キ:サーカスを観に行こう
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今日の僕らは、『ハニカムサーカス団』さん達がやってるサーカスの公演を観に行きます。
トゥティノコゥを探しに行って『インターネット老人会』さんの拠点で色々あった日。
サーカス団の『蝶ネクタイ紳士』さんが僕にガバッと頭を下げて言ったのだ。
『戦闘中に召喚していた蝶について! 詳しい事を教えていただけませんか!?』
なんかね、ブワーッて飛ぶ大量のキラキラした蝶が、ものすごくサーカスとシナジーありそうって事で。サーカスの召喚担当としては見逃せなかったんだって。
『お蝶紳士、告白でもしちゃうかと思った』ってピエロさんは言ってた。
紳士さんはそれにちょっと怒ってたけど、そう思ったのはピエロさんだけじゃなかった。なんなら相棒もそう思ってた。だからピエロさんは悪くない。
で、肝心の霊蝶ちゃんはというと、僕に引っ付いてた1匹がそのまま群長に変化してお話し合い。
『そもサーカスって何?』という問いに、紳士さんは『たくさんの人を楽しませるもの』って返答をした。
そうしたら『サーカスを観てみて、楽しかったら契約する』って話になってた。
契約済の召喚対象にプレイヤーを仲介にして話をすると、大抵は『よかろう、彼の地へ赴き力を示してみせよ』って感じに試験会場の場所を伝えられるんだけど。時々こうやって戦闘じゃない条件が提示される事があるんだって。
相棒は主ナイズの影響じゃないかって言ってたけどね。
僕もちょっとそんな気はするけどね。
そういうわけで、僕らは霊蝶ちゃんと一緒に、秋イベントで公演するサーカスに御招待を受けたのだった。
なんと! 特別優待券!
列に並ばず裏から特等席へ入れるし、ショーの終了後にステージ裏を見学できるよ!
「いやぁ棚ボタだね!」
「……あわよくばクランに引き込みたいんだろうなって感じもする」
まぁそれもあるかもねぇ。
クランには入らないけど。
僕等は夫婦でのんびり遊べればそれで充分。
今回は霊蝶ちゃんの関係でもらったチケットだから、ジャック達はお留守番です。
さすがに召喚契約と関係ない子達の分までチケット要求したくないし。うちの子達はまた今度、別の機会に連れて行こう。
ネビュラとベロニカも拠点待機。
戦闘は無いし。連れて行ったら目立ちそう。
いざとなったら相棒はネビュラを呼びだせるしね。
僕も連れて行くオバケは、首飾りのネモだけ。
「これ食べたら準備しよう」
「うん」
今日のゲーム内朝食は、トゥティノコゥ肉を味をつけて焼いてレタスと挟んだバーガーです。
「トゥティノコゥ本当美味しいんだけど……っ! なんだろうこの……鶏肉の旨味増やしてジューシーにしてるのにクドくない、ヘルシー感すらあってサッパリしてるのにどっしり食べ応えも感じる意味わかんないお肉!」
「プレイヤー露店でめちゃくちゃ高騰してるって」
「やっぱりー?」
βの時は肉以外の素材も優秀だったんだけど、正サではドロップが肉のみになったんだって。だから完全に秋の味覚扱い。
貰って来た後、拠点の皆で焼いて食べたらあんまりにも美味しくて。
ジャック達は僕らの拠点の周りにもいないかって探しに行くようになった。
今のところいないみたいでちょっと悔しがってたりする。
* * *
今更だけど、秋のイベントは『食欲の秋』『スポーツの秋』『芸術の秋』っていう三本柱みたいな感じになっている。
『食欲の秋』は、作物や料理のコンテスト。これはイベント開始の挨拶もあったメインステージがある広場で行われる。
『スポーツの秋』はラリーストライクを筆頭に、戦闘とは違う競技の大会が闘技場やフィールドを使って行われる。
そして『芸術の秋』。
これはなんと、プレイヤー居住区画の空きスペースが全部会場になっている。
第一防壁と第二防壁の間はまだまだスカスカだからね。
そこに希望者が自前で仮設展示場を作ったりステージを作ったりして芸術活動の発表をしているのだ。
サクラなのか、NPCの画家や吟遊詩人も参加するし。NPCのお貴族様が将来有望な芸術家の卵を探しに来たりもしてるんだって。
ゲームだから、どんなに隣で賑やかにライブをしていても、プレイヤーの家の中は設定次第で無音にできるから、騒音の心配は大丈夫。
招待を受けたサーカスも、この『芸術の秋』枠で公演をしてるから、今日の目的地はここ。
二人で森夫婦に変装して……イベントで人が多いだろうから、手を繋いでからそれぞれ透明状態になっておく。
そしてピリオノートに転移。
ふっふっふ……透明人間は便利だねぇ!
誰にも注目されないまま、僕らは出店の無い路地に入って門を目指す。
(これが出来るなら接触が許可制じゃないとダメなゲームだよねぇ)
(本当にそう)
なお、最近のゲームはNPC相手だろうと不埒な事をすると、その場で腕をねじりあげられて取っ捕まります。
普通にBAN対象だし、あんまり悪質だとリアルで通報されるよ! そういう事はそういう事用に作られてるゲームでやってね!
さて、やって来たプレイヤー居住区画。
サーカスのテントはわかりやすく派手で大きいから迷いようがない。
六角形の金色飾りがキラキラしてるテントへ向かう。
(おー、めっちゃ人並んでる)
(NPCも多いな)
(貴族っぽいのもいるねぇ)
僕等は特別優待券があるので、チケットに書かれてる通り裏口に回る。
……たぶんここかな?
透明化を解除。
テントはノックできないから……中を覗き込んで声をかけてみた。
「こんにちはー……」
「ハァーイ! お待ちしておりまーしたー!!」
「ワァアッ!?」
天井からバサッと逆さまに降って来たのはピエロさん。
ビックリする僕。
そして光学迷彩でスゥ……ッと消えていく相棒。
「消えるのが早ーい!? 心の距離があまりにも遠くないですかぁー!?」
気質の距離があまりにも遠いからね、仕方ないね。




