ユ:現場到着
ログインしました。
闘技場で詳細を詰めてからは、俺達のプレイスタイル的に厄介ファンと顔を合わせる事も無いから平和な物で、今日は大霊廟召喚の当日。
同盟に声をかけたところ、今回は全員が参加可能。
ダンジョン召喚の見学から参加する事になった。
聖女の同行は、城の方にオッケーの返事をした。
変装して教会に行くと親衛隊が走って来そうな気がしたからな……
城から聖女に連絡が行き、当日現場に聖女が来る事になったから、たぶん教会の方で聖女を現地へ送り届けるクエストとかが生えたんだろう。
そういうわけで、俺達はログイン後にいつものゲーム内朝食を済ませて、ダンジョン突入の準備をした。
変装して、消耗品の確認。
俺はネビュラを連れて行って、室内だからベロニカは留守番。
相棒は籠にフッシーとコダマ爺さんとネモを入れて、今回はジャック・デュー・マリーの三兄弟も連れて行く。
準備が出来たら、転移オーブでエゴマ亭へ飛ぶ。
久しぶりに来たエゴマ亭は、防壁が石造りの頑丈な物に変わっていた。
イノシシの襲撃とかそこそこの規模っぽかったもんな。
注目を浴びる前に、さっさと移動する。
召喚場所はエゴマ亭から東側。
そう遠くない所にある、でも宿には近すぎない、緩やかな丘陵地帯にある丘と丘の間の平地だ。
宿から徒歩で移動して現場に着くと、木々を切り開いた広場で、召喚の準備が進められていた。
今回は街の真横じゃないから、NPCの野次馬もいない。
現場にいるのは関係者だけだ。
「お、来たな」
「こんにちはー」
「……どうも」
こっちを見つけたカステラさんと挨拶をしていると、他の人達も声をかけてくる。
ひと通り挨拶を終えて、俺達は同盟メンバーが固まっている所に合流した。
「いやー、楽しみ楽しみー」
「は、はい。気になってかなり早く来ちゃいました」
「フフフ、前のダンジョン召喚は動画で見たけど、迫力があったから楽しみだわ」
「うむ! 前回都合が合わなかったのが悔やまれていたからな!」
かなり乗り気な同盟メンバー達。
カステラさんは召喚士だから現場で準備中だが、こっちは完全に観光気分だ。
そして待っていると、偉い人の遠征か? って数の馬車がぞろぞろと列になってやってきた。
幌馬車がほとんどで、1台だけ貴族とかいそうな箱馬車。
少し離れた邪魔にならない所で馬車を止めたその集団は、まず幌馬車から乗員が降りてくる。
……うん、やっぱり聖職者っぽい格好の奴らだよな。知ってた。
眺めていると、ワラワラと降りてくる親衛隊達と一緒にクランリーダーのロスティさんが出てきた。
そして儀式の準備をしている場所と俺達の待機所の位置を確認して指示を出し、親衛隊を配置につけてから、箱馬車の中へ声をかけて扉を開く。
最初に出てきたのはお付きっぽい女性の神官。
そして次に、聖女アリリアが降りてきた。
……うん、親衛隊の揃った野太い声の「お疲れ様でした!」に対して、一点の曇りもない笑顔で「ありがとうございました」と返せるのは間違いなくアイドルだ。
アイドル枠のヒロインだから、そういうのを好意的に受け止めるようなAIが当てられてるんだろう。フルダイブVRのゲームは割とこういうタイプのNPCがいる。
聖女は近くのお付きや親衛隊と何か話をして……そして親衛隊が俺達の方を指すと、こっちに向かって歩いて来た。
「初めまして、聖女アリリアと申します。『鎮魂の魔女』様、『死の導き手』様。この度は、私の個人的なわがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
挨拶と礼を言いながら深々と頭を下げる聖女。
俺と相棒も、「いえいえ」とか言いながら礼を返す。
「えっと……呼び出す大霊廟の敵がどのくらい強いか分からないので、太刀打ち出来ないくらい強かった場合は断念する場合がありますので、そこは御了承下さい」
「はい、もちろんです」
キーナの言葉に頷く聖女。
その顔は少し血の気が引いていて……前で組んだ手は微かに震えていた。
「……大丈夫ですか?」
「は、はい……」
思わず訊くと、聖女は胸に手を当てて大きく深呼吸をした。
「……すみません。もしかしたら、父や母の霊と会うかもしれないと思うと……緊張してしまって……」
すると、後ろで俺達のやり取りを聞いていた夾竹桃さんが口を開いた。
「身内が関わってるならさー、先に昔の詳しい話とか話しておいてもらった方がいいんじゃなーい? そしたらいざって時にパニック起こされたとしても、こっちも心構えができるってもんでしょー」
確かに、それはそうだ。
ダンジョンに突入してから過去話が始まるよりは、先に済ませてもらった方が助かる。中に入ってからだと余裕が無いかもしれないし。
聖女は夾竹桃さんの言葉を聞いて納得した顔をすると……ひとつ頷いてから、話し始めた。




