キ:牧羊犬と不死鳥と
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“サイドアタックしに行こうか”
なんとなく出遅れちゃって、どうしたもんかなって思ってた僕に相棒が筆談で返してきたのはそんな提案だった。
横殴りの横取りのことじゃない。
戦場で敵の動きを誘導するための横方向からのアタックの事。
つまり、大勢対大勢がぶつかり合うわけだけど、敵の方が多いから。
敵が横からぶわっと広がってこっちを包み込んじゃうと不利になる。
だから敵のサイドから広がらないように押し込みに行くってことだね。
いいね!
それなら花形は正面の人達だから、ほどよく目立たず援護ができそう!
そして正面の人達がやばそうに見えたらフッシーをぶちかませばいいのだ。
完璧じゃないか!
そうと決まれば。
僕と相棒はいそいそと大きな姿のネビュラに乗った。
相棒は弓を引くから前、僕が後ろに乗って相棒のお腹に手を回す。
あ、いいねこれ。
広い背中にくっつく感じ、体格差を感じてときめく。好き。
そんな感じで僕らは東南東方面へ向かって駆け出した。
皆は南門からまっすぐ……つまり南に向かって走って行ったからね。
蟻は南東方面から来るって話だから、その蟻を南側へぎゅぎゅっと押し込むようにしよう。
そう考えた僕らは大きく東回りに森を駆け抜けようとして……何故か蟻の真正面に躍り出そうになった。
待って待って待って???
慌てて僕らは来た道を駆け戻る。
「え、なんで?」
思わず声でちゃったけど、周りに誰もいないからいいや。
……そう、周りに誰もいないんだよ!?
「え、なんで???」
蟻の大群が完全フリーの状態でピリオに向かってる。
「え、やばくない? これやばくない??」
「やばいだろうなぁ……」
「……フッシーで焼き払えると思う?」
「さすがに無理だろ」
だよね、多すぎる。
「……蟻ってたぶん門とか関係ないよね? 普通に壁登って街に入るよね?」
「……入るだろうなぁ」
つまり兵士もスルーしちゃうってことだよ。
「……ヤバイよね」
「……ヤバイなぁ」
* * *
そして僕らが考えた結果がコレだった。
「「【フレイムクリエイト】」」
僕が前にもやった1センチ幅の極薄火壁を置いて、その壁の周りで相棒が爆竹みたいな小爆発を起こして蟻を脅かす。
それをネビュラに乗りながら続けて、牧羊犬よろしく蟻の進路を南の人がいる方向へ誘導する。
ネビュラも威嚇してくれてるからか、今のところ薄い火の壁を越えて飛び掛かってきたりはしない。
……しないけどさ。
「怖すぎる」
「ほんそれ」
でかい殺人蟻約25万匹と並走とか一体誰得のシチュエーションなのか。
おかしいなぁ? さっきまでのときめきはどこに行ったんだろう?
そして最大の問題は。
皆がこれに気付いてくれないと、ただのトレインからのPKになるって事。
でかい殺人蟻約25万匹をトレインしてのPKとか字面からしてヤバイ。オンラインゲームの伝説に残っちゃうよ。嫌だそんな伝説。
いざとなったら、森のモンスターの後まで蟻を誘導して、そこでヘイト引いて散ろう、って話はしている。
いっそ動画で見たような『死のスパイラル』とかできればいいのにね。蟻の行列がぐるぐる回って死ぬまでどこにも行けなくなるやつ。
フェロモン使ってるのかわかんないから、実験してダメだった場合が怖すぎて試すのも無理だよ。
そうやって誘導を続けて、そろそろ空に信号弾みたいな火でも打ち上げようかって時だった。
空から凄い速さで飛んできた小さい何かが僕らの周りをくるっと回る。
僕はうっかりしゃっくりみたいな音が喉から出ちゃった。どうか聞こえていませんように……
そのまま一緒に並んで飛び始めたのは、緑の髪の小さな妖精さん。
「初めまして。実況妖精ウグイスちゃん☆と申します。実況配信活動をしていますが今は一時的に配信を切っています」
名前のインパクトが強い。
そんなプリチーな名前してるのにめっちゃ真顔だよこの子。
「蟻の行列を誘導してピリオから遠ざけているとお見受けしました。状況を伝えるため、現場のライブ配信をしても構いませんか?」
願っても無い!
僕は全力でコクコク頷いた。
「ありがとうございます。その際、お二方のお名前は出してもよろしいですか?」
それは勘弁して!
僕は全力でブンブン首を振った。
「匿名希望、承知しました。ご協力ありがとうございます。──配信再開します」
妖精ちゃんは、スイッと少し高い所に飛び上がった。
「こちらウグイス。許可をいただけましたので配信を再開します。南東の蟻の群は、匿名希望の二名によりピリオを避けて主戦場へ向かうルートへ誘導されています。繰り返します……」
ややあって、妖精ちゃんは僕らに告げた。
「主戦場のβ筆頭より『まとめて受け止めてやるから突っ込んで来い!』とのお達しです。進行方向、先導します」
なんて頼もしいお言葉!
よろしくおねがいしまーす!
* * *
妖精ちゃんの先導に従って誘導しながら走り続けて、ようやく他のプレイヤーが見え始めた。
「こっちこっちー!」
「おおー狼かっけぇ!」
「マジでうっすいな火の壁!?」
「うっわ、蟻キメェエエエエエ!」
もうここまで来れば蟻も迷子になったりしない。
ネビュラは速度を上げて蟻の先頭に並ぶ。
待ち構えるの言葉通り、そこにはプレイヤーが大勢いた。
状況が伝わっていたのか、僕の火の壁を引き継ぐ形で別の人の火魔法が伸びる。
馬に乗ったドレス姿の女性が、スッとネビュラに並走した。
あ、この人、門前で皆に声かけてた人だ。
「それなりの実力者とお見受けしますわ。誘導は引き継ぎますので、どうか前線へ!」
そんな実力ありませんが???
……でも、前を見れば、待ち構えている皆はかなり満身創痍に見えた。
それになんか広場にやたらデカイ蛇がいるんですが!?
アレってボスでは!?
僕は頷いて、MPポーションを一気飲みした。
並走してるドレスの女性がそれを見てものすごくビックリした顔をする。……何で?
……あっ!? 僕仮面被ったままポーション飲んだね!? 視界がいいから完全に忘れてた!! メカクレ仕様やばいな! 脱がずにポーション飲めるんだね!?
……まぁいいや、驚いてる場合でもない。
握った杖を待ち構えてるプレイヤーの方へ向ける。
カランと揺れる魂籠。
使いどころなんて、今しかない!!
「……【サモンネクロマンス:フッシー】【フルリカバリー】」
小声で唱える魔法の名前。
僕のMP全部と引き換えに、杖の先に広がる魔法陣からフッシーが現れる。
「フーハッハッハー! やれい人の子よ!!」
上空に舞い上がるフッシーが光を放つ。
周りの人たちが光を浴びて全快する。
「うわっ」
「不死鳥だ!!」
「え、回復?」
「パレードの不死鳥!?」
「すげぇ、MPまで回復した!」
召喚はクールダウンがあるから、連発できないのは玉に瑕。
そうしたら、回復した人の内、黒い鎧の人が笑いながら吠えた。
「ハッハァ! 最っ高だぜモ○ゾー!!「アーッ! ピー音間に合った!?」蟻は任せたぜボルシチ! 俺はヘビだ!!」
ヒャッハー! と高笑いしながら槍斧ぶんまわして蛇に突進していく黒鎧。
入れ替わりに、たぶんボルシチって呼ばれた魔法職っぽい人が、大慌てで蟻の方にやって来た。
「まったくボスは人使いが荒い! ちょっと皆下がってくれる!? ──ここだっ! 【ボルケイノ】!!」
押し寄せる蟻の大群。
その足元で、地面が噴火した。
広範囲の蟻が吹き飛んで、その周りの蟻も真っ赤に溶けた土を浴びて、勢い付いてる後続は止まれないままそこに突っ込んで、みるみる数を減らしていく。
「出たあああああああ! 二属性混合の【ダブルクリエイト】!! 土と火で登録名は【ボルケイノ】!! クラン『グリードジャンキー』所属のボルシチがぶちかましたー!!」
すごい。
カラフルな妖精ちゃんが気になること全部説明してくれた。
これって、僕らも名前出しオッケーしてたらこうやって言われてたって事かな。怖。匿名にしててよかった!
「蟻はさっきより楽だな」
「一種類しかいませんし、密集してる上、火に弱いってわかってますからね」
マジで???
さっきまでどんな死闘してたの??
でも実際、楽そうだった。
誘導引き継いでくれた魔法使いも一緒になって、皆で蟻を焼き殺してる。入れ食い状態で経験値おいしそう。
それを見ながら追加のMPポーション飲んでると、飲み終わったところでヒョイと相棒に抱えられて大きな樹の上に運ばれた。
巨大蛇の戦場を見下ろせる位置。
あ、そうだね。
僕、俊敏が死んでるから下にいたら死ぬね。
ドレスの人にも言われたし、僕らは蟻じゃなくてこっちに参戦なんだもんね。
さすが相棒、よくわかってる。
相棒も隣で弓を構えて、ネビュラはとっくに蛇に向かって突進していた。
第二ラウンドはレイドバトルだ!




