレス』の中は、確かに万華鏡の中のように数え切れない色の光がキラキラと舞い散る幻想的な場所だった。
円柱状のホールの壁は、白い滑らかな素材を磨き上げた物で作られていて、鏡ほどじゃないが姿がうっすらと映る。
ホールの中央には巨大で透明なシャンデリアのような物が、高い天井から吊るされている。
そのシャンデリアを中心に、いろんな色の光の粒がホールの空中をクルクルと旋回して、その色が周りの壁に反射し幻想的な光景を作り出していた。
「すごーい! キレイキレイ!」
「うん」
フルダイブVRゲームは、こういうファンタジー空間に自分がいるみたいに体験出来るのが良い。
「あれ? でも敵いないね?」
「……確かに」
【感知】スキルにも何も引っかからない。
2人でキョロキョロと周囲を見渡していると……ホールに響くようにクスクスと笑い声が聞こえてきた。
──見えるかな?
──わかるかな?
──わからなくても勝てればいいよ
クスクスと悪戯っぽく笑う、姿の見えない複数の存在の声。
……確か、魔法関係のギミックって言ってたな。
「……【解析】じゃないか?」
「ああ、なるほど」
キーナは【解析】を使うと、中央のシャンデリアをまじまじと見つめた。そのまま目線は天井へ、そして壁をつたって床の近くへ……あ、扉がいくつかあるな。
「んー……シャンデリアと扉の色を合わせればいいのかな? ちょっと行ってくるね」
キーナはそう言うと、霊体化してふわりと浮かび、シャンデリアをクルクルと回し始めた。
ルービックキューブのようにでもなっているのか……シャンデリアは段ごとに回転させられるらしい。回すのにそれほど力はいらないのか、そっと手で押すだけでクルクルと回っている。
「……ネビュラ、敵の気配がしたら教えてくれ」
「うむ、まかせておけ」
警戒してもらいつつ、俺も扉を調べに行く。
壁と同じ色の扉だ。
ホールの大きさに反して、扉はかなり小さい。……キーナでも屈まないと通れないんじゃないか? 俺はだいぶ腰を曲げないと無理そうだ。
……いや、これは小さい種族だったら、高級な大きさの扉になるサイズなのか。
そう考えるとホールはかなり巨大な空間になるんだろうな。
妖精女王がいるって事は……ここはフェアリーの王族がいる城って事なんだろう。
ただそう考えると、光こそ綺麗なんだが、全体的に装飾が少ない。壁とか、扉も、割とのっぺりとしている。
そうして観察していると、シャンデリアの方から音叉を鳴らしたような音が聞こえた。
「たぶんオッケー!」
光の粒が止まって、シャンデリアの中へ集まっていく。
そしてシャンデリアがキラキラとカラフルに輝くと……シャンデリアの根元からシュルシュルと豆のような緑色の蔦が伸び始めた。
蔦は葉を芽吹かせながら天井をつたい、ホールの壁伝いに床へ向かって伸びながらクルクルとした巻きひげで不思議な模様を描き、そして扉の縁取りをするように生い茂って扉ごとに色が違う花が咲いた。
「「おおー」」
夫婦揃って二度目の感嘆の声。
そしてそこへ聞こえてきた、さっきと同じ笑い声。
──フフフ、見えるんだね
──ざーんねん
──ルールだから進んでいいよ
──白は食堂
──青はギャラリー
──黄は温室
──紫はダンスホール
──そして赤が、我らが女王陛下のお部屋
「……なるほど」
「色は蔦に咲いた花の色かな?」
ギミックを解けない場合は、何もしないで扉を抜けて、その先にいる敵を倒さないといけなかったんだろう。
魔法に精通していて、シャンデリアに手が届けば、戦闘無しで突破できる、と。
なるほど、確かにフェアリーの城だ。




