キ:一足先に帰還して
お嬢様とのお話を終えて、拠点に帰還。
お土産にパウンドケーキもらったから皆で食べよう。
……と、思ったけど、相棒はまだ戻って来ていなかった。
フランゴ君へ滅びの粘液デリバリーに行ってるはずだから……戦闘に突入したのかな。戦ってる所に念話飛ばしたら集中切れちゃうだろうから、大人しく待つ事にする。
じゃあ、戻って来るまでのんびり読書でもしてようかな。
うちの拠点があるマップは季節が無いから、冬でも庭の木陰で長時間快適に過ごせる。雪景色は楽しめないけど、いつでも屋外で読書を満喫出来るのは良いね。
安楽椅子に座って、図書館で写本を作ったばかりの絵本を開いた。
『ふりまわされがちな贈り物の神様』
『贈り物の神様は、冬のフェスティバルでみんなに贈り物をくれるステキな神様です』
『赤い布地に白いふわふわした縁飾りをつけた、暖かい衣装を着ています』
『たくさんのトナカイの眷属を連れていて、ソリに乗って贈り物を配ってまわります』
『そんな贈り物の神様は、なぜか困った事に巻き込まれてしまう事が多いのです』
『昔々のある日の事』
『贈り物の神様は、悪戯好きの妖精女王によって、プレゼントを予定外の所へ飛ばされてしまいました』
『可愛い女の子が髪に結ぶはずだったリボンは、騎士見習いの少年の所へ』
『カッコいい番犬へのご褒美だった骨付き肉は、馬車を引いている馬の所へ』
『苦学生を応援するための立派なペンは、ひなたぼっこしている猫の所へ』
『贈り物の神様はびっくり仰天。悲鳴を上げて、慌てて元に戻そうとしますが、悪戯好きの妖精女王はころころと笑って悪戯を続け、贈り物の神様の邪魔をします』
『ところがところが、贈り物の神様と妖精女王が大騒ぎをしている間に、不思議な事が起こっていました』
『騎士見習いの少年は、大切な可愛い女の子にリボンを贈って想いを告げて』
『馬は仲良しの番犬が骨付き肉を好きな事を知っていたので届けに行って』
『猫は勉強の合間に遊んでくれる苦学生の所へペンをくわえて持って行き、ご褒美に撫でろと膝に乗り』
『真心のこもった贈り物は、ちゃんと嬉しい相手の所へ届いていたのでした』
『妖精女王は悪戯の結果に大満足』
『贈り物の神様は、嬉しい贈り物のお礼を告げられて、困った顔で微笑んだのでした』
『めでたしめでたし』
……うーん、ドタバタギャグテイストの絵本だったね。分かりやすい教訓や因果応報があるわけでもなし。こんな神様ですよーっていう、神話を分かりやすく描いたタイプの話。
妖精女王はめっちゃ儚げ清楚な少女っぽく描かれてるのに、やってる事はやんちゃそのもの。
数冊ある絵本は、どれもそんな感じで贈り物の神様の代表的なエピソードを描いた物だった。
そしてどれもこれも贈り物の神様が誰かのやらかしに巻き込まれて悲鳴を上げる話だった。
……そういえば贈り物の神様って、今年は神様会議が長引いた結果、プレゼントの準備がギリギリになっててんてこまいしてるんじゃなかったっけ?
昔々〜って『過去の事ですよ』みたいな書き方してるけど……トラブルに巻き込まれ体質なの変わって無いよね? 現在進行系じゃん。
ちなみに眷属のトナカイ達はトレーニングに集中していてトラブル解決は一切手伝っていなかった。
……あの神様は、トラブル対策専用の眷属を別に雇った方がいいんじゃないかな?
生温かい気持ちになりながら絵本を読み終える。
……全編通して妖精女王さんの出演が多いのが気になった。
トラブルの原因じゃない場合でも話に登場するくらいだから、贈り物の神様とは腐れ縁みたいなモノなのかな? たぶん……プレゼントにありがちなサプライズの象徴なのかなーって印象は受けたけどね。
ってなると……フェスティバル当日に関わってくるのかもしれない。絵本はそのヒント的な情報なのかも。
リアルはもうすぐクリスマス。
つまりは冬イベントのフェスティバル当日。
もしかしたら、ただプレゼントを貰うだけのイベントじゃないのかもしれないね。
もう1回読み直して、妖精女王の情報をピックアップしておこうかな。
体は小さくて蝶みたいな羽がある。街中で見かけるフェアリーと比べると羽の形が独特だけど、たぶんフェアリーの偉い人なのかな? 悪戯好きで……花と甘い物が好きで……蜂蜜が特に大好物……
……なんて事をやってたら、相棒とネビュラが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりー、フランゴ君どうだった?」
「こっちの提案はすごい喜んで乗ってきた。瓶の中身全部飲んだし、そのまま戦闘もやった」
「おー、ソロで勝てた?」
「勝ったよ。次も粘液持ってこいって言ってたから、イベント終わるまでに何回か行ってくる」
「おおー! すごーい!」
なんだかんだフランゴ君、巨体で素早く動くからシンプルに難易度高めなんだよね。それをソロで倒せるのはすごい、カッコいい。なんとなくネビュラも相棒の横でドヤ顔してる気がする。
「そっちはどうだった?」
「お嬢様にまるっとお任せしてきた」
「ほう?」
わしわしと頭を撫でてくる手を堪能しながら、僕はお嬢様とのやりとりを相棒に説明する流れを、頭の中で組み立てた。




