ユ:夢の幻獣からの依頼
拠点寝室の窓に夢のモモンガ幻獣がやってきた。
……本当に待たれてたか。
俺達はとりあえずトマト結晶のアクセサリーを装備した。
隣近所があるわけじゃないから、寝間着のまま窓を開ける。
「……どうも」
「モモンちゃんおはよー」
「おはようだモン。良い夢は見られたモン?」
夢……まぁそうか。さっきのムービーは夢扱いか。
「……良くはないかな」
「変な夢見た」
「モモーン、やっぱりだモン!」
やっぱりってなんだ。
「今日はちょっとお願いがあって来たんだモン」
「お願い?」
「モン。この……コラ! なんでさっきより離れてるモン!? 往生際の悪い……さっさとこっち来るモン!」
モモンガ幻獣が、窓枠の外側から何かを引っ張り出そうとしている。
……なんだ?
身を乗り出して覗き込むとそこには……目に優しくない虹色のイモリがいた。
「Oh……」
派手だな……たぶんモモンガ幻獣に聞いた、この島にいる夢の幻獣だとは思うが。モモンガとかミノカサゴは別にファンタジーな配色じゃないのに、なんでイモリはこんなド派手なんだ。
……とか考えていたら、モモンガに引っ張られているイモリと目があった。
「……どうも」
「どうも? こんな色した幻獣相手の初対面を一言で済ませる? もう少しツッコむとか驚くとかドン引くとかリアクションあるもんじゃないのヒトの子って。鈍いのか懐が広いのかどっちよ」
おお……これがモモンガの言ってた毒舌気味な対応か。
イモリ幻獣は散々言葉を並べてから、落ち着かなさげに目を泳がせた。
この口調で後で落ち込むってのを聞いてるから、生温い気持ちになるな……
最終的にイモリは「ちょっ、なにするモーン!」と大騒ぎするモモンガの背中に張り付き、モモンガを盾兼翻訳機代わりのようにしながら俺達とコミュニケーションを取り始めた。
「………………」
「……それ、モモンが言うモン?」
「………………」
「ハイハイ、意味が通じればいいモンね?」
「………………」
「えっと……今日はお二人に頼みたい事があって来たモン」
「「アッハイ」」
若干毛並みが乱れたモモンガの疲労が滲んだ顔が哀愁を誘う。
「………………」
「『夢の牢獄坑道』って知ってるモン?」
「……はい」
「行ったことあるよー」
「………………!」
「ハイハイ、お二人が来たのを見たことあるのはわかってるモン! でもお二人が忘れてるかもしれないモン? ただの確認だモン! ……で、先日そこにちょっと厄介な死霊が来たモン」
うん、十中八九フランゴの事だろうな。
「どう厄介なの?」
「………………」
「死んでるのに生きようとして夢を見てるヒトを襲うんだモン」
モモンガが……いや、イモリが?言うには。
あそこは眠る魂を井戸の中で死に慣らすための場所なのだが、死にたてホヤホヤの使徒だった魂をこの世界に慣れさせるのにちょうどいいからとぶち込まれた。
だがそんな元使徒とかいうよくわからん存在を、眠ってもいない状態で渡されても、どう扱ったらいいのかわからなくて困る。
とりあえずは井戸に入れて、出られないように繋いでおいた。
そうしたら案の定、問題を起こした。
その魂は自分が死んだという認識が薄いのかもしれない。
イモリの声にもモモンガの声にも耳を貸さないので、俺達に話をしてみて欲しい、との事だった。
(……え? 僕らは1番ダメな相手じゃない?)
(そんな気はする)
戦闘のヘイト全無視してまっすぐ獲りに来るくらい目の敵にされているキーナは特にダメじゃないだろうか。
……とはいえ、こうやってNPCから依頼が来てるからな。
場所が場所だけに、他を当たるって事が出来ないだろうし。
とりあえず受けるのはやぶさかではないが、それはそれとして情報は欲しいからいくつか質問する事にした。
「フランゴ君、この次元にいるって事は……霊蝶になって自分で飛んできたの?」
「………………」
「んなわけないモン。アレは死んで死霊になった所をお上が取っ捕まえて直接送ってきたんだモン」
「へぇ〜、そういうパターンもあるんだ?」
「異世界から来た存在は死後の流れが分かってないからそうする事が多いモン」
まぁフランゴは負けたからって自主的に死の海に来たりしないよな……
「……そもそも、この世界を滅ぼそうとしてた相手を、普通に死の海の復活サイクルに乗せていいのか?」
「それはお上の考えだからモモン達は知らんモン……なんならモモン達も気になるから天使とか連れてきて欲しいくらいだモン」
なるほど。天使を連れてくると追加情報が出る、と。
同盟のログイン状況を確認……うん、ちょうどよくラウラさんがいるな。
「………………」
「引き受けてくれるモン?」
──クエスト『囚人死霊との対話』を受諾しますか?
──注意:このクエストは公式ムービー使用が確定しています。
あ、はい。
わざわざ注意書きありがとうございます。
前回の感想にて、フランゴ君に咀嚼は合わないかもと仰って下さった方。
おめでとうございます、正解です。
何故ならあの名前は、使徒がフランゴ君に付けた名前だからです。
『食うんじゃねぇ、噛み砕いて滅ぼせ』と。名前で性質をねじ曲げようとしたんですね。食べる事とは、生きる事なので。
まぁピュアッピュア食いしん坊フランゴ君には伝わりませんでしたが。
今更本編内で語るかというと微妙そうな裏話なので、ここにそっと置いておきます。