ユ:楽しいショーと、舞台裏
リアクションが10万件超えてました。
さらに評価ポイントの合計が2万を超えてました。
ありがとうございます、とてもうれしいです。
閲覧、ブクマ、評価、感想、いいね、等とても励みになっております。
案内されたのは、一般席より少し高い位置にあるボックス席のような所だった。
席に座り、霊蝶を呼び出してひと息つく。
依頼人の蝶ネクタイ紳士が飲み物を持ってきて、「今日はよろしくお願いします」と挨拶をして去っていった。
大テントの中は、所々に置かれた光る結晶のような物が篝火の台のような物に入れられて、中を照らしている。
眼下の一般席には続々とお客が入ってきていた。
パッと見でプレイヤーとNPCの区別がつかないゲームだが、明らかに住民っぽい服装の小さな子供連れ家族はさすがにNPCなんじゃないだろうか。
満席になると、明かりへ順に布がかけられて、テントの中が薄暗くなる。
子供達の期待に満ちたざわめきがテントに満ちた頃。
スポットライトが当たったステージ中央に、スペードの道化師が立っていた。
「レディース! アーンド! ジェントルメーン! ようこそ『ハニカムサーカス団』へおいでくださいました!」
大仰な礼をひとつした後は、ヒョイヒョイと取り出したボールをジャグリングしながら、笑いをとりつつ注意事項を述べていく。
アドリブを交えて観客を盛り上げるトークは、とても慣れている感じがした。
「それでは! めくるめく夢の時間を! お楽しみ下さいませ!!」
パーン! と響く破裂音。
同時にステージへ、文字通り飛び出してくるサーカスのメンバー達。
ワッと湧き立つ観客の歓声に応えるように、賑やかなショーが始まった。
……ゲームの中でサーカスと言っても、魔法がある世界観だとどうなるのかと思っていたが。中々どうして素直にすごいと思えるステージだった。
筋力ステに物を言わせて片手で人だの巨大なセットだのを持ち上げ。【跳躍】スキルをどれだけ鍛えたんだと聞いてみたくなるようなハイジャンプ。
綱渡りなんかのバランス感覚はスキルに無いから、完全に自前のもののはず。
そしてたぶん全員がダンサースキル持ちなんじゃないか。【ボディランゲージ】でエフェクト用に登録した魔法を発動させている節がある。エフォ内のアイドルライブでもバックダンサーがそういう手法を使っているらしいとスレで見た。
他にも【水魔法】で宙を舞う水に、薬品で次々と色を着けて色を次々と変化させたり。
召喚でクラゲのような生物を呼び出して会場を飛び回らせたりと、賑やかしには事欠かない。
やろうと思えば色々と出来るもんだな。
団長の女性が従魔にコミカルな動きをさせて会場を沸かせて、ピエロが忙しそうにステージの上やら下やらを走り回る。
会場は笑いの渦だ。
「アハハハハハハ! ピエロさんの動き! おっかしぃの!」
「フ……フフッ! ……ハハッ!」
普通に面白いのと素直にスゴイのとで畳み掛けてくるのはズルいだろ。
* * *
『面白い』
『面白かった』
『サーカス』
『いいね』
『契約』
『契約しよう』
『一緒に、遊ぶ』
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
おめでとうございます。
サーカスは見事に霊蝶の心を射止めて、蝶ネクタイ紳士は無事に召喚契約を結ぶ事が出来た。
……霊蝶もショーの最中、テーブルの上に転がって痙攣するほど笑ってたからな。
「霊蝶ちゃんが組み込まれたステージも楽しみにしてますね」
「頑張ります。ぜひまた観にいらして下さい」
早速自分で霊蝶を呼び出して相談を始めた蝶ネクタイ紳士を残し、俺達はピエロに案内されて舞台裏の見学へ。
「いやぁ~、おかげでうちのお蝶紳士のレパートリーが増えてありがたいったら! どうです!? この流れでサーカスのメンバーもレパートリー増やしちゃったり……ウソウソウソ!! 消えないで! ピエロが悪かったから消えないで下さぁい!!」
懲りないピエロの前で時々透明になりながら、サーカスの裏側を色々と見せて貰った。
サーカスの演出に使う魔道具の改良をしている『カールトン』や、バレリーナのような衣装のまま動きの反省をしていた『マルメロダンシング』に笑顔で手を振られたり。
「森女さんにひとつお願いが……普段森女さんが占いで使ってるインクで、適当な紙に『草』って一文字書いて売ってくれませんか?」
「? ……はいどうぞ」
「ありがとうございます!」
「ギョッピー? 何お願いしてんの??」
途中よくわからない要求を受けたりしながら見学を続けていると、物置と休憩所を兼ねているような所にたどり着く。
雑多に物が積み上げられた空きスペースに、丸テーブルと椅子が置かれた場所。
……すると、前を歩いていたキーナがビクッと何かに驚いて俺の服の袖を掴んできた。
「どうした?」
「……なんか、あの鏡に映った気が……した?」
鏡?
……ああ、あれか。
積み上がった箱の前、テーブルに向けるようにして姿見がひとつ置いてある。
刺々しい植物とガーゴイルのようなモチーフの縁飾り。
どこか禍々しい雰囲気の装飾が気になってジッと観察していると……
──鏡の中に、こっちにいないモノが突然映った。
「◎%※▼~:Φ<#&=*T◇↓↓↓●!!」
そして当然、キーナが派手に悲鳴を上げた。




