ユ:ひと休みしていた間の世間の変化
ログインしました。
リアルはすっかり空気が冷え込み、早々に暖房の出番がやってきた季節の変わり目。
俺達が住んでいるのは北の方だから、11月ともなれば当然のように雪が降る。
そんな冬の始まりの冷え込みにより少し体調を崩しかけたのが原因で、俺達のログインは大霊廟ダンジョンの召喚から少々間が空いた。
……その間に、エフォではそれなりに色んな事が起こっていた。
まずはログインしていない間にスレで盛り上がっていた事。
光学迷彩がナーフされた件について。
まぁ、来るとは思ってたよな。
あまりにも便利……というか、強すぎた。【隠密】が完全に死にスキルになってたからな。
変更内容は『透明化していても、動くと違和感が出るようになる』という物だ。
動かずにいると見えないんだが、動くと水面みたいに輪郭が波打って見えるようになったらしい。動きが速ければ速いほど波打ちが激しいんだとか。
それでも見えにくい事には変わりないし、その弱体化部分は【隠密】スキルを併用してカバーしてくれって事らしかった。
【隠密】は【感知】が高いと看破されるから、強い敵相手だと見つかるわけだ。
……まぁ、無難な調整なんじゃないか?
これで完全に光学迷彩を使い物にならなくしたら、頑張って開発したウェーニンさんがあまりにも浮かばれないし、そうしたらプレイヤーの反発も大きいだろう。
スレによれば、ウェーニンさんは『まぁ光学迷彩は優秀だからしゃーないな!』と、逆にドヤ顔していたらしい。ナーフされるほどの物を作ってやったぜっていう優越感の方が強いようだ。……落ち込んでいないならよかった。
次の変化は、ログインと同時に光るシステム通知でお知らせが来た。
開いてみると、それは不在時に流れたワールドアナウンスの履歴。
──《『天頂の竜門』にて、ヴェーレンハイド・シルバードラゴンが討伐されました》
──《これにより通常マップ各地のフィールド及びダンジョンへ》
──《竜のモンスターが出現するようになります》
これは俺達もログインしていない間に公式動画が上がっていたのを見た。
どこだかわからない山の頂上で、バイトリーダーさんが巨大な銀色のドラゴンに従魔を率いて挑み、勝利する動画だった。
スレに上がった情報によれば、このドラゴンは実力を認めさせればオッケーなタイプで死ぬまで戦うわけではなかったので、まだ生きていて力試しがしたいプレイヤーに応じるべく山頂にて挑戦者をいつでも待っているらしい。
そしてこれ以降、フィールドやダンジョンにちょいちょいドラゴンが出現するようになり、全体的な難易度がちょっと上がったとか。
「ドラゴーン! そのうち見てみたいねぇ」
「だな」
次に、朝日を浴びながら拠点の敷地に出ると、ベロニカが城から届いていた書簡を渡してくれた。
「誰からー?」
「城から」
まぁ内容は予想通りだ。
要約すれば、『大霊廟の被害者解放の褒賞が本国から届いたから取りに来い』と。
リアルで数日経つとゲーム内で3倍経過してるわけだからな。もう来てるとは思っていた。
「他に予定も無いし、後で行こっか」
「うん」
それから、ゲーム内朝食を俺が作っている間に相棒が買ってきた新聞を、食後に一緒に読んだ所によると。
神官系の職業は、大霊廟への巡礼クエストが教会で受注出来るようになったようだ。
まぁ巡礼と言っても、現地の柵の前まで行ってお祈りをするだけで、中まで行って何かするような物ではない。
それに伴い、北方面へ行き来する馬車が増えた。大霊廟の最寄りのエゴマ亭を通り越して、『湖畔のミストタウン』まで行く。
それに乗るなり護衛クエストを受けるなりして、初心者も手軽にエゴマ亭で転移オーブを登録出来るようになった。
「ダンジョンが増えてこういう影響が出る事もあるんだねぇ」
「確か砂漠の時も馬車が増えてた」
「あ、そう言えばそうだっけ」
巡礼クエストは低レベル初心者向けのクエスト。
そして高レベル向けには、大霊廟ダンジョン内の遺品回収クエストが出ているようだ。
あの時、最奥にオバケが集まっていた事を考えると、相当奥まで潜らないと回収出来ないだろう。現在トップレベルのプレイヤーが挑むのにちょうどいいクエストになっている、と記事は締めくくっていた。
「色々あるんだねぇ」
「……聖女を元気づけるクエストとかも、孤児院で出たりしてるらしいよ」
「親衛隊大歓喜のやつじゃん……え、なんかとんでもなく大規模なパーティ化したりしてない?」
「さぁ……?」
その辺は特に新聞でも触れられてないからわからん。
……ん?
「……相棒」
「なにー?」
「新聞の広告見た?」
「まだ見てない」
「……ここ」
『知恵の林檎、買います』
「……そういえばしばらく売ってないな?」
「……そういえばそうかも」
外に出たらついでに売ってくるか。




