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ユ:山頂にて思う事



 気晴らしにネビュラに乗って駆け出した俺は、少し思うところがあってネビュラに行き先を指定した。


「あの山の頂上とか、いける?」

「無論」

「ボスとかいそうなら中断で」

「わかった」


 この辺りで一番高い山の上。

 山はざっくり言うと、青森県と渦巻きを合体させてドリルを生やしたような形をしている。

 普通に登山すると何時間かかるのか見当もつかない山だけど、そこはさすが精霊ってところか。

 俺が【隠密】を使って戦闘を一切しないなら、100キロは軽く超えてそうな速度で駆け抜けていく。


 山に近付くと、森の中にいつぞやの黒い狐や鹿がちらほら見えた。やっぱりこっちの方にいるのか。

 そして山を登り始めると例のワンパンベア。それも襲撃のボス個体よりレベルが高い。

 少なくとも、あいつを雑魚扱い出来るくらいがこの山の適正レベルと考えよう。


 相棒曰く、MMOにも種類があって、フィールドの門番みたいなのを倒さないと次のマップに行けない物と、本当に自由度が高くてプレイヤースキルがあれば死なない限りイベントマップ以外はどこまでも行けてしまう物があるらしい。

 相棒が好きなのは後者だ。

 そしてこのゲームも多分後者だ。

 戦闘メインで突き進んでる奴らは今頃意味の分からないような高レベルダンジョンとかをうろついてるんだろう。偏見だけど。

 ……まぁつまり、俺も戦うことを考えなければ、この山をただ登る事だけは出来るってことだ。


 山の高所は植生も少し違う。

 森が幻想的な雰囲気をしているのに対して、こっちはなんだか派手だ。ゲーミングっていうか、いろんな色が渋滞を起こしてるのが多い。……あんまり見ない方がよさそうだ、目がチカチカする。

 鳥も少しいたな。大きい物、小さい物、色々だ。相棒は鳥が好きだから喜ぶかもしれない。


「……今は特にボスのような輩はおらぬ。登り切るぞ」

「オッケー」


 今は、って事は普段はいるのかもしれないな。


 薄紫色の岩肌を駆け上がって、頂へ。


「……俺が見てる間、警戒してて」

「うむ」


 ネビュラに警戒を頼んで、俺は背中から降りる。


 山頂の景色は、ある意味で予想通りで、ある意味で予想を裏切っていた。


 山を中心に、丸く広がる森。

 それを囲む『死の海』


 俺達の拠点があるのは、そう大きくない島だ。


 これはなんとなく予想していた。

 どこまで駆けても砂浜が緩くカーブしているから、島か、あるいは半島なんじゃないかと思っていた。


 ただ、予想に反して島はひとつじゃなかった。


 似たような形の島がいくつか水平線あたりにある。

 森があって高台に変な形の山っていうのが基本構造。

 海辺の高さからは見えなかったからそれなりに遠いだろう。


 そして一番よくわからないのが、島の山と山の頂上同士を繋いでいるような光の粒子のアーチだ。

 光といってもかなり薄い。現に下から山頂を見上げていた時は存在に気付かなかった。

 そんな粒子が、この山頂からは七本。別々の方角の島へ向かって伸びている。


 触ろうとすると、ネビュラに止められた。


「それに触れると他の夢島へ渡る事になる。今の主と余ではちと厳しかろう」

「……他の島の方が、敵のレベルが高い?」

「うむ、ここが最も穏やかな島よ。ウサギがうたた寝できるほどに」


 なるほど。

 俺は光の粒子から一歩下がった。



 頭の中で思い出していたのは、ゲーム開始の時の入植地選択。


 相棒は、『近い』と『遠い』の間から外れた、紙の端を選んだ。


 MMOは、何万ってプレイヤーが同時に接続するオンラインゲームだ。

 そんな大人数がいる中で、変な所に印を付けるのが相棒だけだとは思わない。同じように紙の変な所を指して、変な場所に行ったプレイヤーは何人もいるだろう。


 ……まぁつまり、だ。

 俺は『お隣さん』が出来るのが嫌なんだ。

 だから今いる土地の形を確認したかった。


 このゲームは無限生成のオープンワールド。

 開拓を選んだプレイヤーをマップに送る時、そう簡単にお互いの場所へ辿り着かないくらいの距離をあけて放り込まれる。

 俺は結婚システムで相棒とニコイチになってるから、その距離はもっと広い。


 今いるのはそう広くない島だ。

 集落を作るには十分すぎる大きさだけど、ネビュラが全速力になれば一日かからずに一周はできる。そのくらいの大きさ。

 つまり俺達が入植した事で、もうこの島に他のプレイヤーが入る余地はない。

 そしてこの島がこのあたりで一番温いっていうなら、隣の島に誰かが入植したところでオーブを置く前に死に戻る可能性が高いって事だ。

 それならちょくちょく顔を合わせるような隣人なんて出来ないだろう。

 なんなら、そもそもこの死の海が広がるマップで初期入植が可能なのは俺達の島だけの可能性だってある。


 ……良いな、最高だ。


 光の粒子を見ながら、気付けばうっすら笑っていた。


 たぶん……完全に想像で根拠は無いが、ここはイベントマップなんじゃないかと思う。


 陸続きでは来られない、次元のズレた場所。

 一番難易度の低い所から始まって、山の頂から次の難易度へ向かう構造。

『死の海』なんていう、ある意味致命的なアイテムの湧く土地。

 俺達はNPCだろうと人を増やすつもりが無いから試してないが、たぶん家を建てたところで普通の人間は来ないんじゃないか?

 街で雇えるっていう傭兵も来られるか怪しいかもしれない。

 畑では普通の作物を育てる事もできなかった。

 それが、特異なマップをほぼ占有するような状態になるデメリットなんだろう。


 エフォ(EFO)はとんでもないゲームだな。

 希望すればイベントマップみたいな所にも住めるのか。


 俺は景色を何枚かスクショして、ネビュラに再び跨った。


「お待たせ、下りよう」

「そうか」


 下りは当然登るより早い。

 あっという間に景色が後ろに流れて行く。


 ……さて。こうなると、他に似たような事をしたプレイヤーがどんな所に入植してるのか少し気になる。

 そういう専スレでも立ってたりは……しないか。オープンにして得する事なんてほぼないだろう。

 ってことは、精々珍しい素材が市場に流れるくらいか。


「……弓も買いたいし、近い内に露店でも行くか? ……いや」


 望み薄だよなぁ。

 俺達の売却頻度を考えると、他の特殊マップ勢の素材売却も相当少なそうな気がする。資産増やすと襲撃がヤバイのはどこも一緒だ。

 そこまで知りたいわけじゃないし、露店で探すのはやめておこう。


 上手い事、素材が大量放出されるような機会でもないもんかな。


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