キ:防衛強化作業
ラージサラマンダーとのバトルに夢中になってしまったド根性さんをそっとしておく事にして、僕らは拠点に帰ってきた。
「とりあえず、壁をカムフラージュするのと、デカいデコイを作るって事でいい?」
「うん」
「デコイどこに作る?」
「……ちょっと考える」
「はーい」
トラップとの兼ね合いがあるからかな。相棒は長考の構えに入った。
じゃあ僕は……そうだなぁ防壁のカムフラージュでも考えようかな。
2人で防壁の外に出て、相棒は門の前で、僕は防壁と周りの森を見ながらそれぞれ思考開始。
うーん……森の中に石材を積んだ壁は、思いっきり人工物だねぇ。
これを自然に見せるには……僕は周りの森と、遠くの山を眺めた。
んんー……もうちょっと景色のパターンが欲しいな。
「相棒、ちょっと周り見てくるねー」
「ん、気を付けて」
「はーい」
フッシーに箒杖に入って貰って拠点の周りを飛んでみた。
「どっかにいい感じの崖無いかな」
僕はカムフラージュのコツなんて知らないから、既存の地形と似せるのが1番の近道だと思う。変な所があったら相棒が直してくれるだろうし。
って考えたら、壁に1番近い地形って崖かな?と思ったのだ。
ちょっと山に近い方へと飛んでみる。
……あの辺とかどうかな。
石壁と同じくらいの高さをした岩が剥き出しの段差を見かけて、僕は熊がいないのを確かめつつ近付いた。
「……ほーん?」
なんか、岩の表面もグルグルしてる?
石目というか、石の形というか表面のデコボコというか……石の組織がグルグルしてる感じ。
まぁここ……微睡の森の木ってグルグルしてるし、遠くに見える山もグルグルしてるからね。それなら石も空気を読んでグルグルしたくなるのかもしれない。
とりあえずスクショ撮っておこう。
その後何ヶ所かまわったけど、崖の模様はどこもグルグルしていた。
拠点に戻って石壁を前に考える。
石材と石材の間の継ぎ目は接着剤が入ってるわけじゃないから、表面をならせばそんなに目立たない。だから、外側にグルグルした模様をつければそれっぽく見えると思う。
ただ……僕には【石魔法】が無いから、石材の形を魔法で調整する事は出来ない。
じゃあどうするか……
「……ネモ」
イメージは、グラインダーでお願いします。
先端に高速回転する円盤が付いた棒みたいになったネモを使って石壁の表面を軽く削る。
──……シュィイイッ……ガギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!
「ちょちょ、何の音!? 何してるの!?」
「工事中でーす!」
「何の!?」
やろうとしていた事を説明。
「それなら【石魔法】持ちの俺がやるから……なんか違う事してて」
「はーい」
相棒はネビュラに乗って崖の模様を確認しに旅立って行った……
ふむ、交代になってしまったぞ?
……じゃあ、崖っぽさの追加その2をしようか。
防壁の上は、走り回れるくらいの幅がある。
だからそこの縁に【土魔法】で少し土を盛って……【草魔法】で、周りと同じ種類の雑草を生やしていく。
戻って来た相棒と一緒にしばらく作業を続けて……防壁は、見違えるほどに崖になった。
「おおー、いいねいいね! それっぽいね!」
「……効果があるかは次の襲撃で確認だな」
そうだね。アクティブな熊は山の方にいるから、この辺はノンアクティブのモンスターばっかりだもんね。
「木で囲もうかなーともちょっと考えたんだけど、崖っぽい方がいいよね?」
「うん。木だと、木登りしてくるかもしれないしな」
「だよね」
防壁はこれでよし。
「周りのお堀は何かする?」
「……何度考えても、やっぱり死の海の水を配置するのがベストな気がする」
「まぁねー」
それはそう。
落ちたらイコール死って状態にするなら、1番確保が簡単で効果が確実なんだもん。
「……要は、原液が濾過もされず地表に染み込むのがマズイわけじゃん? お堀の中に石で深い水槽みたいなのを作って、そこに水溜めておけば大丈夫じゃない?」
「……それでネビュラに聞いてみるか」
門のあたりで座りながら見張りをしてくれていたネビュラに、検討している仕様を説明。
ネビュラは……ものすごく悩ましい顔になって、うーんうーんと首をあっちこっちに傾けた。
「……よろしくないかな?」
「……いや……その形ならば……まぁ、よいのでは、ないか? ……おそらく……おそらくな?」
あ、その反応知ってる。
仕様は大丈夫だと思うけど、万が一何かあった場合を考えるとはっきり大丈夫って言いたくないやつだ。
「水は少なめにするのだぞ」ってネビュラの念押しに従って、お堀の内側を継ぎ目のない石の水槽状態にした後、深さを出したそこに浅く死の海の水を入れた。
「……うん、多少バシャバシャしても土にはザブンとはいかないくらいの量と深さだし、いいんじゃない?」
「まぁ、これで試してみるしかないな」
作業はこの辺でひと休み。
ゲーム内の昼食をとったら、デコイの作成に入ろうね。




