キ:異種族コミュニケーション
相棒が見つけてくれた居心地の良い木陰に敷物を敷き、ネズミさんご夫婦を招いてみんなで座り、キャッスルキノコを眺めながらのピクニックと洒落込んだ。
良いですねぇ~、ファンタジーですねぇ~。
『チューベルト家』の当主と奥様だと名乗ってくれたネズミさんは、ネズミの中ではそこそこ良い所のお家らしい。
よくみたら、旦那さんはシルクハット被ってるし、奥さんはリボンがついてた。カワイイ。
自分用に多めに買ってあったクレープとミルクを出して、のんびりと摘まんでもらう。
甘い物が大丈夫かどうかはちゃんと確認した。
エフォは食べ物のタブーみたいなのがほとんど無いから嬉しいね。
「いやはや、こんな良い物をいただけるとは。巣穴から出かけてきた甲斐がありました。なぁおまえ?」
「えぇあなた」
カワイイ。
クレープちぎってもひもひしている姿を見せてもらえるだけで、僕は大満足です。
僕らがネズミ族初見な事を知ったチューベルトさんは、ピリオノートのネズミ事情を教えてくれた。
そもそも彼らの御先祖様は、昔々、ククロスオーヴ王国の何代目かの王様が従魔にしていたワイズラットが始まりで。
子孫は疫病の元となるドブネズミや虫を駆除したり、人の手の届かない狭い場所の掃除などをする役目を賜り。それと引き換えに保護を受け。そうして今日までワイズラット族として繁栄しているらしい。
「開拓好きの王族に仕えた開祖より続く我らですから、異世界の開拓などそれはもう! それはもう!」
「えぇ、我らが役目を果たさずしてなんとすると、王家の許しを得まして。希望者が共に開拓地へやってきた次第でございます」
(この王国、ネズミも開拓馬鹿なんだね)
(主ナイズかな)
ピリオって結構猫多いけど大丈夫なのかな? って思ったけど……街の猫ちゃんとは協力関係なんだって。逞しい。
「王国の偉い人もワイズラット族の事は知ってるんですね?」
「むしろ貴族の方々の方が我らとのやりとりは多いですよ。地下に住む者がほとんどですが、お屋敷の屋根裏や納屋等に間借りする事も多いですからね」
へぇ~。
でも疫病の予防って意味なら、確かにそういうのを気にするのは偉い人の方かも。
他にも、地上でタンポポや木の実を集めたり、地下の畑でキノコを育てたり、糸や肉や殻を取るために蜘蛛を飼っていたりと面白い話を聞いた。
「近頃は、小人やフェアリーの方々が色々手伝ってくださいまして。とても助かっておるのです」
あー、ドールハウス屋さんでネズミ連れのお客さんが多かったのはそういうことかぁ。
……そんな感じで異種族コミュニケーションを楽しんでいると、ヒュンと空からフェアリーさんが飛んできた。
「あ、やっぱりチューベルトさんでした。お久しぶりであります!」
黒に赤のメッシュが入った髪の女性フェアリーさん。黒い上着の燕尾裾がカワイイねぇ。
フェアリーさんはチューベルトご夫婦と挨拶を交わすと、こっちに向き直ってペコリと頭を下げた。
「ご歓談の所に割り込んでしまいスミマセンであります。自分は『実況妖精スワローちゃん☆』であります。どうぞよろしくなのであります」
「あ、実況妖精ちゃんだったんですか。キーナです、よろしく」
「……ユーレイです」
「おお! ユーレイさんはもしや、ラリーストライク大会ベスト8の?」
「……まぁ、はい」
「おおおお! こんな所でお会い出来るとは、感無量であります! ……あ、自分、今は配信等はしていませんので安心してほしいであります」
実況妖精ちゃんのチャンネルは、日替わりで配信担当が変わって、今日はスワローちゃんの担当ではないらしい。
「今日はパロット先輩の担当日なのであります。確か、ワイズラット族の集落の案内配信をしているはずであります」
「おー、タイムリー」
「初心者向けなのであります。小さい種族プレイヤーにとって、ワイズラット関係は大事な稼ぎ場なのであります」
確かに、冒険者ギルドなんかも普通サイズ向けのクエストが多いかも。
もちろん小種族でも気にしないヒトは気にしないし、大型の従魔とかヒューマンサイズの人形とかを使っている小種族は普通に冒険者ギルドに行くらしいけどね。
それでもネズミちゃん達の方が関わりやすい小種族のプレイヤーは多いみたい。
「小さい種族にしか行けないネズミ穴の先で宝石の鉱脈なども見つかっているので、遠くへ行きにくい代わりに周辺を深く広げて遊ぶのが小種族なのであります」
「へぇ〜」
それはそれで面白そうだねぇ。
せっかくだから通りすがりのスワローちゃんもピクニックにお誘いしてみた。
喜んで参加してくれたスワローちゃん。
モヒモヒとクレープを食べていると……今度はスワローちゃんの知り合いの小人さんがやってきた。
そうしたら今度は小人さんの知り合いのネズミさんが……
そのネズミさんの知り合いのフェアリーさんが……
フェアリーさんの知り合いのフェアリーさんが……
ネズミさん、小人さん、フェアリーさん、猫ちゃんと集まって……気付けばピクニックの真横で小さな子達の突発集会が開始されていた。
「では! 北の農場で行われる『モグラ掃討クエスト』の作戦会議を行います!」
「「「「「「ウォー!」」」」」」
(面白いから見てていい?)
(好きにしなー)




