ユ:闘技場会議、再び
ログインしました。
すると早速輝くシステム通知。
個人メッセージの差出人は、カステラソムリエさん。
「なんて?」
「……ちょうど顔つき合わせて話してるから、すぐ来いって」
「わぁお」
会場はいつもの闘技場。
変装して到着すると、部屋の中には前にも見た円卓が置かれていて、半分くらいは前と同じ面子が並んでいた。
カステラソムリエさん、『麗嬢騎士団』、『モロキュウ冒険団』、『グリードジャンキー』、そして検証勢達だ。
そしてもう半分の見知らぬ面々は……円卓の向こう側でボロ雑巾のようになって床に転がっていた。
(え、何……?)
(わからん……)
恐る恐る円卓に近付くと、知り合いはこっちに気付いて挨拶をしてくれるので、それに応えてから気になる事をキーナが訊いた。
「えっと……あっちで倒れてるのは何ですか?」
「アレは聖女親衛隊の成れの果てじゃ」
「クランリーダーの大神官ロスティさんがリアル都合で少々遅れているのですけれど……」
「先に来てた諦めの悪いガチ勢が『森夫婦の強さを確認しないと聖女様を預けられない!』って言いだしたもんだから」
「ガルガンチュアが『だったらお前らは森夫婦より強ぇえんだろうなぁ?』と返し、嬉々として腕試しをした結果がアレじゃ」
Oh……そしてお嬢様含む外野も『頭を冷やすべき』と判断して、特に止めなかった、と。
なるほど、よく見たら倒れて転がっているのは聖職者っぽい雰囲気の装備ばかりで、そいつらに背を向けてこっちに戻ってきてるのは黒い鎧のガルガンチュアさんだ。
……その人数、全部1人で片付けたのか、この人。
「どうじゃった、ガルガンチュア?」
「イマイチ」
バッサリ切って捨てられる厄介ファン達。
悲しいね。
仮面の下で苦笑いしていると、ガルガンチュアさんが俺達に気付いた。
「来たな森男! ちょっとこの武器に生えた卵について説明しろお前ぇ!」
あぁ、そういえばそんな事もあったな。
「……確証が無いんで、違ってた場合ぬか喜びになりますけど」
「その確証はどうしたら得られんだよ?」
「……うちのジャックですかね」
「連れてこよっか?」
ガルガンチュアさんと検証勢達が一斉に頷いたので、キーナはいそいそとジャックを呼びに走った。
* * *
「ワー! スゴーイ! ちゃんと魔武器の卵だよコレー!」
連れて来たジャックの診断により、ガルガンチュアさんの槍斧の卵は、無事に魔武器の前兆という事で確定した。
「武具の精が成長するとなる、って事でいいか?」
「ソウソウ」
「魔武器になると卵はどうなるんだ?」
「割れて宝石みたいになるヨ」
そんな興味津々なガルガンチュアと職人系、そして検証勢にジャックは取り囲まれて、講義のようになっている。
そして俺達は、そんなジャックを連れて来た礼にとスイーツだの飲み物だのを振る舞われて、サーカスの時のようにVIP待遇を受けていた。
「ここは未開の世界ですから、【死霊魔法】にはヒト型の霊がいないと聞いていましたけれど……あのように、武具に詳しい方もいらっしゃるのですね」
「ジャックは何の霊なんじゃ?」
「鍛冶の精のなりそこないらしいですよ。だから武具には詳しいみたいで。炉があったのは滅びた街の……あ、そっか。聖女さんが聖女になったのと同じ、ブリックブレッド」
キーナがブリックブレッドの名前を出すと、ここにいる数人が息を飲んだ。
……反応したのはβ勢なんだろうな。トラウマだって話だし。
「βのブリックブレッドにあった……炉の?」
「……そうか、たぶんアレか……」
部屋の一部にしんみりとした空気が流れる。
魔武器について話し続ける方は賑やかなままで。
そして叩きのめされた聖女厄介ファン達は、ようやく起き上がり隅の方でお通夜ムード。
……そこへ遅れてやってきた、大神官ロスティ。
「すいません、遅くなりま……なんですかこの空気?」
この人、タイミング悪いなぁ……
* * *
「よし、じゃあ大霊廟召喚の打合せ始めるぞー」
変装済みのカステラさんの一声で、ようやく本題が始まった。
各クランリーダーと検証勢の代表者(今回は論丼ブリッジさん)、そして俺達が円卓の椅子に座り、クランメンバーやその他やジャックがそれぞれの後ろに立つ。
そして、聖女親衛隊クランは、大神官ロスティ含めて全員一緒に床へ正座。
円卓の意味……
「まず召喚士。今回は3人」
「前回よりも少ないですわね」
「どこが出す?」
するとグランド爺さんがスッと手を上げる。
「うちは今回は辞退しておこう」
グランド爺さんは、この前モロキュウ村で親衛隊リーダーと俺達がかち合ったのを気にしているらしい。
別にそっちのせいじゃないんだけどな。
それに続いたのはガルガンチュアさんだ。
「人数足りてんならうちもいいわ。呼んだダンジョンは秘匿しねぇんだろ?」
しないな。
そこを肯定すれば、「だったらいい」と手をひらひら振り、厄介ファン達を親指で指す。
「こういううるせぇ奴ら相手の威圧はするからよ、見学と森夫婦の次にダンジョンチャレンジをさせてくれりゃあ『グリードジャンキー』は文句ねぇよ」
ボスの言葉にイイ笑顔で頷き同意する『グリードジャンキー』のメンバー達。
「森夫婦と組んで一番乗りしようとは思わんのか?」
「いや、それやったらこいつらの名前見えるんだろうが。俺、名前知ったら絶対どこかで呼んじまう自信あんだよ。それでこいつらが嫌がって完全に引き籠って情報出てこなくなるのは困る」
あぁ、ガルガンチュアさんは俺達の事を知らないようにしようとしてくれてたのか。『代わりに情報は出せ』って事なんだろうけど。
ガルガンチュアさんの言葉に深く頷いていたお嬢様は、表情に少し冷たさを乗せて、正座している厄介ファン達へ目線を向けた。
「お分かりになりまして? これがガルガンチュアと貴方方の違いですわ」
……うん、なんだかんだ『グリードジャンキー』の人達は、戦闘狂の自由人なりに、俺達に気は使ってくれてるんだよな。
厄介ファン達は、お嬢様に釘を刺されて少しばかり小さくなっていた。




