ユ:シェイプシフターとの戦い
何やら【変身看破の手鏡】で森夫婦が正体バレするのでは?と心配する方が多かったですが。
『姿を変える術を使っている対象』に有効な物なので、装備品が脱げて見えたりはしないので大丈夫です。
ただ夫婦が使っている透明化は映ってしまうので、透明魔女姿の時も仮面等できちんと顔を隠しておかないと危ないです。
そして『真の姿を映しだす』ので、変身しているモンスターに向けても素の姿が鏡に映るだけで、変身を解いたりする効果はありません。
全身黒一色のヒトガタの額に、ギョロリと真っ赤な第三の目が開く。
その目が怪しく光るのと同時に、ヒトガタの輪郭が揺らぎ、形状の変化が始まった。
「シェイプシフター再変身!!」
「コピー先は……魔法職! 範囲魔法来るぞ!」
ローブ姿の魔法職プレイヤーをコピーしたシェイプシフター。
その黒い姿を中心に爆風が巻き起こり、周囲を薙ぎ払う。
咄嗟に盾持ちや【石魔法】持ちが出した壁に隠れてやり過ごすが、周りの鏡に反射して戻ってきた分に耐えられなかった面々が吹き飛んだ。
……キツい!
動きが早い、威力も高い。
最初は化ける相手に合わせてステータスが変動しているのかと思ったが、サーカス団と検証勢が言うには、おそらく化けた相手のステータスがシェイプシフターのステータスに加算されているらしい。
ようは、俺がネビュラと同化する時のようになっているわけだ。
そうじゃないと、筋力極振りのギョッピーに化けた時は、もっと紙装甲かつ遅くなっていたはずだからだ。
つまりは、シンプルにステータスが高くてキツい。
「高レベル勢は絶対にコピーされるな! 死ぬ気で視界から逃げろ!」
「特にレッド!!」
シェイプシフターは一定の間隔で再変身を繰り返す。
一度変身して余裕がある内に、高レベル勢が前に出る。
検証勢が懐中時計で再変身までの時間をカウント。時間が近付いたらステが低めの検証勢の数人が死に戻り覚悟で入れ替わり前に出る。
そういう作戦でなんとか最悪の事態を防いで削っていた。
「あと森男さんも絶対にコピーされないでくださいね!!」
「え、俺?」
「森夫婦は何持ってるかわっかんないから! 対応仕切れない可能性が高いの!!」
そんなおかしな構成はしてな……いや、してるか?
【ワイルド・ファクター】は今のところ動物と会話できるだけだからともかく。素で100超えの俊敏に加えて【弓術】【装填】【急所攻撃】の3セットは確かに高性能AIに渡すのはマズいかもしれない。
あと使い手が少ないらしい【闇魔法】も、持たせたらダークスライムみたいな事になるか?
……まさかネビュラとの同化みたいな事も出来るんだろうか。その場合ステータスの加算がさらにマズい事になる。
無いとは思うが、万が一インベントリの中身までコピーできるなら、『死の海の水』だのヤバい毒薬だのも出てくる……
……俺はそっと光学迷彩マフラーのスイッチを入れた。
「消えたぁー!?」
「え、離脱した!?」
「いや、矢が飛んでるからいるいる。光学迷彩狂の職人いるからそこのっしょ」
「その手があったか。俺も買っておこうかな」
さすが検証勢。知ってるんだな。
とりあえず変身対象の選定を視覚に依存しているならこれで大丈夫なはずだ。
安心して【闇魔法】の範囲ダメージを敷きながら矢を撃ち込み続ける。
最前線で貼り付いているのは戦隊レッドとスペードの道化師。
巨大な肉叩きみたいな武器を驚異の速度で振り回して殴り続けるレッド。
その間を縫うようにピエロがナイフで細かく切り刻み、レッドへ向けられた攻撃へ妨害を入れる。
そのペースがずっと続けられるなら楽なんだけどな。
「はい時間! チェンジしてー!」
これだ。
再変身への対策で、必ず近接高レベル勢が離れないといけない。
その入れ替えをスムーズにするために、余力を残していた魔法使いがこのタイミングで盾持ちの後ろから攻撃魔法を撃ちまくる。
本来敵の攻撃を受け止める役目の盾役は、コピーされてシェイプシフターの防御力が跳ね上がるのを避ける為にヘイトを引くスキルを使っていない。完全に壁だ。
「おっし、シェイプシフター! 次はこの俺をコピーしてもらおうかぁ!!」
盛大に名乗りを上げて飛び出したのは……全裸(システム的にインナー姿)の検証勢だった。
「勇者だ! 勇者がいるぞ!」
「変態だぁー!?」
「おっ前、職人系の検証勢だろうが! レベルいくつよ!?」
「コピーされる前に死ぬなよぉおおお!?」
「草」
しかし、タイミングは完璧だった。
開く第三の目。
全裸を凝視するシェイプシフター。
黒いヒトガタの輪郭が揺らいで、全裸(システム的にインナー姿)の二人目が誕生する。
「シェイプシフター=サンも変態なんて凝視したくなかっただろうに!」
「あげく自らもその変態にならねばならんのか」
「かわいそすぎる」
やめろ、笑って狙いがぶれそうになる。
勇気ある全裸は、インナー姿に変身完了したシェイプシフターの攻撃により、ワンパンで死に戻った。
尊い犠牲だったな。
そのワンパンもいい囮だ。ありがたく矢を連射する。
と、変態を仕留めたシェイプシフターが……
──ぐるりと俺の方を向き、突進してきた。
「うおっ!?」
弓で両手が塞がっているから、咄嗟に足が出た。
蹴りがシェイプシフターの鳩尾にクリーンヒット。
……あーそうか。
近接と魔法職が交互に攻撃してたから。
常に撃ち続けてた俺がダメージレースのトップに来てタゲを取ってたのか。
そしてシェイプシフターも、視覚に頼るタイプなのに俺が透明だから、矢の出所に突進してみたものの動きが見えなくて対応しきれなかったんだろう。
時々通っていた魔術師団長の訓練で動きを叩きこまれていた体が、怯んだ敵への回し蹴りをほぼ無意識に流れとして繰り出した。
吹っ飛ぶインナー姿のシェイプシフター。
……コピー元、ガチの職人系だったな?
この手応え、たぶん今のシェイプシフターに加算ステータスほとんどないぞ。
だからそこまで唖然とするな、周囲の検証勢。
「え、強……見えなかったけど」
「森男って近接もいけるんだ」
「マジでコピーさせたらヤバかったじゃん。この人の構成どうなってんの」
いや、そこまで突き抜けておかしな構成はしていない。
好みを追求したら、何故かマイナー路線になるだけだ。
……そう考えて、俺は確信する。
何を持っているかわからなくて、手に負えなくなる可能性が高く、絶対にコピーさせてはいけないのは……間違いなくキーナの方だ。
……吹っ飛んで倒れたシェイプシフターは、待ち構えていたレッドに餅つきのようにボッコボコにされていた。
ピエロも餅つきの合いの手入れるみたいな動きで斬るんじゃない。
戦闘を投げ捨てている職人をコピーした事でステータス加算と有効な戦闘スキルの無い状態にさせられたシェイプシフターは、その後程なくして倒され消えていった。




