キ:聖女エピソードを予習しよう。
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ちょっと熱意が溢れ出てる聖女ちゃんファンクランのマスターさんと話を付けて、協力者……協力熱望者?を得た僕達は、その旨をカステラさんに伝えて引き続きメンバーやアイテムの話を進めてもらう事に。
そしてその間に、協力熱望者からβ時代の聖女ちゃんエピソードのまとめ動画を観ることをお勧めされた。
「wikiのまとめじゃダメなんです?」
「文章だけでは聖女ちゃんの魅力が伝わりきらない。五感の全てで聖女ちゃんを感じてもらいたい」
NPC相手でも視覚と聴覚以外は感じちゃダメだと思う。
……でも、表情とか声色とかがセットになった方がどんなキャラなのか捉えやすいのは確かだから、僕らはお勧め通りに動画を観る事にしたのだ。
と、いうわけで、今。
雄夜お手製の美味しい煮物をつつきながら、動画を検索して再生。
エフォのダンジョン召喚がムービーとして使われたCMが流れた後、動画本編がスタート。
ぺっぺけ♪ぺっぺ♪ と解説動画でよく使われるBGMが流れ出す。
そして画面の右下にウサボールのデフォルメイラストが現れた。
『こんにちは。今回はエフォのNPCトップ3の紅一点。我らが聖女アリリア様について、β時代の流れも含めて、詳しく見て行こうと思います』
ウサボールがモニモニと動きながら、定番の合成音声で喋りだす。
『まず、そもそもエフォのNPCトップ3とは。冒険者のプレイヤーが所属するククロスオーヴ王国において、『異世界の開拓』という一大事業を進めるにあたり指揮を執る存在です』
画面に騎士団長さん・魔術師団長さん・聖女さんの3人が並んだ画像が表示される。
『この3名は、βテスト中に行われたテスターによるNPC人気投票にて、得票数1位~3位だったキャラでもあります。聖女様が1位、騎士団長が2位、魔術師団長が3位でした』
へぇ~、そうだったんだ。
『騎士団長と魔術師団長についてはそっちのまとめ動画をみてね!』と文字が流れて、画面は聖女さんの画像だけが残る。
『では、聖女アリリア様のβ時代から見ていきましょう』
BGMが牧歌的な物に変わった。
聖女の恰好をしているアリリアさんの画像が消えて、代わりに出て来たのは住民NPCっぽい普通の服を着たアリリアさんの姿。
……うん、こっちの画像だと『アリリアさん』というよりは『アリリアちゃん』って感じ。
長い金髪をゆるく三つ編みにしてて、村娘感が強い繕い跡が目立つ服にエプロンをつけている。
表情も少しだけ幼い感じ。
『β開始直後のアリリア様は、教会の孤児院で年下の子供たちの面倒を見ている、頼れるお姉さんでした』
動画にβ時代のものっぽい切り抜きが、説明の合間合間に流れ始める。
洗濯ものを干したり、繕い物をしたりしているアリリアちゃん。
『β時代の孤児院お悩みクエストはアリリア様から話を聞く事が多かったので、やりとりをするプレイヤーは多く。自分の事は後回しで子供たちのために頑張る健気で可愛いアリリア様は、少しずつファンが増えていきました』
他の孤児の子が落ち込んでいるのを元気付けようとするアリリアちゃん。
子供たちと一緒に甘い物をいっぱい食べようと計画して、孤児院の庭にイチゴを植えようと奮闘するアリリアちゃん。
村の子が着ている可愛いケープを羨ましがる子のために、せっせと刺繍に励むアリリアちゃん。
全部全部、自分じゃない他の子のために頑張るアリリアちゃんの姿。
そんな様子が流れた後に……見覚えのある神父っぽい恰好の銀髪の人が、アリリアちゃんに問いかけた。
『アリリアさんは、何か希望は無いのですか?』
アリリアちゃんは苦笑いしながらそれに答える。
『無いわけじゃないですけど……私は恵まれてる方だから』
そう言って、革紐で首から下げている服の下の何かを握りしめる仕草をする。
『父さんと最後の約束……私はちゃんと言葉をもらったの。だから大丈夫。……でも、それすら出来なかった子達がいて、それは二度と叶わないから……だったら、ちょっとしたことで手に入る物くらい、お姉さんの私が頑張ってあげたいんです』
動画内のアリリアちゃんのセリフに、画面右下のウサボールがダバーッと泣いた。
うんうん、良い子だねぇ。
そして時は進み、βテスト後半。
動画は不穏なBGMに切り替わる。
『そして運命の日。公式からの通達付きで大規模チェーンクエストテストが行われ、それに失敗した結果、ブリックブレッドという街が壊滅します』
あ、噂に聞くβのブリックブレッドだ。うちのジャックが生前いた所だね。
これも画面に『詳しくはβブリックブレッド崩壊まとめ動画を見てね!』と文字が流れる。
『アリリア様はチェーンクエストの関係でブリックブレッド崩壊の現場にいました』
ええー!? そこにいたの!?
動画には当時の映像が映る。
モンスターに襲われる街。
劣勢の中で立ち向かう冒険者達。
必死に祈るアリリアちゃんの姿が、配信か何かの遠目にチラリと映っている様子。
クエストをやっていたプレイヤーは、録画とか配信とかしないタイプの人だったんだろうね。
──そして、壊滅していくブリックブレッドの中に、天から一筋の光が差した。
アリリアちゃんを中心に街へ広がる光。
傷が治り、持ち直す冒険者達。
……たぶん、不死鳥の『フルリカバリー』のすごいバージョンだ。
『こうして、アリリア様は聖女となりました』
解説によれば、人気投票上位になったから聖女を担当する事になったのではないか、って考察する人もいるらしい。
BGMも穏やかな物に戻ったその後は、正式サービス開始後のお披露目パレードへと続く流れ。
こっちの世界の『生誕』の神は、異世界からやってきた三神に倣って聖女を選んでみたものの、初めてのことだから勝手がわからなくて。
もちろん聖女になったアリリアちゃんだって、身寄りのない孤児なんて立場で聖人・聖女についてなんてわかるわけもなく。
なのでβ時代に騎士団長をやっていたお爺ちゃん聖人が本国での勉強と修行を提案。
神様・王国・アリリアちゃんはそれを呑み一時帰国。
そして正式サービス後の、僕らがフッシーの言葉を伝えるために乗り込んだあのお披露目パレードでは、帰還して立派な聖女になったアリリアさんの姿があったってわけだね。
『聖女となり、開拓地の教会関係トップとなったアリリア様ですが。その健気で優しい心根は変わっていません。まだまだ付け焼刃感が残っているので、孤児院や教会で困った事があると、プレイヤーと一緒に悩みながら解決策を模索しつつクエストを出してくれます』
そんな聖女さんの目下の悩みは『神様が姿を見せてくれない事』
『姿を見せてもらえるよう、みんなのために立派な聖女になろうと奮闘するアリリア様! そんな健気な彼女を応援しない理由がありましょうか!? いやない! プレイヤー皆で聖女をお助けし、彼女を幸せにするべく頑張りましょう!』
最後は、そんなウサボールの暑苦しい主張と拍手喝采のSEで動画は終わった。
「うん、大体こういう感じかなーって思ってた通りの流れだった」
「だな」
奇をてらわない王道ヒロイン感。
こういう『ええ子や……』ってなるキャラが聖女役やってると安心できるよね。
フルダイブVRMMOはNPCと直接会話するから尚更。ファンも安心してファンやれるってもんよ。
「……ファンは『俺が育てた』って気持ちも強いんじゃないか? 人気投票もあったし」
「あー、確かに」
それはありそう。
投票の結果で聖女になった可能性が示唆されてるなら、余計そう思うかもね。
「……その結果、ファンクラブはすごい過保護になってる気がする」
「それな」
秋イベントの始まりとか、当然のようにプレイヤーが護衛やってたもんね。
熱意がすごいわ。
 




