キ:囚人フランゴの雄叫び
クエストを受諾して、速やかに森夫婦スタイルに変装を完了。
ご近所だからって、内容が内容だから素のままで行くつもりは無かったけど。しっかり注意書きを入れて貰えると安心だね。
ラウラさんに連絡を入れたら快諾の返事が来たので、準備をして待つことしばし。
「お、おつかれさまです。きょ、今日は、よろしくお願いします」
「ほう、ここが『終焉の夢想郷』か」
僕らと似た変装衣装姿のラウラさんと、ウニ先輩が一緒にやって来た。
「ウニ先輩も来たんだ?」
「は、はい。おそらく私よりも、お、お詳しいと思うので……」
そりゃ天使の先輩だもんね。
じゃあ面子も揃ったし、ムービー進行のNPC役をやりに行きますか。
* * *
やって来ました『夢の牢獄坑道』。
暗い洞窟をランタンで照らしながら奥へと進む。
メンバーは僕と相棒とラウラさんにウニ先輩。そしてネビュラの頭の上に夢の幻獣が2匹。後は僕が籠の中にフッシーとコダマ爺ちゃんとネモを入れている。
他のプレイヤーと会うのが面倒だから、僕ら普段は全然ここに来てないんだよねぇ。
……そういえばここって、他のプレイヤーは夢で来る場所なんだっけ。
って事は、この坑道って夢の領域だったのかな?
僕らが入植してるフィールドは一歩潜れば夢って感じの所だから、ここが夢でも全然おかしくはない。
ペタちゃんが動けるのか今度確認してみよう。
「ウニ先輩は、誰と会うのかはご存知な感じ?」
「うむ、ラウラからおおよその経緯は聞いておる」
「あっ、あ、あのっ、ウニ先輩。私、この格好の時は名前を秘密にしていましてっ」
「む、そうか」
相変わらず見た目と声のギャップが酷くて頭がバグりそうなウニ先輩は、ちゃんと状況は把握していたのでひと安心。
洞窟を進んで、広い空間……大穴の部屋へと出る。
……わぁ、いますねぇ。
真ん中の大穴からニューッと首を何本も伸ばしてる怪獣モードの半透明フランゴ君。
半透明怪獣フランゴ君は、空間の入り口辺りにいる僕らを……というか僕を見ると穴の中でジタバタと暴れ始めた。
「貴ッ様ァアアア! 貴様だ貴様ァ!! オレ様がまず喰らうべきは貴様だぁ!! おのれっ、この穴、離せっ! アイツを喰らってオレ様はアイツの力を我が物にするのだぁ!!」
(……なんかちょっと可愛く見えてきた)
(えぇ……)
(なんかリードに繋がれて飛び出せない犬感ない?)
(それはない)
(そっかー)
相棒の犬基準厳しいなぁ。
さて、どうしたもんかね。落ち着くのを待ってから話した方がいいかな?
なんて考えながらジタバタするフランゴ君を観察していると……同行していたウニ先輩が「うむ」と頷きながら前に出てしげしげとフランゴ君を眺めながら口を開いた。
「実に活きが良い。なかなか見込みのある死霊だな」
あ。
ウニ先輩、初手でそんなハッキリ言っちゃうんだ?
面と向かって死霊宣告されたフランゴ君は、『ホアー!』ってショックを受けたような反応をした。
* * *
「やはりオレ様は死んだのか……」
「えっと……うん、残念ながら」
ショックでシュルシュルと縮んだフランゴ君は、表情がわかりやすい人型に変わっていた。
死霊だから半透明だけど、もう使徒じゃないからか胸の水晶片は無いし、髪の毛もサラサラな普通の毛髪になっている。なんなら瞳も爬虫類っぽい縦長の虹彩をした普通の目になっていた。
あのスライム要素足したみたいな姿は、使徒専用フォルムなんだねぇ。
フランゴ君はドストレートに死を突き付けられてショックが大きいのか、しょんぼりとしながら会話が出来そうな雰囲気。
……せっせと捕食対象を探していたのも、現実逃避だったのかな。
「だが死んだのならば、何故オレ様はこうして存在している?」
「それは……生まれ直す準備をしてるから、かな?」
ネビュラに目線を向ければ、ネビュラは「うむ」と重々しく頷いた。
「この世界で死したのだ。死霊となったその魂は、死の海を通り再び生まれる。それが理ぞ」
それを聞いたフランゴ君は『意味がわからない』って顔になった。
「正気か? オレ様はこの世界を滅ぼそうとした使徒、『咀嚼のフランゴ』だぞ! それを世界に組み込もうと言うのか!?」
それを鼻で笑ったのはウニ先輩だった。
「当然であろう。我らが神は、無限に広がる世界と同様の包容力をお持ちなのだ! 例え元使徒であろうが関係ない。神が、世界が許せば存在は消えぬのだ」
「ハッ! 随分と生温い思考の神だ! オレ様は今まで数多の世界を喰らい尽くしてきた! オレ様を身の内に飼うというのなら、内側から喰い破られる覚悟はあるのだろうな!?」
徐々にペースを取り戻してきたフランゴ君が迫力満点の顔で凄む。
「命を司る神など実に食い出がありそうだ……喰らい尽くして我が血肉にしてくれる!!」
……と、それに反応したのはラウラさん。
「あっ……あ~、そ、そんな事言ったら……」
直後、天から降り注ぐように輝いた光。
まっすぐフランゴ君に直撃して包み込んだ眩い極太の光の柱。
「わっ」
「眩しっ」
……その光が消えて、後に残っていたのは……
「……えっ」
「……えぇ……」
「あ~……」
「…………ウニ天使よ、これは」
「うむ、なるべくして成ったな」
バサリと広がる黒い翼を背負った……呆然とした顔のフランゴ君。
……その頭の上には、ピッカピカに輝く天使の輪が乗っかっていた。