キ:駆け付けた援軍
僕は視界の端にド派手な金色が突然入り込んで、ビックリしてそっちを向いた。
屋根の上の細ーい部分になんでもないみたいに立っていたのは、ついこの前ラリーストライク大会で見た金色と紺色の道化衣装。
「あれー!? ウッソでしょマーベラス! 森夫婦じゃん!?」
あれー? は割とこっちのセリフなんだけどな。
「えっと、元写真家さんのお孫さんがピエロさんですか?」
「残念大ハズレ。それはうちの有望な錬金術師兼魔道具職人のカールトン君でございます」
誰?
でも『うちの』って事は、同じクランか何かなのかな?
って事は、『孫関係の援軍』はこの人でよさそう?
なんて思って周りを見れば、さっきまでいなかった金色メインに紺色でラインを描いたド派手衣装の人達が8人……プラス象が! オーブの近くに転移してきていた。
その中の一人。
めっちゃスタイルの良い迫力美人な金髪の女性が。
ロングスカートのスリットから脚を覗かせつつ、手にした革製の長い鞭をパンッと伸ばして打ち鳴らす。
「総員、モードチェンジ」
「「「「「「「イエス、マム!」」」」」」」
綺麗に揃った応答と同時に、援軍さん達の衣装が切り替わる。
金色をメインに紺色を混ぜていた、装飾満載の華やか衣装から
紺色をメインに金色で攻撃的なラインを描いた、衣装の名残を残す軽鎧へ
まるで蜜蜂からスズメバチに変身したかのような装備替え!
(なに今のカッコイイー!!)
(戦隊とは違った方向性の変身ヒーローっぽかったな)
ちょっと現代ファンタジーの特殊部隊みがあったね!
厨二心がうずきます!
大変すばらしい!
「あれ? 爺様、いつもより壊れてなくない?」
「うむ、あそこにいる御客人が活躍してくれてな」
「へー……って森夫婦じゃん!?」
どうも森夫婦です。
援軍さん達は一瞬僕らにビックリしてたけど、まぁゴリラだらけでそれどころじゃないから、すぐに散ってそれぞれがゴリラを片付け始めた。
蝶ネクタイとスーツにシルクハットの男性は召喚術で猫やスライムを呼びだして攻撃。
バレリーナっぽい衣装の人はダンサー系なのかな? リズムを刻みながらくるくる踊りつつ手足に仕込んだ刃物で切り刻む。
他にもでっかいフラフープみたいな武器で殴ったり投げたり。
一人、バカでかい鉄球を伸びてる鎖で振り回そうとしたら「外でやれギョッピー!!」って怒られて「草」って言いながら外に行った人がいたけど。
どれもこれもサーカス感があって面白い戦闘だねぇ。
あと傭兵団って言ってただけあって、みんな強い!
リーダーっぽい迫力美人女性も象に指示を出しながら自分も鞭でゴリラをしばき回して……あ、違う。そのしばき回してるゴリラ、パーティハット被ってる。従魔ですね!?
そして鞭打たれてるゴリラはゴリラで、めっちゃ嬉しそうな顔しながら戦ってる。えー……?
そしてその中でも一番動きがすごいのはピエロさんだった。
ナイフ投げて戦ってるんだけど、全部ゴリラの眉間に百発百中。
ラリーストライクの時もそうだったけど、コントロール力がはんぱない。
そしてナイフ何本出てくるんだろ?
ゴリラが消えた後に残ってるナイフは、とりあえずほったらかしなんだよね。インベントリの半分くらいナイフだったりしそう。
(よし、盛り返したしさっさと片付けるか)
(はーい)
やっぱり戦いは数だよ。
範囲攻撃でまとめて相手ができないならなおさら。
この状況なら、ゴリラの一部が激怒しちゃっても対処できるかな。
「【サモンネクロマンス:霊蝶の群長】!」
レベルが上がって増えたMPをがっつり使って、拠点全部とその外側までまとめて範囲に入れて霊蝶フィーバーだ!
地面から空へ向かって、虹色に煌めくガラスの蝶が大量に湧きだして飛んでいく。
うーん圧巻。
なんだろう……ニュースとかで見る虫の大量発生っぽく見える。
綺麗なファンタジー蝶々だからまだいいけど。これ苦手な人には地獄の光景かもしれない。
蝶ネクタイのシルクハットスーツさんも、ポカーンと口を開けて蝶の群れを見上げてた。
苦手だったらゴメンよ。
ゴリラ達は混乱したり昏倒したり、それぞれがランダムで精神デバフにかかっていく。
一部が激怒して暴れだすけど、そういうのはヤバイってすぐにわかるから援軍の人達も速やかに倒してくれた。
(良いな、明らかに物が飛んでこなくなった)
(ねー)
狙って投げるって、割と理性が必要だもんね。
一羽だけひらひらと僕の方に飛んできて杖に止まった蝶をツンツンとつつく。
相棒は元マタギさんに任された通りに、ガンガン防壁の外のゴリラを撃ち続けていた。
ゴリラそのものが飛んでこなくなったなら、一方的に打てる相棒の独壇場ですよ。カッコイイ。好き。
そしてそんな相棒を見ていたもうひとりはピエロさん。
「弓使い良いなぁ~! やっぱ傭兵として狙撃手は必要では?? ママー、弓使い勧誘しようよぉー!」
「良い人がいれば良いわよって言ってるじゃない」
「ココに良い人がいるじゃなぁ~い」
ココ、と言いながら相棒を指すピエロさん。
相棒は、サーカスの人達の目線が自分に向いているのを横目で確認すると……それ以上何か言われる前に光学迷彩マフラーのスイッチを入れた。
「消えたぁー!?」
スゥー……ッと消えていった相棒にショックを受けて崩れ落ちるピエロさん。
そんな道化を見て、サーカスの人達は口々に感想を述べ始める。
「まぁ無理だよな」
「すぐ人前から消えていなくなる森夫婦がサーカスとか」
「ないない、やるわけない」
うんうん。
サーカスは見るのは好きだけどね。
別にやりたくはないかな。
しかしピエロさんは諦めなかった。
「そんなぁ~! ねぇねぇ森の奥様ぁ~! サーカスとかご興味ございませんかぁ~!? お客様に夢を届けるステキな仕事でございますですよぉー! 今なら裏稼業is傭兵っていうチョイ悪なヒーロー要素もついてきて一粒で二度おいしい想いが出来ちゃいましてよぉ~!?」
腰の低い商人みたいに揉み手で迫ってくるピエロさん。
ん~、面白いは面白いんだけどね。
常にこのテンションはイヤだな! 疲れそう!
僕は相棒にならって、そっとネモに僕の姿を隠す指示を出した。
「消えたぁー!?」
バサササッとコウモリのシルエットで型抜きされるみたいに消えていった僕にショックを受けて大の字になるピエロさん。
「ママァー! 世界がピエロに厳しいよぉおおっ!!」
「そう、よかったわね」
「ママァー!?!?!?」
ぞんざいな扱いに吹き出しそうになりながら、ちょっと場所を移して戦闘の続き。
ほとんど消化試合みたいになってきたけど、まだゴリラ倒し終わってないからね。
そうしたら今度は反対側の防壁の向こう側でズドン!とすごい音がして、巨大ゼンマイがズルリと倒れていく。
「あ、武芸爺様もいたんだ?」
「森夫婦と翁が揃ってたの? ……え、俺達必要だった?」
必要だよ。
とっても必要だったよ。
数の暴力には数で挑みたいんだから、傭兵がそこを疑問に思わないでよ。




