キ:一方内側の話と、御褒美。
小人さんが使うサイズの角笛って何の角なんだろう?
そんな事を考えながら、僕は開戦の合図を聞く。
おおー、モグラが釣り出されてきた。
ドタバタポカポカと小さな種族達が戦う姿は、シミュレーションRPGの神視点みたい。楽しい。
僕は防壁の内側担当だからモグラ以外の敵が来る心配も無いし、のんびり観戦できるかな。
……なんて考えたのがフラグだったのかもしれない。
──ボコン
「ん?」
囲った戦場を眺める僕の右斜め後ろ、すなわち囲った戦場の外から聞こえた音に振り向くと。
……そこには、防壁の下から新しい穴を開けて畑に出てきた食いしん坊モグラの姿が!!
「わー!? 外に出てるー!?」
僕の声にフェアリーさん達の1部が飛び上がって僕の視線の先を確認。
「うわ、本当に横穴開けられた!」
「マズいであります! 作物が!」
ヤバいヤバい!
外壁の外よりも中に出てくるモグラの方が多いみたいで、横穴からゾロゾロと大量のモグラが溢れ出てきた!
食いしん坊モグラは名前の通りに食いしん坊っぽくて、大喜びで畑の作物に突進して行く!
待ってー! 作物達逃げてー!!
「【リーフクリエイト】ー!!」
逃げてー! って念じながら放った【草魔法】。
ゴリッと減るMP。
畑全体の作物が一瞬ほんのりと緑色に輝いた。
そしてモグラが突進していく先。
溢れ出る食欲に狙いを定められ、今まさに犠牲者とならんとしているカブが……
──ザザザザザッと植わったまま自分で動いて逃げた。
「逃げたぁー!?」
「キ、キーナさん! 何をしたのでありますか!?」
「え、【草魔法】?」
脳内のイメージは、作物が自分でズザザザッて逃げるイメージ。
……いえ、あの、言い訳をさせてください。
駄目元でした。
そんなん出来るわけない気持ちが半分。
でもそうやって逃げて欲しい気持ちが半分。
だって自分でイメージしておいてなんだけど、根っこどうなってるの??
どこをどう使って移動してるの??
まぁゲームだからって言っちゃえばそれまでなんだけどね!?
てか、作物が逃げる度に僕のMPがゴリゴリ消費されるよ。
僕の考える魔法っていっつもこう!
「作物が逃げてくれるなら、畑で広々戦えばよくない?」
「ハッ、確かにそうであります! キーナさん、囲いの解除を!」
「ウィッス」
【木魔法】で組んでいた囲いを解除。
畑の状況を認識した小さな軍勢は、従魔に乗っている人達を中心に畑へと突進していく。
すごい勢いで逃げる作物。
諦めずに追いかけるモグラ。
それをさらに追う小さな戦士達。
そして、それらを目撃して目を丸くしている、農作業中だった一般サイズの人々。
「えー!? 野菜が逃げ……ええーっ!?」
「あっはっはっはっはっは!!」
「そこのエルフ! 何したんですかぁー!?」
「えっ!? く、【草魔法】ですー!」
「【草魔法】こんなことなるの???」
「これだからエルフはー!!」
エルフへの熱い風評被害!
いいじゃんよ作物は無事……無事?なんだからー!
ほら、今も豆の蔓が自分の支柱を担いでモグラから逃げてるじゃん!
あまりにもシュール!
「逃げる野菜、動画上げてもいいですかー?」
「お好きにどうぞー!」
あ、MPがヤバイ。
ポーションポーション……
MPポーションをぐびぐび飲みながら見る畑は、完全に小さな乱戦場になっていた。
防具に身を包んだ小人とネズミが「ウオーッ!」っとそこら中を駆け回ってモグラに突撃し。
フェアリーが飛び回ってモグラに魔法を浴びせかけ。
モグラは食欲まかせで作物を追いまわしたり、襲ってくる相手に応戦したりして。
その間を色んな作物がズザザザザーッと逃げ回る。
……カオスだなぁ~。
滅多に見られなさそうな面白い状態になってしまった戦場を。
僕は『もうどうにでもなーあれ!』って開き直って防壁近くにある手頃な切り株に座り。
MPポーションを飲みながら、のんびりと眺める事にした。
* * *
「……で、終わったから作物植えなおしてるの?」
「そう」
モグラ大戦は無事終結。
防壁外側の戦いが終わって穴を埋め終わった小さい人達と一緒に戻ってきた相棒は苦笑いしながら、【土魔法】持ちのプレイヤー達と一緒に畑の畝の直しを手伝ってくれた。
綺麗なふかふか状態に整えなおした土に、逃げ回っていた作物を誘導してピシッと整列させ、落ち着いたら魔法を解除する。
「よーし、元通り!」
「お疲れさん」
仕上げに【水魔法】で柔らかい雨を降らせて水を撒く。
散々走り回った根っこが、伸びてしっかり根付きますように。
作業を終えたら、農場の納屋のあたりで早速打ち上げを始めた小さい人達の所で『お疲れ様でした』の挨拶。
無事にNPCネズミ族の被害はゼロで終わったから、それぞれが料理を持ち寄ってどんちゃん騒ぎをしている所。
作業終わりましたよー、参加させてくれてありがとうございましたー、お疲れ様でしたー。って感じで、お先に失礼する旨を伝える。
「こちらこそ、ありがとうございましたであります!」
「おかげですっごく戦いやすかったよー」
そして相棒と共闘したっていうクラン『インサイドクラッシャー』のマスターさんが、小さな丸薬が6粒入った小瓶を、お礼にって渡してくれた。
【ミニミニ丸薬】…品質★★★
1粒飲むと、体が小人の大きさになる丸薬。
一定時間経過すると元に戻る。
「え、こんなのあるんだ!?」
「へへっ、お二人には世話になったから特別に御提供だ!」
「材料的に大量生産できないから、あんまり有名にならないようにしてるんですー」
「1粒でゲーム内の1日くらい小さくなれるよ。小人とかフェアリーしか入れない場所に行きたい時に使ってね」
おおおー! 良い物貰ったー!
人魚の独壇場な水中へ行ける水中呼吸薬みたいに、小さい種族しか入れないエリアに行くためのアイテムもあるんだねぇ。
その内、小さくないといけない所にデートする時に使わせてもらおう!
お礼を言って、小さい皆とはバイバイ。
「楽しかったー!」
「うん、あれはあれで面白そうだ」
しばらくは、ピリオノートを歩く時に小さい種族向けの通路とか探しちゃいそう。
すっかり見慣れた場所に楽しみが増えた、小さい種族とのコミュニケーションでした。




