キ:強制エンカウント
オヤツ結晶化の危機に奮起したクロちゃんにトマトとイチゴを任せて、戦闘準備を整えた僕らはネビュラとベロニカとジャック達を連れて山の頂上にやって来た。
「どっちだっけ?」
「南よ、あっち」
あっちと言いながら翼で方向示してくれるの助かる。
「島を2つ飛ぶわ。でも1つ目の島は気を付けなさい。見るからに危険そうなキノコでいっぱいだったから」
「キノコ」
危険そうなキノコの群れ……なんか聞き覚えがあるぞ?
「えーっと……あのあれ、魚の名前ど忘れした……夢のお魚幻獣ちゃんが似たようなこと言ってなかったっけ?」
「……ああ、あのパヤヤ」
「そう、パヤヤちゃん!」
って事は、南隣の島は、とりあえず山の上から様子を見るだけにしておいた方が良さそうかな。
というわけで、目印を置いて、飛ぶ。
そうして着地した島は……ちょっとすごかった。
「うーわ……」
「これはひどい」
視界がゲーミング!
山の頂上以外は胞子が覆ってるらしくて、島全体が色んな色のモヤで霞がかってるみたいになっていた。
その中に見えるキノコがまたデカい。
巨大な木と同じくらいにまで成長した多種多様なキノコがいっぱい生えてる、ヤバい森だった。
「……入ったらひと息でトびそうだな」
「あ、それヤバい薬物がキマってる方のトぶだ!」
僕が幽体状態なら探索できるのかもしれないけど、今は熊探しが優先だからね。
キノコ島だって事だけ覚えておいて、次の島へと飛ぶ光のアーチに乗った。
そして飛んでいる途中で相棒が思いっきり狼狽えた。
「もういるのかよ!?」
「むえ? 何が?」
「熊が!」
「どこに?」
「山頂に!」
さんちょう?
……山頂っ!?
進行方向、着地予定の山頂に。
仁王立ちして僕らを見ている大きな熊さんの姿が!!
「待って待って待って! 着地即戦闘じゃん!?」
「全員戦闘準備!」
止まってくれない仕様のアーチに流されながら。
僕らは大慌てで武器を構えて着地までの間で心の準備を強いられた。
* * *
僕、相棒、ネビュラ、ベロニカ、ジャック、デュー、マリー。
この面子の中で、1番簡単に熊にぶん殴られるのは間違いなく僕である!
マリーも熊の攻撃を避けきれるかは若干怪しいところだけど、そこは僕とニコイチで避難すれば問題ない。
というわけで、山頂へ着地した僕が最初にやったのは。マリーを抱きかかえてフッシー入りの箒に乗り、空中に逃げる事だった。
──ベアアアアアア!!
よし、とりあえず僕とマリーは熊の視界から外れた!
熊は初手に鋭い突進。
デューの構える盾に思いっきり頭突きをかます。
ツーパンベア Lv55
こいつだー!
最近別の島で狩ってた鹿とか狐がLv30とか35とかだったから……ボスじゃないモンスターとしてはかなり強めだね!
ツーパンベアは右腕を振り上げて、力強くデューの盾を殴りつける。
デューはそれを盾で受け流し……そして姿勢を崩して後ろに下がった。
「ヌゥウ!?」
「デュー!?」
「どうしたノ!?」
「不覚! コヤツ、腕の一振りで二撃入れよっタ!」
ツーパンって多段ヒットなのかー!
『ツーヒットするワンパン』ってことー!?
「受け流し方にひと工夫必要なようデスナ。相手にとって不足無シ!」
「デューかっこイイー!」
ジャックが囃し立てながらベアを撹乱する。
ツーヒットするとは言っても、動きの基本はワンパンベアと同じ。
かなり俊敏が高くなっている事に気を付ければ、戦い方はワンパンベアと変わらない。
デューがタンク、ジャックが撹乱しながら斬りつけて、相棒は射撃。
「【トリック・オア・トリート】!」
この熊、贄は出してこないからね。
防御低下のデバフをかける。
そこへ畳み掛ける、相棒の【闇魔法】。筋力低下のデバフを熊にかける。
──ベアアアアアア!!
弱体化が鬱陶しいのかキレ散らかす熊。
ツーパンベアは、右腕を大きく振りかぶると……そのままジャック目掛けて、空中で振り抜いた。
「ウワッ!?」
「ジャック!」
「兄様!」
咄嗟に避けたけど避けきれなかったジャックの衣装、脇腹部分が引き裂かれる。
隙間から、血の代わりに溢れ出す炎。
「あっぶナイ!」
「……高レベル武器攻撃の衝撃波と同じ物か?」
「そのようデスナ。この熊、やはり相当の手練!」
モンスターも近接タイプは衝撃波使ってくるんだねぇ!
って事は、別に空中が安地じゃないや!
とはいえ、普通に地面を歩くよりはよっぽど安全なんだけど。
僕は膝をつくジャックの方へ箒で飛んで、マリーをジャックに渡した。
ジャックの衣装の修理を始めるマリー、そのマリーを抱いて、ジャックは山頂から少し下がって熊の視界から外れた。
うーん、せめて防壁になる物がある所で戦いたかったなぁ! 岩山の頂上だから、木の1本も無いんだよね。
なんて思っていたら、相棒が【石魔法】で壁をいくつか作ってくれた。
ありがとう、とても助かる!
箒で飛んだまま壁の後ろに入って、魔法を唱えた。
「【フレイムクリエイト】」
木が無いって事は【火魔法】を躊躇わなくていいって事。
僕は槍の形で出現させた炎を飛ばして攻撃。
……待ってください、ツーパンベアさん。
僕にヘイトが向くの早すぎやしませんかねぇ!?
──ベアアアアアア!!
咄嗟に浮上したその下で、石の壁がワンパンツーヒットで叩き割られ、ガラガラと崩れ落ちた。
「こっわ!」
間違いなく僕がくらったら即死するわ!
「魔法使うとタゲられやすいのか? 相棒、攻撃魔法控えてデバフか召喚メインでよろしく」
「ウイッス」
デバフ……デバフ……防御低下はもうやったし、ちょっとこの物理の強さだと、ランダム精神デバフは怖いかな?
じゃあひとつ思いついたこんなのやってみようか。
「【ネクロマンスクリエイト】!」
適当な近場のオバケにお願いするイメージで唱えた【死霊魔法】
熊の頭の後ろに、今回はうたた寝ウサギが出現。
そのまま頭の上に乗って、熊の両目を前脚で目隠し。
『だーれだ?』ってやつだね!
『誰だか当てたら直ぐに外れるよ』って無茶振りを対象にお届け!
なお、そんな問いかけ気にせず、オバケを鷲掴みにして引き剥がしたら普通に取れます。
つまり、ノリがよかったり素直に耳を傾けちゃう相手ほどドツボにハマるわけだね!
さて、肝心の熊さんはー……?
──……ベアー?
悩んだー!!
ツーパンベアさん素直だね!?
さてはとっても単純な脳筋タイプだね!?
「……何したの?」
「通りすがりのオバケで『だーれだ?』ってした」
「えぇ……?」
見てくださいよ、あの目隠ししてるウサちゃんオバケのドヤ顔を。
相棒はちょっと遠い目をしてたけど、視界を塞いだ上に思考を割いてチャンスである事には変わりない。
手当てを受けて復帰してきたジャックと一緒に、僕らは素直な熊さんを全員でボコボコにして勝利を収めたのだった。




