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キ:アイツに向かって、突撃!


 これから重要地点になるらしいモロキュウ村にジャック三兄弟に残ってもらって、僕らはフランゴ君のいる雪山へ向かう事になった。

 フランゴ君地点からさらに西のちょうどいい山の中にペンギンデスマッチさんの拠点があって、そこに転移させてもらえるんだって。


(ペンギンいるかなぁ?)

(……どうかな)


 苦笑いしたような相棒の念話。

 なんだよー、いるかもしれないだろー?

 リアルのペンギンは雪山にはいないだろうけどね。ゲームだったら『寒い=ペンギン』っていう安直な連想でペンギン系モンスターがいるかもしれないじゃんすか。家主の名前もペンギンさんだし。希望は捨てない。


 ピリオへ転移すると、見覚えのあるエルフの女性がせっせとレベルの高そうなプレイヤーを一人一人指差して拠点招待で飛ばしているのが目に入った。

 夏にトライアスロンで地面を凍らせてスケートでダッシュしてたペンギンさんは、冬だからか紺色のヒラヒラしたロングマフラーを着けている。


 僕らが列に並ぼうと近付くと……周りの人達が『あっ』て顔になって、その『あっ』が連鎖していって、最終的にペンギンデスマッチさんが『あっ』てこっちを見た。


「はいはいはーい、森夫婦さんは連絡貰ってたからさっさと送るよー」



 ──拠点招待が届いています。受諾しますか?



 ファストパスかな?

 まぁそれだけジンクス担当は早く行けって事なのかもしれない。お言葉に甘えて、会釈したらすぐに転移オーブへ。


 一時的に登録された拠点名は……『ツンドラビレッジ』


(寒そう!)

(うん)



 * * *



 転移してきた『ツンドラビレッジ』は……深々と雪が降り積もる、深い深い雪の中の村だった。

 灰色に曇った空の下、遠景には鋭い三角にそびえ立つ雪山。

 積雪で真っ白に覆われた村は素朴な雰囲気の民家がまばらに建っていて……スイスの田舎の村って感じの雰囲気をしている。


(え、かわいい。観光で来たかった)

(うん、相棒が好きな雰囲気だ)


 くぅ〜、フランゴ戦が終わったらデートしに来よ! ペンギンも探したいし!


「フランゴはあっちー! あっちよー!」


 女性の声に振り返ると……そこには絵に描いたような魔法少女がいた。

 魔法少女は除雪と誘導を一手に担っているみたいで、村の外へ向かって転々と熱を発する光の玉が等間隔に浮いていた。

 光の下は地面が見えていて、降ってくる雪が溶けて消えてるから、ボス戦までの道程を維持してるっぽい。

 実に助かる。


 僕はダディに、相棒はネビュラに乗った。

 こうすれば、いざとなったら俊敏重視の相棒とネビュラが先行出来るからね。


「……途中ちょーっとだけ道がえぐれてる所があるから気を付けてー!」


 ふむん。

 まぁ悪路でも除雪されてるだけマシだよね。


 他のプレイヤーもチラホラ走り出すのに続いて、いざ出発。


 ヒラヒラと雪が降る中を騎乗従魔の速度で走ると、風が無くても体感は吹雪。

 僕らは完全に全身覆ってるからまだマシだけど、顔が出てるプレイヤーは普通に視界が悪くてしんどそう。

 山は針葉樹が連なる森で、僕らが通っているのが即席の道だって示すみたいにチラホラと切り株が残っている。



 ……そしてある程度走ると、『道がえぐれてる』の意味がわかった。


(……()()()()えぐれてるって言ってたよね?)

(……ちょっとどころじゃないが?)


 雪を溶かす光球に照らされて……ちょいちょい、ド派手なクレーターが出来ていた。

 ……何したんだろ? どう見ても新しいから、この道除雪する時に出来たんだと思うけども。


(ビームとかで除雪したのかな?)

(いやまさか)


 そうだね、まさかだよね。



 そうして走り続けると、遠くから戦いの音が聞こえてきた。

 顔を上げれば、飛行する虫が蚊柱みたいに飛び上がって東へ向かうのが木々の向こうに見える。

 そのままもう少し進むと、一度下がってポーションや魔法で回復をしたり、バフをかけ直してる人達が固まっているのが見えた。


 それを見て、もうフランゴ君と結晶がすぐそこなんだって理解した僕は、相棒に念話で声をかける。


(相棒、先に行ってて。僕、ダディに指示出してから行くから)

(わかった)


 速度を上げて走り去るネビュラと相棒。


 僕は回復中の人達の手前で速度を落とし、ダディから降りた。


「ダディ、光の玉があるから道は大丈夫だよね」

「コケッ」

「うん、良い子。じゃあさっきの村からここまでで、騎乗できる従魔がいないヒトを乗せて連れてきてあげて」


 木の板を1枚インベントリから出して、そこに『フランゴ結晶行き。コケッコ送迎便』と大きく字を書く。

 それに紐を通して、ダディの首から吊り下げた。


「走るのに邪魔にならない?」

「ココッ」

「うん、大丈夫だね。じゃあよろしく!」

「コケーッ!!」


 力強く鳴いて、ダディは来た道を戻っていった。


 走って来た時に、何人か自力で走ってるヒトを追い抜いて来たんだよね。

 ダディはボス戦には参加しないから、送迎をしてもらえれば現場は有利になるはず。


 やるべき事はやったから、僕は相棒が向かった方へ走り出す。


 針葉樹林を走って……抜けた先。



 そこは広い広い岩山の広場だった。


 中央が大きく陥没した丸い崖。

 その中央に浮かぶ巨大な使徒の結晶。

 Cの字になっている崖は、空いてる部分がピリオ方面なんだと思う。湧き出した虫型のモンスターは、その空いている方からどんどん山を下って行ってるみたいだった。

 下やそっちからも爆音とか従魔の鳴き声とか聞こえてくるから、東へ向かう敵を減らそうとしてる人達がいるんだと思う。


 そして、その巨大結晶を守るように巻き付いて取り囲んでいる、禍々しい色彩をして大きな顎を持つ巨大なムカデ。


 ひぇえー、ムカデかぁー……苦手な虫だなぁー!

 ……でも人型のフランゴ君が見当たらないから、あのムカデがフランゴ君の別形態なのかな?


 うぞぞぞぞっと結晶の表面を蠢くムカデに、思わず「うわ〜……」と声が出た。



 ……そうしたら。

 そんな遠くまで聞こえるような大声じゃなかったはずなのに。


 ムカデが一瞬、まっすぐこっちを見て動きを止めた。



「──貴様ァ!!!」



 消える巨大ムカデ。


 アレッ? と思った瞬間、目の前に現れた虫の大顎。


 顎は大きく開かれていて、速度に追いつけない僕の身体は……認識した時には顎の中だった。


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― 新着の感想 ―
顔真っ赤じゃん 落ち着けよ
あらゆる要素で負けフラグ立てちゃったな煽り耐性0ンゴ君
お前が突撃する側なんかい
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