ユ:ダラダラしながら相談タイム
ログインまだです。
キーナがギャン泣きして限界そうだったからログアウトして、一夜明けた休日。
寝起きのダラダラとしたベッドの中で、『体温と心音を確かめたい』って言いながらベッタリしがみついてくる真紀菜から、柘榴を食べて何を見たのか話を聞いていた。
「……って感じ」
「なるほど……」
それは随分とピンポイントに抉られたな。
とはいえ割とよくある展開だから、ギャン泣きされてゲーマスAIもさぞ驚いた事だろう。
話し終えた真紀奈は、どんよりと深く沈んだ溜め息を吐いた。
「……あの使徒ちゃん、どうするのがいいんだろ」
「どうって?」
「つまり……つらすぎて忘れたくて、全部忘れた結果が今の状態じゃん? それを元に……戻るのかわかんないけど、戻ったらまた死ぬほどしんどいじゃん」
まぁそうかもな。
「だったら……元に戻す方が残酷なのかなーとか……いっそ今のうちに楽にした方が幸せなんじゃ……みたいな発想が出てくる」
「うん、ちょっと落ち着こうか」
真顔で首を切るジェスチャーをするんじゃない。
駄目な方向に前向きになりかけている真紀奈の髪をワシャワシャとかき混ぜる。
真紀奈は本人達が主観で幸せなら『死は救い』容認派だ。メリーバッドエンドに向かって『良かったねぇ』と口にするタイプ。俺がその横で『良くはないが?』とツッコミを入れるのがお決まりのパターン。
このまま突き進むのはよくない。
「魔女っぽい手から貰ったアイテムもあるんだし、まだそっちに行かなくていいだろ」
「ん〜……」
「いっそお嬢様に相談してきな」
「あー、お嬢様かぁー」
あの光属性なお嬢様なら、いきなりそんな極端な道は選ばないと思う。たぶん。
「……うん、そだね。おまかせしてたお嬢様には情報共有しておきたいし。そもそも、そっちに相談無しでどうこうするわけにいかないよね」
「そう」
うんうんと頷いた真紀奈は、スマホで検索を始めた。……どうやら麗嬢騎士団について調べているらしい。
「……カステラさんに連絡頼まないの?」
「毎回お願いするのも負担かなーって」
まぁ確かに、俺達はかなりカステラソムリエさんに頼りっぱなしだな。
「こう……人数の多い有名クランだったら拠点の位置とかも有名だったりしないかな?」
「……するかもしれないな?」
そしてその予想は当たっていた。
検索結果で引っかかったのは、SNSのとあるアカウント。
「麗嬢騎士団所属、『セバスチャンZ』……」
「絵に描いたような執事キャラだ!」
アカウントはエフォのゲーム内スクショにひと言添えたプレイ日記のような投稿がメインだった。
三分の一はクランで戦闘をしている様子だが、残りは豪華な洋館の華やかな日々を執事視点で紹介している。
「わー、すっごい綺麗な薔薇園。当然のように白いガゼボがある」
「お嬢様っぽいな……」
「あ、アフタヌーンティーとかでお菓子が乗ってる3段のやつだ!」
「あー、わかる」
「え、すごい。洋館がめっちゃお貴族様っぽい洋館してる」
「……ピリオの貴族の屋敷より豪華に見える」
「え、メイドさんがいる。プレイヤーかな? NPCかな?」
「さぁ……?」
そんな麗嬢騎士団の拠点は、クランメンバー以外は許可が無いと立ち入り出来ない設定になっているらしい。
それなりにやりとりのある相手の見学は許可しているとの事で、付き合いのあるクランが遊びに来ている様子も投稿されている。
拠点の場所も普通に公開されていた。
「これなら拠点に行ってアポ取りのお手紙渡すくらいはできるかな?」
「まぁ、出来るんじゃない?」
麗嬢騎士団の拠点は、ピリオノートからずっと北西の方角。間にひとつ非公開の拠点を挟んで更に進んだ所にある。
位置的には『湖畔のミストタウン』から西へ向かったあたりだ。
「……まぁ、ミストタウンからなら……ネビュラかダディに乗って1日くらいで着くんじゃないか?」
「ふむふむ……そのくらいかー。今日は休みだから……リアル昼の内に行っておけば、リアル夜で誰かがいる時間にこんにちはできるかな?」
「まぁ迷わず着けば……どうする、一緒に行く?」
「ん〜……」
真紀奈は少し悩んで、首を横に振った。
「ううん、今回はひとりで行ってくる」
「そう?」
「うん。雄夜なんかやりたい事あるんでしょ? 今回は観光でもないし……頭冷やしながらダディで行ってくるよ」
「そうか」
俺の方のやりたい事も、ひとりでやるつもりだったしな。
念話で会話はいつでも出来るから問題無いだろ。
「じゃあログインはいつも通り昼を食べた後として、インしてからは別行動だな」
「だねぇ……あ、でもその前に!」
「何?」
真紀奈は、ものすごく真剣な顔で俺の肩を掴んだ。
「VRの機械の……家族機器の通知の動作チェックだけやりたい」
「……好きにしなー」
トラウマになってるじゃねーか。




