ユ:キルゾーンの話
ログインしてます。
襲撃も来てます。
そしてド根性ブラザーさんも来てます。
「ぬぅおおおおおおお!!」
ゴーレムに乗ったド根性ブラザーさんが、野太い雄叫びを上げながらツーパンベアの群れと殴り合いをしている真っ最中だ。
今日の俺達は休日のイン。つまりはリアルの昼間。
こんな時間にやってきた襲撃は、『もう遭遇したから大丈夫だよね!』と言わんばかりにツーパンベアオンリーの叩き売りみたいなのがやってきた。
二段ヒットするパンチで即席の石壁を破壊されたのは記憶に新しい。
だから俺達は素直に同盟を頼ることにした。
とはいえ世間は平日の真っ昼間。
誰もいないかもしれないと思ったが……ド根性ブラザーさんはむしろこの時間帯がメインのログイン時間だったらしい。
同盟リストのログイン表示が光っていたから、援軍を要請したらゴーレムに乗って来てくれた。
「フハハハハハ!! 良いぞ良いぞ! 実に血の滾る肉弾戦よ!!!」
楽しそうで何よりです。
たぶんゴーレムは敵のヘイトを引きやすい物なんだろう、ツーパンベアは脇目もふらずにド根性ブラザーさんへ突進していく。
ド根性ブラザーさんも大量の敵に囲まれるのを捌くのに慣れている動きをしているから、俺達も安心して遠距離から攻撃する事が出来ていた。
そして俺達が狙い撃ちする事でこっちを向いた熊は、デューが壁まで来る前に止める。
そうして、実にやりやすい戦いを経て、ツーパンベアの襲撃は無事に片付いた。
「おつおつー、援軍ありがとー」
「……お疲れ様でした。ド根性ブラザーさん、ありがとうございました」
「うむ、お疲れ様だ! 中々に楽しかったぞ!」
お互いに健闘を称え合い……そしてド根性ブラザーさんが言った。
「だが! ここもそろそろキルゾーンを用意したほうが安心ではないか!?」
「「……ああ!」」
そうだ、なんだかんだどうにか出来てたから忘れてたな。
声を揃えて思い出した俺達を見て、ド根性ブラザーさんは愉快そうに笑った。
* * *
キルゾーン。
ようするに敵を効率的に倒すために工夫したエリアの事だ。
戦闘のあるコロニー育成シミュレーションやサバイバルサンドボックスなんかではお馴染みの概念。攻略情報なんかを調べると、それぞれのゲームシステムに合わせたキルゾーンの作り方みたいな動画がゴロゴロ出てきたりする。
「エフォは現実の感覚に限りなく近いフルダイブVRMMOである! そして! エネミーも同様に現実の感覚に近く設定されておる! つまり! 視覚や気配によって周囲を認識しているのがほとんどなのである!!」
「うんうん」
「……ですね」
「なので見えもしない遮蔽物に隠れた先の道程を理解した動きをする事は無いのだ!!」
「……ああ、なるほど」
よくあるゲームのエネミーは、俺達プレイヤーを襲って来る時、到達可能な経路を検索してそこを通る。
「粘菌みたいに迷路の正解ルートがわかってるみたいに進むやつだよね」
「そうそう」
だがエフォのエネミーはそうじゃない。
NPCは視覚と気配に頼って俺達を探すし、見えていない所が通れるかどうかなんて知りはしないのだ。
「……誘導が難しそうですね?」
トラップエリアに嵌めるならある程度は愚直に突進して貰った方が楽なんだけどな。
「だがエフォのエネミーが何を優先して目指すのかはすでに調べがついておる! 我らプレイヤーを含めた『ヒト族』! そして『目立つ人工物』である!」
ド根性ブラザーさんが言うには……周囲の石と似た色の布を被せて隠した脆い扉と、ギラギラに飾り付けた頑丈な扉とを並べておくと、エネミーは九割九分派手で頑丈な扉へ行くらしい。
「知っての通り、このゲームは迷彩や擬態が有効! なので防壁を周囲の景色に溶け込むような見た目にし! どこからでも視認出来るような背の高い目立つ人工物を拠点の外に用意する事で! そちらへ向かわせる事は可能なのだ!!」
なるほど、デコイか。
大きなゴーレムにツーパンベアがまっしぐらだったのも頷ける。
頑丈なデコイで集めて、その周りに罠を張るなり、集まった所に範囲攻撃を当てるなりすれば、効率的に敵にダメージを与えられそうだな。
「……ちなみに、ド根性ブラザーさんの所はどんな感じにしてます?」
「ふむ、百聞は一見にしかず! 見学に来るか!?」
「あ、じゃあよければ」
「行きまーす!」
前に転移オーブの登録だけさせてもらったド根性ブラザーさんの拠点は、かなり規模の大きな街だったからな。
どんな風に守っているのか興味はある。
防衛戦の後始末を終えて、俺達はド根性ブラザーさんの拠点、『ガイアの大動脈』にある『生存可能区域』へと飛んだのだった。
……なお、援軍のお礼にツーパンベアの爪をド根性ブラザーさんに渡した所、ゴーレムが多段攻撃になるかもしれないとやたら喜ばれた。




