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キ:断片を繋ぎ合わせた先で

長くなりました。


 闘技場から拠点に帰った僕達は、今度は変装してピリオのお城へGO。

 王様の御希望通り、封印の中身が魔眼でしたよーって事を伝えておかないとね。

 あと、魔術師団長さんに訊きたい事もある。


 なので、お城へ行って、小勲章を見せつつ面会を希望。

 部屋へ案内からの、お茶とお菓子をいつものメイドさんから貰ってうまうましてからの、魔術師団長さんがやってくるいつもの流れ。


 貰った封印を開けた事、中に魔眼と魔眼について書かれていた手紙が入っていた事を伝えて、その手紙を渡す。

 興味深そうに手紙に目を通した魔術師団長さんは、納得したように頷いた。


「なるほど、古の魔眼戦争の遺物だったか……」

「魔眼戦争……?」

「ああ、エルフよりも長命なハイエルフの年寄りが前の世代から伝え聞いた……くらいには古い話だ」


 それってほとんど神話とか御伽噺なんじゃないかなぁ?


「……お前達は、この手紙は必要か?」

「いえ別に。欲しかったらどうぞ」

「では陛下に渡すとしよう。それで、当の魔眼はどうした?」

「……俺が使いました」

「そうか」


 相棒が挙手して申告すると、魔術師団長さんはうんうんと頷く。

 事前に『中身は好きにしろ』って言われていた通り、特に使った事については何も言われなかった。


 御褒美の封印の中身については、これで終わり。

 なので、来たついでに訊きたい事を聞いておく。


「魔眼とは関係無いんですけど……ちょっと訊きたい事があって」

「なんだ?」

「無詠唱って、今は失われた刻印が必要だって、前に本で読んだんですけど……魔術師団長さんは何か知ってたりします?」


 なんたって『魔術師団長』だからさ。

 魔法に詳しい偉い人なら、何か情報が出たりするのかなって。


 魔術師団長さんはちょっとキョトンとした顔になった。


「なんだ、お前達もか」

「お前達も?」

「ああ、勲章持ちの冒険者数名から同じ質問を受けている」


 あー、β勢かぁー。

 そうだよね、やっぱり皆考える事は一緒だよね。


「それについては、ロストマジックの研究者が春にこちらへ来る事になっている。来たら連絡を入れてやろう」

「おおー、ありがとうございます」



 ──ロングチェーンクエスト『失われし刻印』系列クエスト。

 ──『ロストマジックの研究者』が開始されました。



 あ、チェーン続いた。


(主要NPCが出現しないことで、クエスト進まないようになってたのかな?)

(かな)


 ……でも、ロストマジック……ねぇ。

 それはそれで会ってみたいんだけど、僕はちょっと別の事を思いついていた。


 とりあえず訊きたい事は聞けたからオッケー。

 僕らは挨拶をして、拠点へと帰還したのだった。



 * * *



「さて、僕は気になる事があります!」

「ハイ」


 拠点に戻って早々、僕はすぐに気になった事を確認する事にした。


 確認先は……死の狼精霊である、ネビュラ。


 庭でオバケたちの籠のそばでのほほんとしているネビュラの所へ行く。


「ネビュラ、死の海ってさ……死霊の『いらない記憶』を溶かすんだよね?」

「その通りだが?」

「で……未練とか怨念とかが奈落に行くんだよね?」

「うむ」

「じゃあ……それ以外って、どうなるの?」


 奈落の仕様を聞いて、ちょっと気になっていた事。

 死の海は、いらない記憶を溶かすけど……奈落には呪いになりそうな情念しか落ちていない。

 もっと言うなら……いつかのカラスちゃんとかは、この世界に来たばかりで勝手が分からないから、まるっと記憶は全部溶けて生まれ変わっているはず。

 呪いだった頃の集合体ベロニカは、記憶の断片は持っていたけど、それでも全部を覚えてはいなかった。

 って事は……


「知識とかって、もしかして、海に溶けっぱなしなんじゃない?」


 知恵の林檎の知恵は、何処から来るんだろうってずっと不思議だった。

 ここは死の海に接する島。

 土に埋まる根菜が猛毒の物になっちゃう傾向が強いのは……もしかして死の海の成分が多めな土に包まれちゃうからかなって思っていた。

 だから知恵の林檎は、その死の海に溶けていた知識が林檎に入ってるのかなって思ったんだ。


 そう言うと、ネビュラと、周りの籠にいるフッシーとコダマ爺ちゃんは感心したような声を上げた。


「おお……よくぞ気付いたな奥方。その通り、未練は魂に絡まり引き留めるが故に奈落へ捨てる必要があるのみで、そうでない記憶はそのまま海を漂っておるぞ」

「そこな林檎や我ら植物が喰ろうておるのは、土で薄まった死の海の水だけではなく、夢の類もあるがのぅ」

「うむ、ここはあらゆる魂の根が繋がる次元。精神の奥底で、眠る度に死する準備をするための地よ。無意識や夢が接続され、知識の類もあわせて溶け出す。それこそが『終焉の夢想郷』」

「「へぇ~」」


 返事に納得する僕と相棒。


 じゃあ、そこから希望する知識をピックアップして獲得する事は出来ないかな?

 まぁ、無詠唱の知識を持ってる人が、この世界に迷い込んでお亡くなりになっていたらって前提の話になるけどね。


 僕がそう言うと、ネビュラはちょっと難しそうな顔をした。


「死の海は溶かすためのモノであり、溶け出たモノを取り出すようには出来ておらぬ」

「奈落に行く未練とかは?」

「あれは底に澱み溜まったモノを下層に落としておるだけぞ」


 濾過装置とか無いんだ? 奈落に捨てるだけって聞いた時も思ったけど、この世界の仕組みって割と雑だよね。


 そしてさらに。


「仮に見かけて拾う事が出来るとして、だ。奥方。余と同化出来る主はともかく。そうでないヒトの子は死の海に入れぬぞ」

「……それはちょっと考えてる事があります」


 というわけで、本日2回目の死の海へGO。



 * * *



 紫の海の波打ち際に、僕と相棒とネビュラ、そして面白そうだからと一緒に見に来たフッシーがいた。


「じゃあちょっと死の海に足先をつけてみます。……ネビュラ、その場合どうなるかな?」

「何もしなければ命が溶け出て、そうかからぬ内に死ぬ。以前のように、拠点にて復活するであろう」


 うんうん、何もしなければね。


 3人に見守られながら、僕は死の海の浅瀬に足を浸す。

 ……おお、HPが減っていく。

 あんまりHP高くないから、僕は急いで魔法を使う。



【死霊魔法】は死んで魂だけになったオバケを使役するもの。

 ……じゃあ、自分が死んだ後の、自分の魂もどうこう出来るんじゃないかって考えた。


 大霊廟の黒幕のレイス、生前は死霊使い、あれはきっとそういう事。


 僕が死の海で死んだ後、オバケになって活動する姿をイメージした魔法。



「……【ネクロマンスクリエイト】」



 すると、目の前にシステムウィンドウが展開された。



 ──注意:このまま続行すると種族が変更されます。

 ──元の種族には戻れません。


 ──【死霊魔法】必要レベル30到達を確認。

 ──魔法のイメージ条件の合致を確認。

 ──種族『デミ・レイス』へと至る条件を満たしました。



 ──『デミ・レイス』

 ──生きながら死に、死にながら生きる者。


 ──『デミ・レイス』は自らの意思で肉体と霊体との切り替えが可能な種族です。

 ──切り替えはクールタイムが発生します。

 ──肉体状態でダメージを受け死亡すると、即時霊体化します。

 ──死亡による霊体化はデスペナルティが発生し、専用のクールタイムを経過しなければ肉体状態に戻れません。

 ──霊体状態で死亡するとデスペナルティが発生し、登録されたスポーン地点にて肉体状態で復活します。

 ──『デミ・レイス』は、デスペナルティの適用期間中に、再度デスペナルティを受けた場合。その効果が加算されます。

 ──『デミ・レイス』は【光魔法】を習得する事が出来ません。

 ──現状【光魔法】を習得していた場合、スキルが消滅します。

 ──『デミ・レイス』は【死霊魔法】にボーナスが入ります。

 ──『デミ・レイス』は霊体のNPCからの好感度が上がりやすくなります。


 ──霊体状態についての注意。

 ──霊体状態時は重力の影響を受けません。

 ──霊体状態時は肉体バフ・肉体デバフにかかりません。

 ──霊体状態時は日光に当たる場所にいるとHPが少しずつ減少します。

 ──霊体状態時はHPを回復する事が出来ません。

 ──霊体状態時の物理防御力は精神ステータスで算出されます。

 ──霊体状態時は筋力ステータスと物理被ダメージが半減します。



 わぁーお、長い長い長い!

 なったら元に戻れないからって詰め込みすぎじゃあございませんか!?

 しかも死ぬまでの間に読めるようにって事なのか、思考加速かかってるこれ。


 一時的にオバケ化するのかと思ってたけど……種族が変わるんだねぇ……

 ただ……僕のプレイスタイルとかスキルとかを考えると、割と噛み合う? ような気がする。


 簡単に言っちゃえば『デスペナ酷い事になる代わりに2回死ねるよ』って事だから。とっても柔らかなオワタ式には嬉しいです。


 そして重力の影響を受けないって事は……多分飛べるよね? オバケだもんね。

 まぁ昼間の屋外でオバケになったらジリジリと死ぬみたいだから、どこでも飛べてヒャッホイは出来ないみたいだけど。オバケだからしょうがないね。


 あと【光魔法】が消えちゃうけど……現状、あんまり使ってないしなー。それなら【光魔法】要員を別に確保したほうがいいかも。



 ……うん、いっか! 面白そうだし、見たこと無い種族だし、なっちゃえなっちゃえ!



 承諾を選ぶ。


 すると思考加速が消えて、HPの減少速度が元に戻り、あっという間にゼロになった。


 同時に、僕を囲むように輝く光の輪。


 従魔が進化する時に出るのと同じ光の輪に包まれながら、僕のステータス画面が開かれて、種族の項目が『エルフ』から『デミ・レイス』に差し替わる。


 そして光が収まれば……種族変化は完了して、僕は半透明に透けている姿で立っていた。


 振り返ると、ものすごくビックリした顔の相棒とネビュラとフッシーが僕を見ている。


 やってやったぜ! って気分で、僕は皆にピースサインを向けた。


「『デミ・レイス』になった!」


 どう見てもオバケな僕と、その言葉で。

 相棒は苦笑いしながら頭を抱えた。


「なんで俺じゃなくてそっちが幽霊になった!?」


 あ、本当だ。


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― 新着の感想 ―
面白そうだなぁと読んでいたら面白そうで進化したwww
リアル透明種族になりましたやん
ホラー苦手がホラーになってしまうのウケる
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