キ:MMOあるあるアイテム集めクエスト
なんということでしょう。
僕が声をかけたNPCのオバケちゃん。
相棒からはオバケちゃんに見えてなかったんですってよ!
じゃあ僕には何に見えてたんだっていうと、サンタ帽を被って大きな袋を持った、半透明のシーツオバケ。
王国が入植してくるまでヒトがいなかった世界だから、シーツオバケみたいな精霊とか幻獣がいるわけないし。って事は、クリスマスに浮かれてるオバケだってなるじゃん。
デフォルメチックなシーツオバケなら別に怖くないし、オバケがこんな昼間から『オバケでーす!』みたいな格好で露店広場をうろついて大丈夫なのかなって心配になったんだよね。
もうハロウィンは終わったんですよ?
うっかり通りすがりの寺生まれな聖女ファンとかに『破ァッ!!』てされたらどうするの。
……てな事を念話で相棒に言ったら『神官のこと聖女ファンって言うな』って笑い声の念話が返ってきた。
さて、そんな僕らは見る人によって姿が違って見えている謎のNPCに誘われて、人気の無い路地裏に。
そこでNPCはくるりとこっちを振り返った。
「えーっと……ボクはなんだと思いますです?」
はて、見る人によって姿の変わる存在ねぇ……ついさっき、そんな設定の存在の説明を読んだわ。
「贈り物の神様?」
「ハーイ、大正解でございますです!」
贈り物の神様は、嬉しそうにピコピコと動いた。
かわいい。
エフォのサンタポジは子供っぽい雰囲気なんだねぇ。
贈り物の神様曰く、神様が直接ヒトの世に干渉するにはヒトに近い形にならないといけなくて、でもその状態でヒトの世に降りたら自分から神様だって名乗っちゃいけないルールがあるんだって。
「そして神様だって気付いてもらえないと、ヒトに直接頼み事をしてはいけないルールもあるんです。もー、めんどくさいったらです」
「なんでそんな事に……?」
「むかーしむかし、一部の神様がやらかした名残ですね。神託ならオッケーですが、それも下手な相手に神託すると厄介な事になるので……まぁ、普段から聖人を指定するなりヒトの子との信頼関係をきちんとしておけって話です」
名残かぁー……神様が多いタイプの世界観って、神様がやらかした系の神話も多いよね。何があったのやら。
「まぁボクはヒトの姿をとっても、ボクを見たヒトの子と同じ種族に見える存在なのは変わらないので、多種族で集まってるパーティなんかには割とすぐ気付いて貰えるんですけどね」
「……なんで見るヒトの種族に合わせてるんですか?」
「幼子は同じ種族の方が安心するからです。例えば小人の幼子の前にヒューマンより大きな種族の姿で出たりしたら、泣かれて贈り物どころじゃなくなりますからね!」
それはそう。
神殿なんかにある神様の絵姿だと、贈り物の神様は透明人間がサンタ服着て袋背負ってる姿で描かれているらしい。それが本来の姿なんだとか。
そこまで説明をすると、贈り物の神様はイタズラっぽくちょびっと舌を出した。
「……と、いうわけでですね。ボクの正体を見破ってくれたお二人に、ボクは頼み事をする事が出来るわけなんです」
あ、なるほど。
神様は、かわいらしく両手を合わせると、頭を下げながら言った。
「お願いです。ボクのプレゼント集めを手伝ってくれませんかです! もちろんお礼はさせていただくのです!」
──クエスト『神様のプレゼント準備』を受託しますか?
(サンタさんのプレゼント集めを手伝うやつだ!)
(ゲームにはよくあるイベント)
喜んで受諾。
すると贈り物の神様は嬉しそうに「わぁい」と跳びはねた。
「ボクの都合というか、経緯の説明は欲しいですかです?」
「ぜひ」
ざっくり話してくれた所によれば……
そもそも王国のある世界からこの世界へ開拓に来ているわけだけど。この世界の主神はびっくりするほど懐が深いと言うか、来るもの拒まずな性質らしいので。開拓神を筆頭にする三神以外の神様も必要に応じてこっちの世界にやってきて活動したりしているらしい。
贈り物の神様も、冬のフェスティバルでツリーの元へ届けるプレゼントを用意するためにやって来ようとしていたのだが……
「ちょっと神様会議がこじれまして」
「わぁ」
元の世界の物資をこっちへ持ってくるのはともかく、こっちの世界の物をフェスティバルの贈り物としてばら撒くのは、世の中が混乱するのではないかと商売の神様から待ったがかかったらしい。
そこから他の神も、じゃあアレが心配だ、それも不安だ、と言い出して、長い長い話し合いの末……最終的には、それぞれの世界に住むヒトの子への贈り物は、その時にいる世界の物で用意しようという結論に至った。
「それが昨日の事なのです」
「……遅くない?」
「遅いのです! 贈り物を準備するのにギリギリなのです! 予約が必要な品物とか、急がないと間に合わなくなるのです!」
神様から、クリスマスプレゼントの調達に苦労する世の中の親御さんみたいな愚痴が出てきた。
「もちろんありとあらゆる手を使って間に合せはしますが……手伝っていただけると大変助かるのでありますです!」
「……なるほど」
「それなら露店広場でこの説明してもらったら、近くにいた人達も巻き込めたんじゃ?」
「……一度それをやって、フェスティバル当日でもないのに『プレゼントちょうだい!』と収拾がつかなくなった事がありまして……」
「あー……」
「トナカイさんとかはいないんですか?」
「あ、ボクの眷属の事ご存じなんですね。トナカイ達は、フェスティバル本番に向けて身体作りの最終調整に入っているので、プレゼント調達のお手伝いは出来ないのです」
「最終調整」
「アスリートかな?」
まぁいないものはしょうがないよね。
贈り物の神様は、ものすごく長い巻いた紙を取り出し、そこに書かれたリストを指をスーッと滑らせて確認した。
「えーっと……お二人にお願いしたいのは……このへんですね」
そしてリストの中から見つけた項目を、隣に浮かせた別の羊皮紙にサラサラと書き留めて僕らに渡す。
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集めて欲しいリスト
ストロングハートベリー ×10
満ち夢ちトマトの結晶 ×3
夢喰い鹿の角 ×20
常闇狐の毛皮 ×20
ツーパンベアの双剛爪 ×5
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……MMOによくある『アイテム集めて来てねー』なリストだなーと思っていたら、最後の項目で変な声出そうになった。
ツーパンベア???
え、知らない。いるの?? ツーパンベアいるの???
「フェスティバルの三日前までにはお願いしますです。アイテムが集まったらひとつに固めて置いてくださいです。そうしたらボクの方から受け取りに伺いますね!」
「「アッハイ」」
ちょっと放心している僕らを残して、贈り物の神様は「ではではー」と手を振って去っていったのだった。




