キ:ドッタンバッタン大脱走
ゲーム内の敵キャラですが、ヘイトが集まる立ち位置でもあるので、元ネタ等は無いオリジナルで作っています。
名前は図書館の子のように意味をもたせた設定がある場合もありますが(逆読みによく気付くなぁと感嘆しておりました)。
そうでない場合はなんとなく頭に浮かんだ響きを出して検索にかけ、著名な作品の登場キャラが引っかかってこない事を確認してから決めています。
なので響きがなんとなく似ていても、全くの無関係なのでご安心ください。
スレに出てくるプレイヤーは、なりきりプレイはMMOあるあるなんでそれっぽい匂わせネームがちょいちょいいたりはしますけどね。
さあ始まりました、ガリスメリア大霊廟脱出レース!
アンデッドに追いかけられながら、立ち塞がるアンデッドを蹴散らして、残りの被害者オバケに花を押し付ける大脱出がはっじまーるよぉおおおお!!
僕は! ホラーが! 苦手なんだってばぁぁあああ!!
運動会で聞くような曲を脳内再生しながら現実逃避しようとしても、後ろからドッタンバッタン追いかけてくる現実がそれを許してくれない!
なにあのオッドマッドシェイドってモンスター!?
のっぺりした真っ黒の巨大な不定形で、何本も生えてる細長い腕みたいなのをバラバラに動かしながら追いかけて来るの怖すぎるんだけど!?
必死にフッシーの羽が生えた箒杖にしがみつきながら、MPポーションを飲み続ける。
レベルが上がって最大MPが増えたから、なんとかこうやって補充しながらなら飛び続ける分を補って多少の余裕は出来るくらいになっていた。
その余裕を使って、僕は進行方向に立ち塞がるアンデッドに魔法をぶちかます!
「【ダブルクリエイト】!!」
輝く火色の花。
死霊使いからの望まない支配を断ち切る魔法をぶつけて、領主さんのオバケに教えて貰った残りの被害者を1人ずつ解放していく。
それでも、立ち塞がるアンデッドのほとんどは被害者じゃない悪霊だから、関係なく僕らに襲いかかってくる。
「【主翼宣言】! 【グロウクリエイト】!!」
「オリャアアアアー!」
先頭へ突出しているラウラさんとジャックが、【光魔法】と近接攻撃で敵を蹴散らしていく。
そして、後ろに続くネビュラの上の3人に残りが手出ししないように、相棒が矢を撃ったり短剣で叩き落としたりと忙しい動きをしていた。
「申し訳ありまセヌ……せめて身のこなしがもう少し早けれバ……ッ!」
「気にしない気にしない」
ネビュラの背中のデューが悔しそうに言うのを慰める。
向き不向きって物があるからね、タンク役にこの速さは難しいよ。なんならタンクでさえない僕だって未だに俊敏一桁だしね。
ひと声かけてすぐにポーションを飲む作業に戻る。
ネビュラに乗っている残りの2人……夾竹桃さんと聖女さんは何をしているのかと言うと、聖女親衛隊の皆がくれた魔道具をポンポンと使いまくっていた。
奈落戦の時みたいに、夾竹桃さんは僕ら全員の負傷を肩代わりしてくれている。肩代わりなら【光魔法】じゃないからかジャックにも効果があった。
だから先頭の2人が受ける細かな負傷が、どんどん夾竹桃さんに飛んでくる。
それを夾竹桃さんと聖女さんの2人がかりで治しつつ、かけては蒸発する結界を魔道具で張り直しながら灯りも撒いて、さらに夾竹桃さんは後ろのデカブツが呪ってくる対処までしてくれていた。
「アッヒャヒャヒャヒャ! こんな忙しいの初めてだわー、超楽しー! ……あ、後ろ突進かもー! 避けてー!」
廊下をひとつ抜ける……くらいの所で、夾竹桃さんが叫んだ警告。
全員が瞬間速度を上げて曲がり角に滑り込んだ後ろで──ドゴォッ!! って音を立てて石壁に突っ込んだ真っ黒ボディが見えた。
「ヒュー! 肉食獣っぽい予備動作と思ったら、だーいせーいかーい!」
「あ、ありがとうございます!」
「……助かりました」
「ありがとおおお! 【ダブルクリエイト】ぉおお!」
次の通路に突入しながら、僕は初手で魔法をぶちかます。
取りこぼしたら、たぶん取り戻せない。
今回の僕はひたすらダブクリ撃つだけの装置です。
ホラー怖いから何にも考えなくていい役目はむしろ助かるんだけどね。
肋骨に花を咲かせて倒れるスケルトン。
離脱して消えていく誰かの霊。
「……今ので何人!?」
「3人目!」
階段を飛び上がりながら、声を掛けあう。
踊り場で折れ曲がる階段のUターンは、みんな奥の壁に着地するみたいにして方向転換。
「【ダブルクリエイト】!!」
4人目。
また突進してくるオッドマッドシェイドをなんとか避ける。
5人目、6人目。
階を上がるにつれて、立ち塞がる敵のレベルが下がっていく。
火色に光る花に埋まった廊下は、燃える火の上を進むかのよう。
7人目。
ダンジョン的には、深く潜る程に強くなるのは当然と言えば当然だから、逆走している僕らにとってレベルが下がっていくのも当たり前と言えば当たり前。
8人目。
ここまでくると、僕らのレベルだとワンパンで倒せる敵ばかりになっていた。
後ろからの突進にさえ気をつければ大丈夫。
9人目。
地上が近い……でも、全員解放して途中離脱なんて事はさせてもらえない。
階段から飛び上がる。
高い天井。
最初は無人だった地上一階の礼拝堂には、待ってましたと言わんばかりにアンデッド達が待ち構えていた。
「【ダブルクリエイト】!!」
集団に放つ魔法。
目を凝らす……燃えるような花にまみれた廃墟の中で、花を抱いて倒れるスケルトンが1体。
「オッケー! 全部終わっ……ワァアッ!?」
しまった。
終わったと思ったら気が抜けた!
追い付いてきた黒い影。
何本もの細長い腕が伸び上がって巨体が飛び出し、僕らの頭上を飛び越えようとしていた。
「させヌ!!」
聖女さんを避難させようと出口へ向かって跳躍していたネビュラの背中から、デューが盾を構えて飛びかかる。
右手の盾に激突。
奇怪に細い指先が盾にかかる前に、左手の盾でのっぺりとした顔面を叩き落とした!
「今がチャーンス!!」
「は、はい! 【グロウクリエイト】!!」
炸裂する【光魔法】
消し飛ぶ周囲の雑魚アンデッド。
こじ開けた出口の向こうへ、2人を乗せたネビュラが消える。
……よし、聖女さんは生還!
それを追いかけてラウラさんとデューも外に出た。
そして問題は僕です。
ビックリした弾みでMP切らして箒の飛行が消えちゃったんだよね!
若干パニック気味だから、アイテムで脱出しようにも体がもたついて動かない!
まぁでも聖女さんが生還したならいいかな……
「はい、出るぞ」
グン、と腰に腕が回って引っ張られる感覚。
脱出したネビュラを即呼び戻して同化した相棒が、僕を持ち上げて走っていた。
後ろから、マリーを拾ったジャックが追いかけてくる。
そしてその後ろからデタラメに動くオッドマッドシェイドが追いかけてくる!!
「──っ!!!!!」
直視しちゃって頭が真っ白になった次の瞬間……僕らは大霊廟の出入口を通過。
専用フィールドを、無事に脱出したのだった。
……ただちょっと心は無事とは言い難いので、今夜は相棒にベッタリくっついて寝させてもらう。絶対にだ。




