ユ:久しぶりの開拓作業
ちょっと短めです
壁とお堀の改良で、全方向への対処に走り回る危険性は減った……と思う。
そうしたら次はデコイを使った敵の誘導だ。
「高さのある人工物がいいんでしょ? どんなのにする?」
「うーん……」
「ド根性さんの所みたいな大きな像か、もしくは櫓みたいなのとか」
あぁ、なるほど櫓か……
「……櫓みたいなのでいいんじゃないか? ……それで、こう……壊された時にイチコロキノコとかデスポテトとかの粉が飛ぶようにするとか……」
「殺意が高いねぇ」
キルゾーンだからな。
トラップで済めばこっちの消耗は抑えられる。
「俺が櫓建てるから……相棒はイチコロキノコ集めてきてもらえる?」
「オッケー」
せっかくだからとジャック達にも声をかけて、相棒はキノコ狩りへ。
俺はその間に建築をする。……久しぶりに開拓らしい事をしてるな?
櫓は壊された場合のトラップを仕込むとはいえ、壊れて欲しいわけじゃない。だから素材は石だな。櫓というより、物見の塔か。
塔は建築にテンプレートがあるからそれを使う。
素材を選んで……場所は門の正面、拠点出入口の門から少し離れた所に建築した。
4階建て、屋根は無くて屋上がある。
微睡の森はそこまで木が高くないから、塔は余裕で森の上に出る。かなり遠くから見えるはずだ。
塔を建てたら、相棒を待ちながらデスポテトの加工に入った。
粉にするだけならそんなに難しい事は無い。
撒き散らして大丈夫なのかって心配はあるが……トラップが作動したら【風魔法】で風向きを海の方へ調整すれば大丈夫だろう。
死の海は生き物はいないからな。
……とはいえ、一応解毒剤の類はあった方がいいか。
「ただーいまー」
「おかえり」
考えながら作業をしていたら、イチコロキノコを籠に山盛りにしたキーナが帰ってきた。
「久しぶりのキノコ狩り楽しかったー」
「それはなにより」
「ヤバい毒だけど美味しいらしいよって言ったら、デューがちょっと興味もってた」
「えぇ……」
このキノコ、魅了もあるからグルメ目当てで試すのも躊躇するんだが?
……うん、魅了があるんだよな。やっぱり解毒剤はあった方がいいか。
「……相棒。俺達の知り合いで、仕事依頼出来そうな錬金術士っていたっけ?」
「んー? ……あー、えっと、あのあれ……名前ど忘れした……最初にお財布空っぽにした人」
「……ああ、グレッグさん」
「そうそれ!」
そうだ、あの人錬金術士だったな。
「……グレッグさんにデスポテトとイチコロキノコの解毒剤製作とか頼んでみるかな」
「トラップに使うから?」
「そう。飛び散った時、俺達が間違って吸い込んだら厄介だから」
「確かに」
肉体デバフの毒は、ステータス表示上は何の毒でも一律『毒』表記だが、何が原因の毒かは分析出来るスキルじゃないとわからない。
そして解毒剤は、弱い毒なら安い解毒剤でも消せるが、強力なモノになるとその原因に合わせた解毒剤じゃないと即効性が無いらしい事が判明している。
だから毒持ちのモンスターが出る場所で狩りをするなら、出来ればそこのモンスターが使う毒用の解毒剤を用意したほうがいい、っていうのが今のエフォの認識だ。
俺の【調合】スキルだと、専用解毒剤は少し心許ない。
その辺を説明すると、キーナはうんうんと頷きながら指を1本立てた。
「どうせならさ、ツーパンベアの爪も持っていこうよ。ワンパンベアの時に使ってた人いたって話だし」
「ああ、そういえばそうだった」
ついでにおひとつ売るか。
今となってはもっと強い素材が見つかってるかもしれないけどな。
* * *
というわけで、俺とキーナは露店広場へやってきた。
グレッグさんのログインは確認済み。アポを取るほど急ぎの用事じゃないから、とりあえず広場にいたらラッキーくらいの気持ちで見に来た感じだ。
変装は無し。
素材を袋に入れて渡せばグレッグさんはその中だけで済ませてくれるからな。だったら変装しない方が目立たなくていい。
「ついでにツリーの飾りの材料も買っていっていい?」
「いいよ」
手を繋いで露店広場を巡る。
雪がうっすらと積もっているピリオは、かなり気温が下がっている。
マントがある俺はともかく、相棒は厚手の上着を着ているわけじゃないから見た目が少し寒そうだ。……と思っていたら本当に寒かったらしく、キーナがポツリと呟いた。
「これ、冬イベントは寒さのデバフとかあるかなぁ?」
「……あー、砂漠の環境デバフみたいなやつ?」
「そうそう」
「どうかな……夏イベントには無かったからな」
ただ、冬はフランゴとの決戦があるはずだ。寒さをギミックに持ってくるなら、防寒対策が必要かもしれない。
「ケープとかあったら買っておこうかなー」
「いいんじゃない」
……なんだかんだ、今日の買い物は用事が多そうだな。




