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キ:『魂呼びの魔女』


 相棒が消えたああああああああああ!?


 パレードの最中、白い霧で視界が悪くなったと思ったら握ってたはずの相棒の手が消えて、振り返っても相棒がいなくて、僕は軽いパニックに陥っていた。


 なんで?

 なんで?


 相棒どこ行っちゃったの!?


 声で呼んでも応えない。

 念話に返事もない。


 VR機器の不具合?

 それともリアルで何かあった!?


 え、どうしよう?

 ログアウトして相棒の無事を確かめた方がいいのかな!?


 システムウィンドウを開く。

 焦ってるからフレンドとかクランメンバーとかのログイン表示を確認するっていう方法に思い至る事も無く、ログアウトボタンに手を伸ばしかけた所で……



 視界を横切った霊蝶ちゃんの姿にハッと正気に返った。



 白いモヤモヤの中を、鮮やかな虹色のきらめきがひらひらと飛んでいる。

 そしてその間に、半透明の色んな生き物がふわふわした感じに漂っていた。



 ……オバケだ。


 そっか、ハロウィンだもんね。

 これ、こういうイベントだ。



 ここでようやくシステムで相棒のログイン状態を確認する事に思い至った僕は、相棒が強制ログアウトしたわけじゃない事を確認して一安心。

 まぁ家族設定してるから、何かあって強制ログアウトしたら僕に通知が来るんだけどさ。機器の不具合の通知漏れとかあったら怖いからねぇ。



 オバケのビジュアルも怖くないし、こっちをガン見してくるような事も無い。

 ギリギリ落ち着きを取り戻した僕は、白い空間を誰かが近付いてくるのに気が付いた。


 黒いドレスに、黒い三角帽子。

 豪華な刺繍が施されたそれは、すごく見覚えのある物で……


 そして着用者は、透明人間だった。



 ……これ、僕が魔女集会でしてた恰好だよね?



「こんにちは」

「……えっと、こんにちは?」


 僕とは違う声が、いつかの僕と同じ姿から聞こえてくる。

 ドッペルゲンガーとは違うっぽいかな?


 疑問の答えは謎の当人が答えてくれた。


「私は『魂呼びの魔女』。この時期に死霊を一時だけ望む者の下へ帰しているモノ。この姿は、貴女の中にあった魔女のイメージを借りているわ」

「ああ、なるほど」


 見る人によって姿が変わるタイプの存在だ。よくあるやつ。

 そしてこの説明。エフォ(EFO)のハロウィン設定に出てくる、故人の霊をカボチャ頭の使い魔に案内させて連れて来てくれる魔女さんなのかな。


 魔女さんは僕をしげしげと眺めて、柔らかく嬉しそうな声色で言う。


「貴女は、死霊を扱う術を心得ているのね。そして良い関係を築いているようだわ」


 そして「うん」とひとつ頷いた。


「今日は望む死者に会える日。望むなら、貴女が希望する貴女と気の合いそうな死霊を呼んであげましょう」


 ほほーう。

 つまりハロウィンパレードは、【死霊魔法】の使い手にとっては希望のオバケちゃんをゲットするチャンスって事かー!


 そういうことなら!

 と、僕は希望を考えて……何も思いつかなくて首をひねった。



 あのね? 今いる僕のオバケちゃん達って……僕にとってはめっちゃバランスがいいんだよね。


 箒の飛行と切り札的回復ができる、飛行タイプのフッシー。

【草魔法】と【木魔法】の強化と、拠点防御に強いコダマ爺ちゃん。

【水魔法】と【氷魔法】の強化と、対水中戦特化のバン。

 かゆい所に手が届きまくる万能ツールのネモ。

 召喚だけだけど、デバフ要員の霊蝶ちゃん達もいる。


 そして体を持ってるオバケ達は、ジャックとデューとマリーの三人でこれまたバランスがとれているのだ。


 強いて言うなら……僕は上位の属性魔法の内【雷魔法】だけ習得していないけど、弓の関係で【風魔法】を使いまくった相棒が習得したからね。

 相棒と二人で遊んでいる限り、属性的な理由で詰む事はまず無い。


 その他諸々も、オバケだったりオバケ以外の仲間だったりで割と充実している。


 つまり、現状、何も困っていないのである!



 ……えー、でもせっかく季節限定イベントの魔女さんに会えたのに、何も無しで終わるのはもったいないなぁ。

 ただ……ここで『面白い物』を要求するのはちょっと違う気がする。

 たぶんこの魔女さん、オバケ関係以外のモノは出てこないんじゃないかな?



 そんな感じで考えに考えて……僕は発想を転換する事にした。



「……逆に、会いに行って欲しいオバケとかいませんか?」

「えっ?」

「この世界って、死んでも割とすぐに生まれ変わる世界なんですよ。そんな世界だから、手向けの花に『早く帰ってきてね』の意味があって……」


 この魔女さんは、本国の方の伝説の人。

 って事は、こっちの世界の死後のルールを知らないかもしれないと思って、僕は【草魔法】で火色の花を咲かせて見せて説明をする。


「この花を届けて、死の海に送り出す事に関しては実績があるんで。誰か、花を届けて欲しいオバケとか、いませんか?」


 こういう魔女さんみたいな存在ってさ、役目に縛られて自由に動けなかったりとか定番じゃん?

 だから、もし気になってるオバケがいるなら、僕が代わりに行くよ。

『鎮魂の魔女』なんて称号も貰ってることだしね。



 僕の言葉を聞いた魔女さんは……だいぶ思いがけない事だったのか、ちょっとの間固まっていた。

 そして、僕が差し出した花をそっと手に取り……何かをじっと考えるように俯いている。

 透明人間だから、その表情はわからない。



 そうした長考の末に、魔女さんは意を決したような雰囲気で顔を上げた。


「……ちょっと手間と人手が必要になるけれど、良いかしら?」

「どうぞどうぞ」


 魔女さんは、おもむろに羊皮紙を一枚取り出すと、大きな黒い羽ペンでサラサラとそこに長文を書き込んだ。

 書き終えると、羊皮紙をくるりと丸めて、黒いリボンを巻いて結ぶ。

 そして錆びついた小さな鍵と一緒に、羊皮紙を僕に差し出した。


「貴女達が『本国』と呼ぶ方の世界に、悪しき心の死霊使いが暴虐を働いた事により堕ちてしまった霊廟があるの」


 アッ、察した!

 それRPGによくあるアンデッドまみれのダンジョンになってるやつー!


「その死霊使いは討伐されたのだけど、死後にレイスとなって霊廟の最奥に居座ってしまい、罪のない哀れな魂を大勢支配下に置いているわ」


 はい、王道ですねわかります。

 殴るのに心がまったく痛まないタイプのボスだ!


「その契約書には、その霊廟をこちらの世界へ呼び寄せる方法を記したわ。世界を、魂に対する理を変えてしまえば……その花で、囚われた魂を解き放てるかもしれない」


 解き放つことさえできれば、魔女さんが元の世界の縁者の所へ連れて行ってくれるらしい。


「……お願いできるかしら?」



 ──クエスト『大霊廟へ鎮魂の花を』を受諾しますか?

 ──注意:このクエストはソロプレイでのクリアが不可能です。

 ──必須条件:【召喚魔法】スキルレベル30以上のプレイヤー3名



「任せてください」


 僕はダンジョン召喚の情報提供者としても実績がありますよ。

 その実績があるから発生したクエストのような予感がひしひしとする。


 呼び出すダンジョンは間違いなくホラーだろうけどね! 仕方ないね!



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― 新着の感想 ―
森夫婦がまた引き寄せてきたな…運がパネェ
検証勢は喜んでそう マスターAIくんは楽しそう 運営は泣いてそう
ひょっとして、死霊魔術の人型アンデッド解放イベントになります?
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