ユ:適材適所はどこですか?
馬車を護衛しつつ辿り着いたピリオノートは……全体が防壁ごと木で出来た籠の中にスッポリと収まり、変わり果てた木のドームになっていた。
……なんだあれ。
もう少し規模の小さい物ならキーナが散々使っているが、こんなとんでもないサイズは初めて見た。
(……相棒じゃないよな?)
(ちがうよ!? それにプレイヤー居住区含めたピリオ全部はひとりじゃ無理だよ!?)
だよな、知ってた。
まぁ中の安全が保たれているならなんでもいいか。
生い茂る木々は防壁もそれなりに隠しているおかげで、外のカカシにかなりの数の虫が釣られている。
迎撃に出てきたプレイヤーがそれをせっせと攻撃して倒していく。ピリオ周辺は雪が薄いままだから、立ち回りにも影響はほぼ無い。レベル低めのプレイヤーでも問題なく相手が出来ているようだ。
釣られていない虫も、木の屋根の上にいる味方の虫タイプの従魔がせっせと叩き落としているのが遠目に見えた。
ここまでくれば、俺達の方をターゲットにする虫はほとんどいない。
「避難馬車通りまーす!!」
相棒が声を張り上げると、直線上で戦っていたプレイヤーが、虫を吹っ飛ばしながら飛び退いて道を開けてくれた。助かる。
途中、やたらテンション高く奇声を上げて門から出てきた集団とすれ違いながら、俺達はピリオノートに突入。
兵士とプレイヤーが門を開けて、こっちこっちと手招きしてくれた西側の入り口へ、まっすぐに滑り込んだ。
門を潜ってから、馬車に【風魔法】でブレーキをかけて速度を徐々に落とす。
完全に馬車が止まった所へ、兵士が急いで駆け寄ってきた。
「……モロキュウ村からの避難民です」
「了解です。通達は受けていますので、乗員と馬車はこちらで預かります」
ホッとして脱力する御者。
馬車の中からは安堵したざわめきが聞こえて、兵士の誘導で少しずつ村人NPCが外に出始める。
よし、ミッションは完了。
(全然過剰戦力じゃなかったよね……)
(うん。割とギリギリだった)
レベル的には余裕でも、敵の数が多いと頭数は欲しい。
まぁなんとかなってよかった。
(じゃあモロキュウ村に戻る?)
(だな)
ピリオノートはモンスターが来ているが、木のドームが上空の防壁になっているから大丈夫そうだ。
見ていたプレイヤーにチラホラ注目されるのを振り切るようにして、俺達は転移オーブへと向かった。
* * *
戻ってきたモロキュウ村は、出発前よりも慌ただしくヒトが増えていた。
NPCは避難したはずだから全部プレイヤーか。
ここと石の街ロックスは使徒の結晶とピリオノートの中間地点だから、レベルの高いプレイヤーはここに転移して迎撃に出ているんだろう。
グレッグさんはオーブの近くで転移してきたプレイヤーに、モンスターの侵攻方向を案内しつつ、ポーションの配布をしていた。
俺達を見つけると、片手を上げて手招きしてくる。
「ピリオに飛ぶ敵が行ったと聞いたが、無事に着いたか?」
「……まぁなんとか」
「そうか、お前さん達でよかった」
ホッと溜息を吐いたグレッグさんは、うんとひとつ頷いて言う。
「じゃあ早速だが……お前さん達は、使徒のいる結晶の所へ行ってくれ」
「むえっ!?」
「……んん!?」
「なんだ、嫌か?」
「……いや……そういうわけじゃないですけど……」
「なんで??」
「そっちの嫁さんの方はフランゴの天敵みたいなもんだろ。だからだ」
あぁ……そういう。
名指しされた当の相棒は「天……敵……?」とイマイチ分かっていなさそうな声を上げているが……今までフランゴにやった事を考えれば、まぁ……そういう認識にもなるか。
「今、直行できるルートを確保してるから少し待て」
「直行ルート?」
「バカ正直に正面から敵を掻き分けて行く必要は無い。結晶の位置が発覚した時点で、『グリードジャンキー』と『麗嬢騎士団』を含む高レベルプレイヤーは反対側から突撃した。……ただそっちは雪が深くてな」
聞けば、ベテランプレイヤーでも結晶とフランゴの所まで辿り着くのにそれなりにMPと時間を消費したとか。
だが、早々に敵の飛行部隊がピリオに到着したのもそうだが、ロックスへ来ている飛ばない虫の規模が想像以上に多い事で、『これは急いで決着をつけた方がいい』という流れになった。
そのため、レベル高めのプレイヤーが速やかに駆けつけられるように雪をどうにかしている所らしい。
「……それってロックス大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではないな」
え。
「大丈夫じゃないなら、僕達ロックスの防衛に行ったほうがよくないです?」
俺達も中堅くらいではあるかもしれないが所詮はエンジョイ勢だ。さすがにガチ勢ほどレベルは高くない。
だったら中堅らしい場所に配置された方がいいような気もするが。
……だが、それに返ってきたのは、予想外の答えだった。
「いいや、ロックスは捨てる事にした」
「「……ええっ!?」」




