ユ:迫る冬イベント
「「おぉ〜……」」
ログインまだです。
夕飯を食べながら、俺達はとある動画を視聴していた。
エフォのプレイヤーが投稿したそれは闘技場のタイマン動画……『レッドvsナムサン』
「すごい、ゲームキャラみたい」
「ゲームではあるんだよなぁ」
重量級の肉叩き系ハンマーを、重さを感じない鋭さで取り回し、チャンスを見逃さずに力を込めた一撃を叩き込むレッド。
それを受け流し、ハンマーを掻い潜りながら、流れるような動きで拳と蹴りの連撃を入れるナムサン。
フルダイブVRのゲームでプレイヤースキルが高い同士やりあうとこういう事になるっていう見本のような動画だ。
「これさ、ナムサンさんの武器ってツーパンベアの爪だよね?」
「だと思う」
打撃音が二重になってるからな……しかも手甲だけじゃなく蹴りもそうだ。
そもそもドロップ率が低めで、出た分はほとんどド根性ブラザーさんに渡した後。だからグレッグさんには少ない数しか渡していないから、全部ナムサンの装備に注ぎ込んだのか。
「コメントにめっちゃ2段ヒットしてる事への質問が書き込まれてる」
「それはそう」
今の所、その手の素材は見たことが無い。
……まぁ、持ってて秘匿しているプレイヤーもいるのかもしれないが。どちらかというと、通常フィールドではまだ解禁されてないんじゃないかと思う。
それこそ……フランゴを倒したあたりで、ピリオからある程度以上遠い地域の難易度がまた上がるだろうから、そこで解禁とかそういう感じじゃないだろうか。
俺達が集めた素材をクリスマスプレゼントで一部のプレイヤーにチラ見せして素材探しの冒険に誘う、みたいな狙いかもしれない。
「……なるほど」
「そうかもしれないってだけだけど」
「んー、でもありそうではあるよね。なんていうか……『1年目、序章フランゴ編!』って感じはしてる」
「わかる。決戦のタイミングがキリがいいんだよな」
「締めのフランゴって感じ」
「鍋かな?」
鍋の季節ではあるが。
なお、激しい戦いを繰り広げた動画は、接戦の末にレッドが勝利した。対人強いなあの人。
食事を終えて、ひと休みしている間に、昼間公開されていた冬イベントの詳細を一緒に確認する。
ソファに並んで座って、肩を抱いて、2人でひとつのタブレットを眺めた。
「年越しまで冬イベントで……あれ? イベント始まった直後にフランゴ戦ありそう?」
「……『???』がフランゴ戦だったら、そう」
意外だ、使徒との決戦なんてメインディッシュ、イベントのクライマックスに持ってくると思っていた。そんな手前に出すのか。
「……落ち着いてフェスティバルと年越し出来るように、フランゴ君気を使ってくれたのかな」
「……その場合、気を使ったのはフランゴじゃなくゲーマスAIかな」
使徒戦っぽい『???』の他は、準備しているツリーに応じてプレゼントが貰えるフェスティバルと、リアル年末年始の年越しで花火が上がるのとお年玉っぽいモノが貰えるらしいイベントが行事系。
後は冬っぽく『巨大雪だるまコンテスト』とか、『雪山頂上モンスター討伐』とか、『美食・鍋の具コンテスト』なんてイベントが並んでいる。
「とりあえず期間中にログインするだけでサンタ帽子は貰えるんだね」
「アクセサリー枠を埋めないオシャレ装備か」
「オンラインゲームによくあるやーつ」
そしてサンタ帽だから冬にしか出番の無いやつな。
* * *
ログインして、今日も今日とてのんびりと作業の日。
防衛用の塔に毒を仕込むのは終わったが、冬の決戦に備えて一応毒薬と毒矢を作り溜めている最中だ。
地下の作業部屋で煮詰めたりすり潰したりを繰り返す俺の耳へ、上の階を走り抜けた後、大幅に減速して慎重に階段を降りる音が聞こえてきた。
「相棒ー! 出来たから見て見てー!」
「んー?」
賑やかに嬉しそうに飛び込んできた相棒の腕には、キョトンとしたマリーと、小さな人形がたくさん抱かれていた。……勢いで全部連れてきたな?
「……とりあえずマリー降ろしな」
「ウイッス」
作業テーブルの空いている場所にマリーを座らせて、その横に小さな人形をズラリと並べて座らせる。
「これがジャックでー、これがデューでー、これがフッシーでしょー」
「……全部サンタ服にしたんだ?」
「うん、サンタイベントだし」
ジャック人形はいつもの衣装の上からサンタ帽子とサンタ服っぽいマントを羽織っていて、デュー人形は街の兵士みたいに兜の上からサンタ帽子を被っているスタイルだ。
オバケ達の人形もそれぞれサンタ帽子を被っている。
かわいらしさに思わず笑みがこぼれた。
「うん、いいんじゃない」
「ね、マリーはやっぱりプロだよ。ログインしたら人形ほとんど出来上がってたもん」
嬉しそうにはにかむマリーを「かわいいかわいい」と言いながらギュウギュウに抱きしめるキーナ。うん、かわいい。
「じ、実は……マスターと旦那様のもあります」
「「えっ!?」」
そう言いながら、マリーは道具入れの中からそっと俺達の人形を取り出した。
「わー! すごい! ちゃんと相棒だ!」
「……おおー」
今の変装していない装備の俺達の人形に、サンタマントが着せられている。ジャック達より気持ち大きめの人形だった。
「これも……一緒にしていただけますか?」
「おあー! するする! マリー最高かよ!」
キャッキャとはしゃいでマリーを抱き上げてクルクルと回る相棒は……回りすぎて画面酔いを起こしてひっくり返った。……やると思った。
こうして相棒のツリーは無事に完成し、オバケ達がいつでも眺められる場所に置かれて、拠点の全員で記念スクショを撮ったのだった。




